「おそい」
声が聞こえたと思った瞬間、腹部に衝撃が走って機体が後方に飛ばされる。左腕のガードが間に合ったので壁に激突することはないだろうが衝撃の勢いを逃がしきれないため、このまま壁際まで追いやられるのは避けられない。
今までのパターンを考えれば相手はそのまま間髪いれずにこちらを追って来るだろう。そう算段して機体を飛ばされながらも自分がいた方向に向かってバスターを撃つ。しかし、その方向に既に相手はおらず、しまった!と上を見た。視界に映る鮮やかな赤。振りかざされる大きな黄色。壁際でようやく衝撃を止めた自分の機体。今度はガードも間に合いそうになかった。
「ぐっ…あ…っ!!」フラッシュが右腕を押さえて低く唸る。傑作と言われる所以の自武器は無残にも己の足元に転がっていた。
「さっきの、バスターじゃなくてタイムストッパーを使えば良かっただろう」
「…ハッ、いざ使ったら、大変なことになるのはお前だぜ?」
右腕の経路を遮断して排気を整えながら端正な顔を睨みつける。
クイックの表情はあまり表に出ないものの、その視線からは強い意志がみてとれた。
「それを乗り越えると言っている」
「タイムストッパーつかってテメェが動かなくなったら俺まで怒られンだよ。あーあ、でもストッパー使って無くても今回は怒られるな。バッサリ切り落としてくれやがって。これだから加減の知らねえ馬鹿と模擬戦闘するのは嫌なんだ」
「その右腕持ってくれるか。ああ、弱点武器に触るのは怖いんでしたっけぇ?」
「…そんなことはない」
一瞬躊躇した赤い右手が、足もとに転がっている白い右手を勢いよく掴んだ。
とたん、パネル部分にヒビが。
「!!お、ま、何してんだ」
「俺に拾わせようとしたお前が悪い」
「んだと!?」
クイックが出口に向かって歩いていく
シュンと扉が開くと、ちょうどメタルがこちらに向かって歩いてくるのがみえた。
「ああ、クイック、模擬戦は終わったんだね。さっきフラッシュからラボ開けといてくれって通信が」
クイックはフラッシュの方を促すように軽く一瞥しただけで何も言わずにメタルの横を通り過ぎる。
壁にもたれて座っているフラッシュの惨状をみたメタルが、怒りにクイックの名前を呼ぶときにはすでにトレーニングルームの扉は閉まっていた。
腕の切断はともかく、タイムストッパーの発動部分の復旧には日数を要するらしい。
その間俺は予備の右手を使うことになったのだが、タイムストッパーはもちろん、
バスターも何も付いていないものだった。必然的に任務には同行できなくなり、現場へ赴いてのデータ奪取の類は、同じくデータの扱いを得意とするスネークマンに代わってもらうこととなった。
「悪いな。そっちの仕事もあるんだろうに、こんなことになっちまって」
「いえ、問題ないですよ。メタルさんからも話は聞いてましたし」