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コレガナラ、
ハイラナイ

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Marin's Note
Web拍手


     
06.

 鉛筆で描いたらしいそのデッサン画の人物は伏せ目がちに俯いていて、言われてみれば自分によく似ている、と佑は思った。少年は絵を描く事が得意なのかもしれない。もっとも、いつもあんな無遠慮に眺めているのだから、特徴を掴んでいるのも当たり前のような気もする。少し高い位置から見下ろした感じで描かれているのは、電車の中で少年の視点が高いからだ。これで似ていなかったら不愉快さが倍増していたな、と佑は溜息をついた。
 溜息は×××に埋め込まれた振動のせいもある。気を許すと勃ちそうになる。少年はまた笑うに違いない。満員電車で、少年の手の中に射精したのを思い出すと息が詰まりそうになった。
 不意に少年が動き、佑は身体を強張らせて視線を素早く少年に戻した。
 腰掛けていたベッドから離れた少年は、床の上に放り投げたボディバッグの中から、透明のビニールに包まれた黒い塊を取り出して佑に見せた。
 少年の手の中にあるのは、30センチぐらいの長さの造形物だった。
「………?」
 佑にはそれが何なのか全くわからない。側に来た少年がビニールを取り払って黙って差し出したそれを、佑もまた無言で受け取った。
 強い消毒液の匂いがする。間近で眺めてみても、これは芸術作品なのか、それとも何かの目的の為に創られたものなのかまるで見当がつかない。
「…自分で創ったの?」と佑が呟くように訊ねると、少年はそうだと短く答えた。
(………。何だ、これは…?)
 しばらく見つめてみたけれど、やはり佑には理解できない作品だった。手の中の黒い塊は良いとも悪いとも感じられない、ただ不気味なだけだ。棒状の一端は髑髏と骨と肉片のようなものが混ざり合っていて、その間からグチャグチャに切り分けられた肉の塊のようなものが重って上へと伸びている。
 芸術は生と死の呪術的な行為から始まったと美術の授業で先生が話していたのを佑は思い出した。洞窟画の狩猟図は生存本能が造形行為として表れたものだ。でもその後、死が芸術になっていく詳しい話は断片的にしか憶えていない。墓とかヨーロッパの歴史的背景とか、授業の内容にそれほど興味を持たなかった。あの時先生は日本の地獄絵図も見せてくれたが、せっせと拷問に勤しむ鬼や苦しんでいる悪人の亡者たちを眺めるより、西洋のクラシカルな天使が雲間に漂う絵でも見たい気分だった。
(…それに、美術の成績…、B−“ビーマイナス”だし…)と、自分の才能の無さも作品の無理解に繋がっている気がしてきた。
 自分が創造の源と言われて正直悪い気はしないが、それでこの変な造形物が少年の手によって創り出されると思うと複雑だ。
 佑は穴が開くほど黒い塊のパーツの一つ一つを見つめた。全体を見てもわからないのに、細部を見ても理解できない。先端や棒状のパーツの角の部分が全て丸く作られていて、それが作品にはそぐわない気がして、一段と違和感を覚えた。
 造形物を握っている佑の手に、少年の長い指が重なった。
「何…?」
 驚いた佑は身体を強張らせる。
 少年は両手で佑の手を包んだ。佑がぎこちなく手を引こうとすると、そっと黒い塊を取り上げてベッドの上に置いた。もう片方の手はずっと佑の指を握ったままだ。
「放せ……」
 そう言って佑が見上げた少年は、ベッドの傍らの床に跪いて佑の手を顔に引き寄せ、縋るように両手で包むと自分の唇に押し付けた。
 佑の指先に少年の温かな唇が当たっている。唖然としながら佑は少年の様子を眺めていた。
 両膝をついて祈るような格好をしたまま、少年が声を絞り出した。
「毎朝、おまえの顔しか見られない。シャツの下の鎖骨、胸の厚み、内臓の納まっている柔らかい腹、○○○、×××、太腿、脹脛、足の甲の骨、指……、見せてくれ…、見たい…」
 言葉は滴る水のように静かに少年の口から漏れ出て、佑の頭と心の中を濡らしていった。いつまでたっても乾かない染みになりそうで、佑は真剣に求められることが怖くなりはじめた。
 少年は狂っているのかもしれないし、物を創る情熱が言わせているのかもしれない。
(でも…、創る物って…コレだし……)
 ベッドの上に転がっている黒い塊を佑はちらりと見て眩を覚えた。ローターがずっと身体の中で振動していて、すぐにでも取り出したい。我慢の限界だ。裸になれという少年の要求の本当の理由が何なのか早く知りたい気もした。
「レイプしたいから?」
 佑が唐突に訊いた。
 少年は両目を開けて、目を合わせず瞬きもせずに何かを考えている様子だったが、しばらくしてから身体を起こし、
「少し、違う」と答えた。
「少し…って……!?」
 力のこもった声で佑が訊き返すと、少年は片手を離した。
「レイプするのは俺のココじゃない」
 少年は親指で自分の股間を指し、それから指を自分の頭に向けて、「ココだ」と佑の目を見つめながら言った。
 佑はその言葉を聞いて、相手は自分が理解できない世界に住んでいるのだと思った。あるいは、理解する力が及ばない未知の相手だという気がした。理解しようとするなら、徒労に終わりそうなほどの努力をしなければならないだろう。だから自分と少年の世界の接点や接触は驚くほどに不愉快なものでしかない。関わり合うのが不自然なのだ。自分が何かを創造する者ならその不愉快さや奇異な行動を僅かでも理解したかもしれないが、少年の別世界は、たとえ覗いても何一つ納得できそうになかった。
(住む世界が違う人は理解できない……)
 これは佑が普段の生活で出している結論でもあった。父親の知り合いにはその手の人間が多い。社会的な地位も知識もある温厚そうな人間が、研究や物事を極めようとする目的の為に、人が変わってしまったかのようになって考えられないことを犯したりするのだ。
(●●研究者のAさんは、法律で禁止されている●●を日本に持ち込んで喜々として研究していたし、▲▲関係者のBさんは研究の為に自ら被験者になって危険なデータを取っていたし、■■に携わるCさんは輸入禁止品を海外からわざとうちの住所に送らせて父親を激怒させ、絶交されていたっけ…)
 父親を通じて覗き見た大人の世界には自分の世界を追及しすぎる人たちがたくさんいて、佑は敬遠したくなる。目の前にいる少年もまた、その一人だ。
 雪の降り積もる冬の庭で少年に出会ってしまったようなものだと感じた。
 この白く冷たいイメージはどこから来るのだろう? 誰かに警告されていたはずだった、と佑はそこまで思い出したが、その先は霧に包まれたように思考が曖昧になってしまう。
「頼むよ……」と呟く少年の声に、佑は思考の海から引き揚げられた。
 佑の指を握り締めた少年は、懇願する目を向けている。少しだけ可哀想な気がしたが、佑は電車の中の出来事を思い返し、振動を感じながら、
「殺してやりたいほど不愉快だ」と答えた。
 動揺や残念さの感情をわざと隠したような顔をして、少年が佑の指を握り直した。
「殺すのは、物が出来上がってからにしてくれないか」
 少年は口の端を上げて笑顔を作った。それを見ながら息を吸った佑は、
「は…ぁ…」と長い溜息をついた。
 服屋に医薬品を買いに行ってるようなものだ。そこに望むものは売っていない。そもそもが間違いで、こちらが納得できるような答えは引き出せない。自分は何を求めようとしたのか。
 佑は首を傾げた。
 ──自分は、何かを与えようとしたのではないのか、と。
 しかし、頭の中で渦巻く言葉を、振動が押し出してしまう。
「もう限界だ…」佑は根負けしたように表情を崩してうなだれた。「入れたの、出してくれよ…」疲れて泣きそうな声で呟いた。
 少年は顔を輝かせ、
「じゃあ脱げよ」と声を弾ませた。
「レイプしたら殺す…」
 佑が顔を歪ませて嫌そうに言っても、少年は、
「自分で脱ぐか? 脱がしてやろうか?」と訊いて、まったく取り合わない。ベッドの上に上がると佑の脚の間に入り、制服のズボンのベルトもボタンも外して素早くファスナーを下げていく。
 佑は痺れた頭でぼんやりとローターの刺激から解放されることを願っていた。
(いつでも…できる)
 そう思いながら顔を横に向けて、置いてある黒いマグカップを見た。
「俺を見ていろ」と少年が低い声で言った。
 唇を硬く引き結んで、佑は少年に視線を戻す。
「腰、上げろ
 ズボンに手をかけた少年が命令する。佑が後ろについた両手に体重を移動させてわずかに腰を上げると、少年はゆっくりとした動作でズボンとボクサーブリーフを足首まで下ろし、
「暴れるなら、ここで縛る」と、まるで何でもないことのように言った。
 佑は首を横に振った。ローターを取り出してもらうまでは、暴れるつもりはない。おとなしくなった佑を見てから、少年はズボンとブリーフを足先から剥ぎ取った。
 外気に晒されて剥き出しになったペニスを佑が両手で覆うと、
「隠すなよ」と少年が佑の手元を見つめたままで言った。「取り出してやらねぇ」
 しばらく迷ったように動いた佑の手が仕方なく元の位置に戻ると、少年は満足そうに笑い、
「獣の皮の剥ぎ方を知ってるか?」と少し饒舌になって訊いた。
 佑は瞬きを一回しただけで、黙っている。
(実行するか、今…、これから……?)
 しばらく迷い、少年の様子を伺うことにした。
「後ろ脚の…足首の周りの皮に、切り込みを入れて…」説明しながら、少年は親指と人差し指で作った輪を佑の右足首に填めるようにして擦り、「…上へ引っ張るんだ」と言って佑の靴下を引っ張って脱がせた。あらわになった佑の素足を眺め、足の指を一本ずつ摘んで撫でていく。儀式のように左足の靴下も脱がせて同じことを繰り返した。
 少年の目は真剣そのもので、薄笑いを浮かべた唇から繰り出される声だけが嬉しそうに弾んでいる。
「人間の皮を剥ぐ刑があるけど、実際はどうやるんだろうな」
 想像する楽しみに浸りながら少年が呟く。
「綺麗に剥ぐ方法があるんだろうか…」
 思案しながら、少年は佑の胸や肩を撫でるように制服のブレザーを脱がせた。
 佑は黙って少年の言葉を聞いている。ネクタイは簡単に緩められ、解かれて床の上に落ちた。ボタンを一つ一つ丁寧に外したシャツを脱がされ、シャツの下に着ていた灰色の長袖Tシャツも伸ばされた腕の先から剥ぎ取られていく。
 両脚を投げ出した格好で佑は上半身を起こし、真っ裸でベッドの上に座らされている。開いた脚の間にいる少年の食い入るような視線を全身に浴びて身体が硬直していた。
「見たなら、もういいだろ? 早く取ってくれよ…」
 声が震えそうになって、佑は喉に力を入れながら喋った。
「見えない」
 少年が答える。
「えっ……」と狼狽する佑の脚を、少年は抱えるようにして膝を立たせ、股を開かせた。
「やだよ、こんな格好…」
 佑は律儀に顔を背けないまま、すぐに膝を閉じて抗議した。
「ローターをずっと入れたままにしとくのか?」顔を覗き込み、弄るように少年が尋ねた。「取り出してほしいんだろ?」
「………」
 佑は少年を睨んだ。まだ意地悪して焦らすつもりなんだろうか。少年しか取り出せないことは無いんじゃないんだろうか?
「こんなの…、いつか…、自然に出る……よな?」
 つらそうな顔をしながら佑が言い返す。
「無理な場合もある」
 少年がわざと声の調子を落として否定した。
「…そう…なのか?」
 不安そうな顔で佑が訊いた。
「試すか?」
「…………」
「救急車は自分で呼べよ」
「…………」
 少年を睨みつけながら、佑は自分から膝を立てて脚を開いた。
「尻を突き出さないと、見えない」と言って少年が笑う。
 仕方なく、佑は両手をもっと後ろについて、×××が少年の目に晒される体勢になった。
 肘をついた少年は四肢を縮めた獣のように佑の脚の間にうずくまった。鼻先に、丁度佑の×××がある。
「震えてる」
 股間の辺りで少年の声がした。それから、その言葉の意味を知って、佑は全身が燃えるように熱くなった。立てた膝も、脚も、身体はどこも震えていない。×××だけがヒクヒクと震えているのを少年は間近で眺めているのだ。
 じっくりと見られるその恥ずかしさに佑は朦朧となりそうだった。ペニスを見られるより羞恥心が増して、そのせいで泣きたくなる。
「早く……しろ…」
 佑が急かす言葉も耳に入らないのか、少年は動かずにただ凝視している。
「……うぅ…っ」
 とうとう佑は堪えきれずにくぐもった悲鳴を漏らした。振動に耐えられずに足の指先に力が入り、恥ずかしさと異物が取れなくなる怖さと、粘りつく少年の視線に潰されそうだった。
「嫌がっているようには見えないけどな。いやらしく動いてる」と少年が明るい声で呑気に感想を述べた。
 その瞬間、佑は燃えるような羞恥と怒りを感じた。身体を起こして少年の顔を蹴ろうとしたが、それよりも早く少年の両手が佑の左右の足首を押さえ込んだ。相当な力で、足は固定されたように動かない。掴まれた手の中から抜こうとすると、足の裏はもっと強い力でベッドに押し付けられた。あまりの素早さに数秒間呆然とした佑が両手で少年を攻撃しようと思った時、今度は足首を上に引っ張られて態勢を崩され、柔らかなベッドに頭と背中をつけて、少年に足首を掴まれたまま脚を大きく開いている有様だった。
「足が目に当たって潰れても困るんだよ」
 咎めるように少年が言う。
 その声の冷たさに佑はまた理解できない世界を垣間見た気がして、怒りが萎んでいった。
「いつまで……見てる…? …さっさと…取れよ…」
 言いながら、佑の声は小さくなる。ローターの振動が声を奪っていく。
「取ってやるけどな、もう暴れるなよ」
 仕方がないといった感じで呟いた少年は、掴んでいる佑の足首をベッドに下ろし、さっきよりも大きく開かせた。太腿の内側が張り、×××の奥でローターの当たる感触に佑は思わず、
「あぅ…」と上擦った声を漏らして目を潤ませる。
 少年の指が、佑の×××に触れた。
「…!!」
 弾かれたように佑は背を起こして少年を睨みつけた。そして、無言のまま、次第にあきらめた表情になっていた。
「そう。触らなきゃ、取れないからなぁ」わざとらしく抑揚をつけて言いながら、少年は指先で×××の周りを擦り始める。「なあ、何か言えよ」
 佑は「死ね」と吐き捨ててから、硬く口を噤んだ。力を入れた唇が微かに震えている。潤んだ目で睨みつけ、呼吸が乱れて贅肉の薄い腹が上下していた。
「何だよ、また“死ね”か…」意地悪く笑った少年は、「じゃあこっちに訊いてみるか」と言って、両手の指で×××の襞を伸ばしながら、人差し指で器用に中心をつついた。
「っ……」
 それでも佑は何も言わず、つらそうに顔をしかめただけで、×××をすぼめて腰をよじらせる。
「もっといじってほしいんだよな? こうやって」
 嘲笑うように、指は×××の襞を押し広げるように揉み解していく。佑は両手でシーツを握り締め、深く息を吸い込んだ。
「なあ? 気持ちよくなってきたんだろ?」
 撫で続けると、やがて×××は堪えきれずに力を緩めたり、刺激に合わせてすぼめたりして、息づくように喘ぎはじめた。
「大声で泣いてみろよ?」
「……や…、…ぁ…」
 しんとした部屋の中に、佑の乱れた呼吸と、言葉にならない声だけが響く。
「何だ? …喋れないのか?」
「…早…く…」
 羞恥に染まった顔で佑は懇願した。
 少年は、その顔にしばらく見惚れながら指先を執拗に動かしていた。


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