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07. |
足許に座った澄水人は、俺の両膝に交互にキスした。そして、冷たい手を膝の間に入れた。
「な…に…するんだ……!?」
「教えてあげるって言ったでしょう?」
膝を閉じようとすると、頭が入ってきて太腿の内側を舐められた。
「あっ…」
足の指先に力が入り、鎖が音を立てる。
「ちゃんと開かないと、左足にも足枷を填めます」
唇をくっつけたまま囁かれた言葉に、俺は抵抗できなくなってしまった。これ以上自由を奪われると逃げるのに不利だ。足首を掴まれると、また鎖の音がした。それに恐怖心を煽られ、怯えながら大きく脚を広げられた。
どうしよう……死ぬ気で一回ヤられて、澄水人を油断させた方が良いだろうか? 油断したら逃げるチャンスも生まれるだろうか?
「この鎖は先輩の力では切れないですからね。おとなしくしていて下さい。あ、そうだ…」と、澄水人が思いついたように呟く。「×××がよく見えるようにしてあげないとね」
繋がれて、心までも拘束されたような感じだった。暴れた挙句、逃げ場がなくなり部屋の隅に追い込まれて撲殺された自分を想像してしまった。生き延びることが先決だと俺は判断した。過去の後悔もその判断を後押ししていた。
仰向けになっている俺の腰の下に、澄水人が枕を入れた。腰の位置が高くなって、澄水人の目に×××が晒されていると思うだけで、顔が熱くなる。まくられたコートが背中でくしゃくしゃになっていて、素肌に擦れて痛い。なんで俺は今日に限って、こんなゴワゴワしたコートを着てしまったんだろうと頭の片隅でバカみたいなことを泣きながら考えた。
「今から、入れてあげます」
目を輝かせながら澄水人がオモチャの先端を口に含んだ。俺は必死に頭を上げて、澄水人が次に何をするのかを見ていた。
「このくらい濡れていたら、いいでしょう?」
口から出したオモチャの先端を見て、澄水人はにやりと笑った。
「…ね? こんな感じです。どうですか?」
先端が×××に当たり、周りを蠢いた。
「ひっ……」
それは堅く、人肌ほどの温度もなく、澄水人の唾液にまみれたせいか、滑らかに×××のまわりでゆっくりと円を描いている。
「先輩も自分の×××が見えたらいいのにねえ。そうしたら、自分がどれだけこれを欲しがってるか、よくわかるのに。僕が、一番先端から順番に一つずつ入れてあげます。だから先輩も、ちゃんと飲み込む努力をしてくださいね」
澄水人がオモチャを持った手首をゆっくり捻った。それにあわせて先端が回転しながら身体の中に入ろうとしてくるのがわかった。
「ああっ……」
のけぞって膝を閉じようとしても、冷たい手がそれをさせなかった。
「だめ。脚は大きく開いたままにしてないと。まだ一個も入ってないんだから。一個目を飲み込んだら楽になるって、さっき言ったでしょう? 少し細くなってるからね。ほら、力を抜いて……。そう……その調子……飲み込むの、とっても上手ですよ。少しずつ入っていってるの、わかりますか? ああ…やっと、一個目が入りました……」
身体の中に異物が侵入している感覚が、痛みよりも他の感覚をつれてやってきている。俺は認めたくなかった。信じられない。俺が×××で、あのビー玉の大きさを咥えこんでいるなんて。
「今度は二個目。少し大きいけど、最初のが飲み込めたんだから、これもできますよ。いいですか? ゆっくり入れてあげるから」
「ひぃっ……あぁ…っ…」
「ほら、力を入れたら駄目だって言ったのに。そんなに締めつけたら入らないでしょう。ねえ、さっきは上手だったのに、どうして二個目はうまく飲み込めないの? ちゃんとできますよね? 力を抜いて…」
数本の冷たい指が×××の周りを撫で、何度も軽く押した。異物の感覚がよけいに鋭くなって、内と外の刺激に気が遠くなりかけた。
「もう少しで二個目が全部入りますよ。……ああ、入った」
「はぁ…っ……、はぁ……」
俺は涙を浮かべながら、口で呼吸していた。
「また少し楽になったでしょう?」
身体を動かしたときに異物に刺激されないよう気をつけながら、「ならねぇって…」と、俺は小さく首を横に振った。
「楽じゃないの? 細いといっても、一個目を飲み込んだ時よりは太くなってますからね。でも、慣れてくれないと意味が無いもの。三個目はもっと大きいですよ」
「やめろ…!」
澄水人は容赦なく手首を捻りながら、次の球体を押し込みはじめた。
「あぁっ……やっ…やめ……はぁっ…」
「やだな、先輩。やめてほしいわけじゃないでしょう? だって自分から上手に飲み込んでる。ほら、半分まで入りましたよ。あともう少し……。ほら……できた。先輩、もう三個も飲み込んでますよ。もっと時間がかかると思ってたけど、とっても上手ですね。×××がヒクヒクしてる。先輩にも見せてあげたいな。すぐに嫌だとか、やめてとか言うけど、そんなの全部嘘だってすぐわかりますよ……気持ちいいんですよね?」
回転していた異物が、ゆっくりと引き抜かれようとした。また×××が広がっていく。
「あぅっ……」
「抜いてあげましょうか?」
澄水人が楽しそうな声で言った。
「返事が無いけど……いいんですか、抜かなくても? それじゃあ、二個目と三個目の間まで、戻してあげますね」
ゆっくりと異物が引き抜かれ始める。広がっていた×××が少し楽になった。けれどもそれは束の間で、澄水人は「もう、おしまい。ほら、もう一度、三個目を飲み込んでください」と言って、引き抜いたオモチャをもう一度、突っ込んだ。
「ひっ…ああぁっ……!!」
回転もなく体内に異物が侵入してくる感覚に、俺は叫んだ。
「もう、大袈裟ですね、先輩は。これに慣れてくれなきゃね。だって、僕のは回転しながら入れられないもの」
自分の言葉がよほど可笑しかったらしく、澄水人は声をあげて笑った。オモチャから手を離していないのか、奴が動くたびに異物にも振動が伝わって、頭の中がぼうっと痺れはじめた。
「先輩、今、も、もっと、欲しそうに、ヒク、ついてる」澄水人は呼吸を整えながら言った。「今から、先輩のしてほしいこと、してあげます。最初の一個目は入れたままにしておくから、三個目のところまで、入れたり出したりしてあげます」
澄水人は言葉通りに何度もそれを繰り返した。泣いてやめて欲しいと言っているのに、俺のペニスは堅くなっていって、他のことが考えられないほど頭は混乱していった。自分の体内で蠢く異物の感覚だけが欲しかった。
「感じてるんですね」
澄水人が訊く。俺は答えられない。
「どうして黙ってるの? 感じてるんでしょう?」
俺は恥ずかしすぎて何も言えない。
「正直に言わないと、もう、してあげない」
澄水人が意地悪く言って、俺の×××にオモチャを突っ込んだまま、身体を離した。
「もっと、して欲しい?」
俺は頷けなかった。澄水人がまた足許に座ってオモチャに手をかけて欲しいと思いながら、唇を噛み、視線を天井に向けていた。
「欲しいんでしょう? いつまでたっても素直に言えないんですね。本当は、今、飲み込んでるのより、もっと大きな四個目をねじ込んで欲しいんでしょう? それを飲み込んだら、次は、もっともっと大きい五個目も欲しいって思ってるんですよね?」
澄水人は笑みを浮かべて俺の顔を覗き込んだ。そして、俺の額に銃口を突きつけた。
不思議と、銃口の冷たさを感じても、死の恐怖はあまり感じなかった。俺は澄水人の言葉通りのことを願っているのかもしれない。
「動いたら、撃ちますよ」
澄水人は銃口を押し付けたまま、もう片方の手で俺の手首を触っている。突然、手首は戒めから解放された。
「ベルトを解いてあげたから、ゆっくり上半身を起こしてください」
銃口の暗い穴を見つめながら、俺は自由になった手を使って身体を起こした。手首が痺れて腕が震える。×××に入ったままの異物の感触に、顔が歪む。
「コートを脱いで」
その命令に俺はためらった。全裸になってしまうことに、ひどく抵抗があった。
「邪魔なんですよ、それ。Tシャツもね。早く。…続きがしたくないんですか?」
唇の端に笑いを浮かべて、澄水人が片手でオモチャの先端を押した。
「うぁっ……」
思わず顎が上がり、身体が後ろに反り返る。
「先輩だって、したいんでしょう? こんなになってる……。ねえ?」
澄水人の指がゆっくりと、上を向いた俺のペニスの先端を撫で回した。その刺激を身体全体で感じながら、俺は操られるようにコートの袖から腕を抜き、破られて布きれみたいになったTシャツも脱いだ。そして、差し出された澄水人の手にそれを渡した。澄水人は満足そうな顔をして床に放り投げ、
「また縛るから、両手を前へ出して」と冷たく命令した。
言葉のままに、俺は両手を差し出していた。澄水人が銃をシーツの上に置いた時も、俺は黙って見ていた。抵抗したところで、右足はまだ鎖に繋がれている。どうせ逃げられやしない、と自分に言い聞かせているうちに、両手首は再びベルトで縛られた。
「せっかく腕が動かせるようになったから、今度は自分で飲み込んでみたらどうです?」
澄水人は俺の手首を掴み、オモチャを握らせた。それからシーツの上の銃を手にして俺から離れると、ベッドの反対側のフレームに背をもたれた。俺と澄水人は向かい合う形になった。
「今はね、三個目まで入ってます。ほら、四個目が欲しいなら、自分でして、飲み込んで。僕はここで見てるから」
脚を開いてオモチャを突っ込んだまま、それを握らされている自分がどうしようもなく恥ずかしくて、指が動かせない。俺は顔を背けて両目を閉じた。
「ねえ、言うことをきいて、早くやって見せて」
苛立ちを含んだ澄水人の声が聞こえた。俺はそれを合図のように、もっと顔を背けて、指に力を入れ、自分の内部へとオモチャを侵入させた。
「…あっ…うぅっ…」
「上手に飲み込めてるじゃないですか」
笑われながら、恥ずかしさから逃げるように、俺は×××の感覚に身をまかせていった。
「もう少しで全部飲み込めますよ……ほら、ね。すごいですね、四個目まで入ってる。今度は自分で、今入れたのを出してみて。そう、もっとゆっくり吐き出してみせて。脚を閉じてはだめ。もっと開いて」
枕の上に座っている俺は、背中を曲げて、不安定な格好でオモチャを出してみせた。命令と感覚が、今のすべてだった。遮断している視界には何も映らない。澄水人の声と、貪る感覚があるだけだ。
「ほら、もう一度、飲み込んで」「もう一度、出して」「もう一度、飲み込んで」「もう一度、吐き出してみせて」
もう一度、もう一度……何度その声を聞いただろう。
今、澄水人は、もっと早く、もっと早くしてみせて、と囁くように言っている。足の指先に力がずっと入りっぱなしだ。手の動きが早くなる。自分でも、そうしたいからだ。もっと早く、もっと早く、もっと早く──。身体が後ろへ倒れた。それでも手は動かし続けていた。
「我慢しないで、イっちゃえば?」
澄水人が言い終わらないうちに、俺は射精した。
「はぁ……はぁ……」
呼吸するたびに上下に揺れる自分の腹の上に両手を乗せて、俺は解放感と屈辱を味わって静かに泣いた。オモチャを突っ込んだまま、涙が両耳へ流れていくのを感じていた。殺されるからやったのか、それとも違うのか、今は考えたくなかった。
オモチャを抜こうとして手をかけると、すぐに澄水人が、
「抜いたら駄目!」と言った。
「入れたまま、俯せになって。腰を高く持ち上げて。僕によく見えるように」
涙を拭う間もなく、俺は俯せになった。鎖の音に鳥肌が立って、顔を押し付けたシーツに身体が沈みそうになったとき、腰に冷たい手が触れた。澄水人の手が、俺の腰を持ち上げ、膝を大きく左右に割った。
「腕を伸ばして。手首を膝の間に持っていって。×××に入りっぱなしのモノを、自分でもっと押し込んでみせて。だってまだ、四個しか飲み込んでないでしょう? ……できないの? 僕が手伝ってあげましょうか?」
身体の中で強引に、オモチャが回転した。頭の中にまで、何かをねじ込まれた感覚がして、俺は呻き続けた。
「どう?」
「はぁっ…あぁぁ…」
「どう? 気持ちがいい? ねえ、教えて」
「…す…澄水人……、も…う……、ゆ…る…し……」
「赦してほしいの? 早すぎますよ。これ、全部飲み込んでくれないと」
「も……や…め……」
「何度言えばわかるんですか? 嘘はやめてほしい。ほら、こんなに簡単に飲み込んでしまうくせに」
「ひっ…いぃっ──」
食いしばった歯の間から、長い悲鳴が漏れた。澄水人は少し乱暴にオモチャを出し入れして、動きを止めようとはしなかった。俺は身体が無くなって、感覚だけの生き物になってしまったみたいだった。×××に突っ込んだオモチャを動かしながら、澄水人のもう片方の手は同じ激しさで俺のペニスをしごいた。
「あぁっ……や…っ…」
「ほら、我慢しないで、もうイッていいですよ」
「あぁぁ──」
澄水人の手の中に射精すると、×××からもオモチャが引き抜かれた。その感覚に全身を貫かれ、俺はまた悲鳴を上げた。それでも身体が満足していることを俺は自分でもわかっていた。
膝にかかる身体の重みが痛くて、俺は横に倒れた。目に澄水人の顔が映る。奴は無言で、汚れた指先を嬉しそうに舐めていた。部屋の中は撒き散らした精子の匂いがしている。澄水人がそっと、俺の側に横たわった。
俺は、澄水人の胸に頭を押し付けた形で無理やり抱かれた。乳首にはリングピアスがはまっていて、それが俺の目の下あたりに当たって気持ちが悪い。左胸の趣味の悪いタトゥーも間近で見ると緻密な絵柄で、奇妙な魅力を持っている。髑髏は肉片が残っていて、口に咥えた赤い薔薇の花もしおれかけている。ぽっかりと空いた空洞のような黒い眼窩から這い出す蛇、髑髏の後ろに生えている鋭い棘の生えた蔓。不思議にも、綺麗な絵だと感じる一方で、本当に呪う力を持っているように思える……。このタトゥーは、俺への復讐心の表れなのか……?
「もう疲れたんですか?」と頭の上で澄水人が訊いた。頭の動きは鈍くなっている。
「このまま眠ってしまったら、勝手に入れさせてもらいますよ?」
「うるせぇ……」
身体が柔らかなシーツに沈んでいくような気がした。
眠たい──。このまま寝てしまったら、目覚めないかもしれない──そんな思いに囚われた。
身体は重く、目蓋すら開けられない。
闇──静寂の中の闇。
ダメだ、ここにずっといるわけには、いかない。
どっちに行けばいい?
永遠に、出口が見つけられないかもしれない。そう思ったとき──。
突然、記憶の引出が一つ開いた。
波の音がする──。
人影の無い砂浜は、まるで俺たちの領土のように二人きりだ。
打ち上げられた流木を見つけて腰掛けると、俺は他にすることもなく、缶ジュースを飲みながら海を眺めていた。
去年の夏、何度か遊んだこの場所に来てみたくなったのは、引っ越す前の感傷なのかもしれない。
澄水人は打ち寄せる波から逃げたりして一人ではしゃいでいる。時々振り向いては俺がいるのを確認し、目を合わせて微笑んだ。
二人で海に来るつもりなんてなかった。
気紛れに「おまえも行くか?」と訊いた時の澄水人の顔があまりにも嬉しそうだったから、いつもみたいに「冗談だ」と突き放せなくなって、電車を乗り継いでここまでやって来た。
潮風がきつくて、少し寒い。
太陽が沈みはじめている。きらきら光っていた波の輝きが衰えていくと、俺の中にいつも巣食っている不安が染みを広げていった。解放的な空間も、置き去りにされたような寂しさに溢れている。世界は俺たちだけを残して消滅してしまったのかもしれない。
そんなとりとめもないことを考えていると、澄水人が横に腰掛けて、軽く握った拳を上に向けて差し出した。
「何だよ?」
「当ててみて」
知るかよ、と吐き捨てると、白い指が花のように開き、数枚の貝殻があらわれた。
「桜貝」と答えた澄水人の楽しそうな声が耳障りだ。
「ケッ、そんなにたくさん拾ってどうすんだよ?」
「小さな瓶に入れておくの」
澄水人は取り出した清潔そうなハンカチに貝殻を包み、真っ直ぐに俺を見て微笑んだ。
明日になれば引っ越してしまうことを、俺はまだ告げていない。明日、この笑顔は泣き顔に変わるんだろうな。
初めて俺は、心の中で良心ってヤツが芽生えたのを感じていた。そして、澄水人が燃え落ちる夕陽に顔を輝かせて、
「また連れてきてください」と小さな声で言った時、心臓に氷の杭を打ち込まれたような痛みを感じた。
俺は戸惑ってしまい、どうしていいのかわからなかった。
こんな気持ちになるくらいなら、二度と澄水人に優しくするもんか──。
「帰る」
俺は立ち上がると、自分の影を追うように駅へと向かって歩き出した。
翌朝、俺は黙って引っ越した。
新しい生活に、たくさんの不安を抱えながら──。
引出から溢れたオレンジ色の光が風景に滴り落ちて、すべてを染めていく。
光の中で、澄水人が俺を探して泣いている。
これは夢だ。電車を降りて、駅で別れてから、二度と澄水人に会っていないはずだから。
澄水人の心臓には氷の杭が突き刺さっている。
……俺が打ち込んだのか…それを?
赦してほしい──。
あんなふうに別れるべきじゃなかった──。
「泣きながら眠ってはいけない。こんなに目蓋が腫れて…。ああ、綺麗な目が不細工だ……」
どこからか、不機嫌そうな澄水人の声がした。
夢は、そこで途切れた。
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