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玩具

〜1〜

「これはなにかしら?」
姫が木箱の奥底へと手を伸ばす。
ほどなくして現れた物体に、僕は言葉を失った。
貿易の世界に潜りこんで早一年。
それは、これまで出会った中で最悪最凶の珍品だった。


床に座りこんだ僕の手には、木の棒が一本。
木工品と呼ぶには味気ない形だが、ただの棒きれではなさそうだ。表面は非常に丁寧に仕上げられているし、親近感もとい嫌悪感を抱かせる長さといい太さといい、先端の形状といい……用途は明白だ。
こんなものがつい先程まで、姫の手に握られていた。
あどけない横顔、つやつやと光る濃茶の物体。一目でその不調和に耐えられなくなり、僕は手を差しだした。
幸い、姫は素直にこいつを渡してくれたが――なぜこんなものがあの箱に――苦い思いは収まらない。
腐れ商人め――夜が明けたら一番に行って始末……いや、締めあげてやる。
近づいてくる柔らかい気配に首をめぐらせれば、姫が僕にすりよってきた。その仕草は可愛いが……目は僕の手元をじっと見つめている。彼女はこれがなんだか、本当にわかっていないのだろう。
わからなくていい――とは言いきれない。
今回は僕が相手だったから良かったが、次もそうとは限らない。
世の中にはこういった、悪趣味な物が存在するということを、知っておいてもらうべきだ――彼女の安全のために。
「そこ、まわりそうだわ」
ほっそりした指先が、禍々しい棒の一端をさす。
僕は小さく息をついてから、姫が示したつまみをひねりはじめた。
こんなものにゼンマイが仕込んであるとは……ずいぶんと凝った代物だ。
つまみをまわしきって放すと、棒は僕の手の上で小刻みに震えはじめた――不愉快だ。
姫を見やれば相変わらず、これがなんだか気づいていない様子。案の定、
「なにかの部品かしら?」
と箱の方へ戻っていこうとする。その手を後ろから掴んで引き留めた。
「いいよ、姫。今日はここまでにしよう」
でも、と動きかける唇。構わずに立ちあがり、あたりを照らす唯一の明かりを手に取った。
行こうと声をかければ、姫は渋々の体でついてくる。
向かう先はひとつだった。

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捏造の旋律

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