持ってきた明かりを寝室の壁に掛け、扉を後ろ手に閉める。
僕の方を気にし続ける姫が、こちらに背中を見せたところで後ろから抱きしめる。
顔を押し当てて長い髪をかきわけ、うなじに口づける。姫がふっと息を漏らした。
いつも通り、すっぽりと僕の胸に収まる、たおやかな身体。いつもと違うのは……。
淫猥な棒を姫の胸に軽く当て、ふくらみの頂へと滑らせる。
「リオウ?」
不思議そうに僕を呼ぶ、可愛い声。答える代わりに、棒に仕込まれたゼンマイのネジを巻く。
姫が戸惑いの声を上げたが、迷わずネジから手を離した。
「……っ……」
ぶるぶると震え始める木の棒。姫は息を呑み、大きく身を捩った。薄衣の上からの震動は、良く伝わっただろう。
「りっ……リオウ?」
「なぁに?」
姫は藻掻くけれど、そう易々と逃がすつもりはない。儀礼的な抗議なら、端から受け流すつもりだ。
動きの弱まった棒のネジを再び巻けば、姫はいっそう激しく暴れだした。
「リオウっ? ねえ、冗談はやめてっ」
「冗談? なんのことかな」
暗い部屋にバネが戻る音が響く。
「わかっ……ぁっ……てるくせに! それっ……そんなふうにつかっ……ぁうものじゃ……っ」
「そうかな。それほど間違ってはいないと思うけど?」
震動は、ゼンマイをいっぱいまで巻いても、あまり長続きしない。勢いの衰えはじめたそいつを姫の足の間へと滑らせたが、固く閉じられたそこに突きあたる頃には、すっかりおとなしくなっていた。
「リオウ、いや……」
僕の意図を察したのか、姫が弱々しく頭を振る。
「でもこれは、こうやって使うものだと思うよ?」
懇願は容赦なく切り捨てて、一度だけネジをまわす。
「……やあっ……ぁっ……」
ひと巻き分だから、たいした刺激ではなかったはず。だが反応は上々。
僕の手にある物は、すぐにただの棒きれに戻ったけれど、姫はびくびくと身を震わせ続ける。荒い吐息に、僕の好きな声色を濃く滲ませながら。……否定的な言葉の真偽は、次で見極めよう。
「こういうのは嫌いかな?」
「……いや……」
「本当に?」
棒の側面を姫の敏感な場所に触れさせたまま、かちりかちりとつまみをひねる。
姫が落ちつかなさそうに身動ぐ。――放しはしない。僕の腕を剥がそうとする力を受け流し、逆に絡めとっていく。
うなじへの口づけを繰りかえし、わななく身体を宥めながら、ぎりぎりまでネジを巻き上げる――解放する。
「あっ……! ……やっ……ぁあああっ!」
正直な声をあげて姫が仰け反る。
棒の刺激に踊らされ、伸びあがっては落ちてくる身体を、片手でしっかりと抱きとめる。その手で乳房に触れれば、薄衣の下に固く尖った感触があった。
暴れる棒を姫の下腹部で上下に滑らせると、やがて先端が姫の両足の間に入りこんだ。逃げるように腰を揺らしていた姫は、いつのまにか自分から足を開いていた。
震動が収まると、姫は肩で息をしながら、ぐったりとうなだれた。自分の下肢を窺うような仕草――そう見えなくもなかった。
「もっと欲しい?」
問いかけながら、耳朶を甘く噛む。胸のふくらみを撫であげ、その頂をつまみ、もったいをつけて揺らす。
姫は呼吸音以外、一切の声を漏らさず、ただ顔を背けた。
身体に直接問いかけるように、棒の先を両足の隙間で転がせば、腕の中で細身が震えた。
姫は棒を追い払おうとしない。足は軽く開いたまま。両手は僕の寝間着の袖をしっかりと掴んでいる。
態度は頑なだけど、身体は続きを待ち望んでいるように見える。さて、どうしたものか――。
以前から、少々不満に思っていたことがある。
姫はこういうとき、自分の望みを決して口に出さない。
直接的な表現を避けたがるのはわかる。だから僕も、本当に答えが欲しいときは、是か否だけで答えられるように質問している。
だけど返されるのはいつだって、慎ましい答え、もしくは僕に都合の良い答え。姫は終始、自分を押さえつけている。
そしてもっとも厄介なのが、欲しいか否かを尋ねた場合だ。淑女としての返答はつまり、僕が喜ばない返答。それを知っている姫は、口をつぐむという手段にでる。
愛しい姫の本当の望みは、よく見ていれば、だいたい察しがつく。たとえば今は――僕がこの棒のネジを巻き、小刻みな震動を蘇らせてあげれば、きっと悦ぶだろう。
でもたまに、判断に窮することもある。そういうときは、不本意だが、引き下がるしかない。
やはり欲しいものは欲しいと、はっきり言うようになってほしい。姫の嬉しそうな顔が見たいし、歓喜の声が聞きたいから。
今夜は言うまで続けてみようか――思いつきはすぐさま決意へと変わった。