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IN
GLOVE

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Marin's Note
Web拍手


     
10.

「ああ…先輩、無事でよかった……!!」
 部屋に二人きりになると、澄水人は駆け寄ってきて跪き、壁際で震える俺に向かって両手を広げた。
「さ、さわ…」……触るなと叫ぶ前に、鼻が潰れるかと思うほどの力で抱きしめられた。息ができない苦しさを、ひたすら呻いて抗議しているのに、何も聞こえていないらしい。続けて、力まかせに頬ずりされた。
「可哀相に、こんなに震えて…。部屋には絶対入るなと言いつけておいたのに、あの番犬!! 怖かったでしょう? もう大丈夫ですからね……」
 お…、俺が一番怖いのは……おまえだ!!
 おまえは自分の怒りのために平気で人を殺すんだ、それも、自分でも気づかないうちに……!! 二人きりのこの部屋でおまえを怒らせたら、俺は確実に死ぬ。止めてくれる人なんて誰もいやしない……。
「二度と先輩に近付けないように、……今から殺してやろうか、あの番犬…!」
 耳元で澄水人が低く囁いた。まるで人間の形をした別の生き物が唸ったようで、恐ろしさのあまり俺の身体がまた震えだした。どうしてそんな簡単に『殺す』とか言うんだよ、おまえは……?
 男が蹴られていた場面が脳裏に蘇り、澄水人を理解するなんて永遠に不可能だと感じた。でも、男は俺のせいで暴行を受けたのだ。このまま黙っているわけにもいかない。以前の俺も澄水人と似たような勢いでケンカして、殴れば悲しむ親や家族が相手にもいると考えられるようになったのは最近だから、エラそうなことは言えないけれど…澄水人の姿は以前の俺を見ているようで、つらい。
「…す、す…」舌がもつれてうまく言えない。「…澄水人、約束してくれ……」
「何をですか?」
 おとなしく話を聞くつもりなのか、澄水人は頬をくっつけたままじっとしている。
「…あの…男の人に、もう…あんな暴力は…ふるわないでくれ…」
「どうしてっ !?」
 顔を離した澄水人は、噛みつきそうな勢いで俺を見て、激しく揺さぶった。脳味噌がシェイクされそうだ。
「あいつは部屋に忍び込んだんですよ !? 綺麗な先輩に近付いただけでも赦せないのに、襲おうとしたんですよ !? 当然の罰だ!」
「ち、違う違う違う ! !」
 頭と視界がガクガク揺れながらも否定すると、今度は二の腕を掴まれた。
「じゃあ、この痕は何 !?」
「え?」
 腕を見ると、男と格闘して擦れた皮膚が赤い痕になって残っていた。
「番犬がつけたんだ! 違うの? 襲われたんじゃないの !?」
「お、俺は…襲われたわけじゃ…」
「嘘だっ! どうして番犬をかばうの? 二人で何をしていたの!? 先輩はああいう男が好きなんですかっ!?」
 どういう思考回路をしているんだ、コイツは? なんで俺が初対面の男といきなり何かしなきゃならないんだ ! !
「お、落ち着けって! あっ、あの人は、俺が、その…スタンドを投げて割ってしまって……ごめん……もう一つ割ろうとした俺を、止めようとして…、部屋に入って…」
「本当にっ !? 襲われてできた痕じゃなくて !?」
「ご、誤解だ…」
 …そこまで妄想するなら、俺に服くらい着せておけバカ!!
「おまえ……さっき見ただろ? あの人、袋とハンドクリーナー持ってたじゃないか」
「そうでしたったけ?」
 本当に澄水人はわからないという顔をした。怒りすぎて目に入らなかったのか? それとも、わざと気づかないふりをしたのか、あんなに酷く殴る為に…? けれども、そんなことはどうでもいいという感じで、俺を見つめる澄水人の表情には安堵のようなものが濃く浮かびはじめている。
 澄水人は、俺の頭を掴むと、いきなり胸に抱きしめた。
「ああ……よかった…!」
 口を開けても罵りの言葉が出てこない。澄水人の態度に圧倒されて、苦しいと思いながら抱かれていた。
「番犬が先輩の側にいるのを見たとき、心臓が止まるかと思った。大切な先輩に何かあったら、僕は生きていけない」
 その言葉には一片の嘘も含まれていないように感じる。
 ……でも、…もう充分、何か起こってる…。
 あの男に何かされようと、澄水人に犯られようと、俺にとっては同じ事だ……。
 そこまで考えて、澄水人が男に暴力をふるった本当の理由が、俺を守ろうとしたからだと突然理解して、抱かれたまま立ちくらみがした。
 ……俺が大切?
 この部屋に連れて来られたとき、俺は澄水人を殴ったのに、こいつは一発も殴り返してこなかった。あの大量に用意した朝食も、俺の偏食を気遣ってくれたからなのか──?
 それに、生きていけないって、どういう意味だよ……? 
 たとえ、コレクションだとしても、愛されてるのに変わりはない……かもしれない……。
 気絶でもしたい気分だ。
 愛し方を知らないのは、澄水人が悪いわけじゃない。
 俺に近付く者を暴力で排除するのも、銃で脅して鎖に繋ぐのも、狂言自殺をしたのも、俺を留まらせておきたいと思ったからなのか?
 澄水人は俺が初恋だと言った。その俺に、まともな扱いをされなかったせいで、まともな愛し方ができなくても当然……かもしれない。
 初恋の相手が悪すぎたんだ…。俺は澄水人に取り憑かれたと毒づいてたけれど、本当は、俺の方が澄水人に取り取り憑いてたんだ……澄水人と出合ったときから…。
 ちょっと待て。……俺の方が悪魔かよ!?
 澄水人にとって、俺こそが“禍”だったのか……?
 それなのに、澄水人は大事そうに俺を抱いている。俺に何かあったら生きていけないと言っている。
「先輩、僕が守ってあげるから……」
 苦しそうに、澄水人が呟いた。
 頭に大穴のあいた血まみれの死体との対面も覚悟していた。俺のせいなんかで自殺したんじゃなくて、本当によかった。この温もりも、力強い腕も、生きている人間のものだ。俺は泣きたくなって、今更のように、生きていてくれた安堵感に身体を包まれた。
「おまえ……、死んだかと思った」
 目が熱くなって視界が滲む。
 澄水人は少しだけ身体を離して俺の顔を覗き込んだ。泣き顔を見られたくなくて俯くと、顎を持たれて無理矢理顔を上げさせられた。
「見るな……」
「また泣いてる」
 嬉しそうに澄水人が言う。でも俺は笑えなかった。瞬きをした目から我慢していた涙が溢れて、流れ落ちる瞬間に、澄水人が唇で吸い取った。
「や…めろよ…」
 恥ずかしさにうろたえて背けようとした顔を、両手で挟まれ、琥珀色の瞳に真正面から覗かれた。
「どうして泣くの?」
「……俺を、からかったんだな。自殺のマネなんかして…」
「ああ、あれですか? 冗談です。先輩が気絶するとは思わなかった。本当はね、実弾は一発しか無かったんですよ。隠し持ってたけど、残りは全部番犬に処分されたから」
 澄水人は笑みを引っ込めて、「あの番犬…」と呟いて恨みがましい目をした。俺が頼んだぐらいでは男への暴力をやめそうにもないような、もう何を言っても無駄だと思わせる目つきだ。透き通った瞳の中の黒い瞳孔が、琥珀の中に閉じ込められた黒い蟻に思える。蟻は俺自身だ……。
 もう実弾が無いというなら、どうしてそんな手の内を見せるようなことを言うんだろう? 銃で脅さなくても俺を逃がさない自信があるんだろうか?
 俺は、どうやったら逃げられる……?
「手首のベルトは自分で解いたの?」
 思い出したように澄水人が訊いてきて、ぎこちなく頷くと、
「どうやって?」と続けて質問された。
 ヘタに答えて逆上されても困るから、俺は黙っていた。うまく説明する自信も無い。
 澄水人はそんな俺を腕の中に抱いたまま、部屋の中を見回し、ベッドの下に落ちているベルトを見つけた。
「もう勝手なことはしないでくださいね」
 冷たく命令するその声に、流した涙の意味が無くなった気がして、俺たちは絶対に互いを理解できない存在だと再確認した。このままだと、心も身体も翻弄されるだけだ。
 立ち上がった澄水人に腕を引っ張られ、空気が素肌を撫でた。全裸でいる戸惑いよりも、この部屋にいるのがもう我慢できなかった。俺が澄水人をこんなオカシな人間にしてしまった、そう思うと、見るのも嫌になって今すぐに逃げ出したかった。足の枷を外す鍵はどこにある? もしかしたら、澄水人が持っているかもしれない。今、俺の両手は自由だ。探るには、ちょうどいい。逃げよう。もうお互いに、会わないほうがいいに決まってる……。
 フラつきながら立ち上がった俺は、澄水人の腰に手を回し、胸に頭を預けた。
「……フロに入りたい」
 嘘をつく自分の声が震えないよう注意しながら、ライダースジャケットの中に手を入れて、肉の薄い背中を撫で、肩へと滑らせた。手の甲でジャケットの内側をそれとなく探してみる。ポケットはどこだ?
 いきなりのことで驚いているのか、澄水人は少しも動かない。顔を上げてみると、何の感情も浮かべていない琥珀色の瞳が俺を見下ろしていた。
 その冷たさに内心焦りながら、片手を澄水人の首にかけて引き寄せた。
 こいつ、ほんとに背が高くなった……そんなことを考えながら自分からキスをした。
 澄水人は唇を開かない。首筋を撫で、キスで取り繕いながら、もう片方の手を探り当てたポケットの中に入れようとして、不意に手首を掴まれた。
「…手、放せよ。……キスさせろよ」
「鍵は持っていません」
 澄水人は片頬を上げて笑い、掴んでいる手に力を加えた。ほんの一瞬で心の奥を覗かれ、動揺が顔に出るのを必死で抑えていると、耳を軽く噛まれた。
「……嘘つきのキスは、不味(まず)い」
 突き放したように囁かれ、俺は視線を泳がせてしまった。
「う…嘘なんか……ついてない」
 そう答えても、嘘つきと言われた恥ずかしさに、自分でも知らないうちに俯いて唇を噛んでいる。
「それじゃあ、続きをしましょうか?」
 こいつが楽しそうに提案するのは絶対ヤバイことだ。咄嗟に澄水人を突き飛ばして逃げようとすると、一歩も動く間もなく抱き直された。苦しがる顔を見て楽しいのか、澄水人の腕は俺を締め上げていく。
「つっ…潰れ…る…」
 いきなり唇を塞がれ、舌を入れられた。それを舌で押し戻そうとすると、信じられないほど優しく吸われた。頭の後ろが壁に押し付けられて逃げ場がない。大きな呻き声を出してもがいても、やめてくれる気配はなく、息苦しさにこめかみが痺れて身体の力が抜けたとたん、唇が離れた。
「…はぁ…っ……はぁ……」
 水面に顔を出したみたいに口を開けて呼吸すると、
「やっぱり嘘だったんでしょう?」と呆れた様子で訊かれて、俺はつい、「違う」と嘘を重ねてしまった。
 予想もしない気まずい空気が部屋に流れはじめる。
 なんでこうなるんだろう?
 しばらく黙っていた澄水人は、「そう」と短く答えて、腕を動かした。
「だったら、ここにキスして」
 嫌な予感がして、ニヤニヤ笑っている澄水人の顔から視線を下げると、奴は自分の股間を指差していた。
「…え…」と言ったきり固まってる俺の髪を、澄水人の冷たい指が梳いていく。
「僕を喜ばせて」
 腕を掴まれ、強引にベッドまで歩かされた。いつまでたっても慣れることのない鎖の音が鼓膜に響く。何をされるのか怖くて黙っていると、澄水人はかがんで鎖を持ち上げ、ベッドの端に座った。
 鎖が引かれ、奴の開いた両足の間に立たされる。
「跪いて」という命令が遠く聞こえた。漠然と、これから何が起こるのかを想像して澄水人の顔を見ていると、鎖を引っ張られた。
「聞こえませんか? 跪いて」
 まだ逃げ出すチャンスはあるだろうか? もしかしたら持ってるかもしれない鍵を盗めるだろうか? そう思いながら、命令されるまま床に膝をついた。毛足の長い絨毯が脚をくすぐるのを感じながら、澄水人を見上げて次の言葉を待つふりをした。
「長い鎖に替えておいたのは、かえって便利だったかもね。絞め殺さないから、安心して」
 俺の首に冷たい鎖が巻きついていく。恐怖の中で、俺はただじっとしていた。澄水人が両方の手で持っている鎖を伸ばすように引っ張られたら、簡単に首は締まってしまう。
「どうしてそんな顔するの?」
 不思議そうに澄水人が笑う。
「僕はいつも、先輩にしてあげてたでしょう? そんなに難しいことじゃない……。ボタンを外して、ジッパーを下ろして、取り出して……」
 掠れた声の命令に、俺が顔をしかめると、
「早く……」と澄水人が急かした。「今…、すごく、してもらいたい……」
 俺は何も言えずに、わずかに首を横に振った。
 すると、甘えるような目をしていた澄水人の表情が険しく変わり、手が動いて鎖を引っ張った。思ってもみなかったほどの力で首を締められ、驚いて澄水人を見ると、鎖はすぐに緩み、想像した息苦しさが遠ざかった。
 俺の心臓も肺も、恐怖で膨らんでいくようだった。口から空気の塊を吐き出して、肩で息をした。
「…ああ、ごめんね、先輩…」と澄水人が悲しそうに言った。本気で謝っているのか、演技なのか、俺には判断がつかない。「力加減がわからなくて、強く締めすぎたみたい。可哀想に、痛かったでしょう?」
 澄水人が首を傾げて、哀れむように俺を見つめた。けれどもその目は少しずつ力強さを取り戻して、俺を睨んだ。
「先輩が悪いんですよ。素直に言う事をきかないから…。ね…? 外して…」
 首を締められる恐怖をチラつかせられながら、声に促され、何度も失敗しながら、ようやくボタンを外し、ジッパーを下げた。思い通りに動かない指は震え、顔を上げる勇気も無くなっている。
 澄水人は下着をつけていなかった。膨らみかけたペニスが、窮屈な場所からようやく解放され、手の中で硬く勃ち上がっていく。
「歯を立てたら、締めます」
 もう一度、左右から鎖を引っ張られて脅されると、澄水人の怒りを遠ざけることしか考えられなくなった。
「唇だけで、キスして」
 俺を脅した同じ口から、甘い声を出している。
 自分が動いているのか、それと眩暈のせいで倒れようとしているのか、俺の顔はゆっくりと近づく。唇で、先端に触れた。キスというより、ただ押し付けただけの行為なのに、澄水人は大きく息を吸って溜め息を漏らし、目の前の白い腹が呼吸にあわせてへこんだ。
「指で触るみたいに、舌で触ってみて」
 容赦なく命令が続く。澄水人を怒らせたくなくて、素直に舌を突き出して、その形に触れた。
「舌だけで、僕の形を感じて。もっとたくさん動かして……」
 頭を上下に動かしながら、初めて舐めるペニスの形を舌でなぞっていく。
「あぁ…っ……いい……」
 溜め息混じりの澄水人声がした。
 こうやって澄水人を喜ばせることが、首に巻きついた鎖の存在を消していく気がしている。それが後から屈辱感や嫌悪感を生むとわかっているのに、舌を動かすのに一生懸命になっていった。もっと甘く、もっと感じて掠れる澄水人の声が聞きたい。聞けたなら、死の恐怖は遠ざかっていく。
「イかせて……」
 囁かれた声に、心臓がドクンと跳ね上がった。ためらう間もなく、掴まれた髪を引っ張られて口の中にペニスを押し込まれ、嫌悪感から反射的に身体を逸らそうとすると鎖を前に引っ張られた。
「ん…っ、んんっ……」
 言葉にならない呻き声を漏らして抗議しても、澄水人はおかまいなしに、もっと奥へと突っ込んできた。舌の上を押して喉に当たるペニスの感触に吐き気がする。どうせ、ろくに食べてないから吐く物もないし、口に栓をされてるから吐くこともできない。ただ、我慢して頬張り、澄水人が早くイッてくれるように願っている。
「あっ……あぁっ……、はぁっ……先輩、も…う……」
 髪を掴まれたまま頭を揺すられて、澄水人の動きが速くなっていく。俺は悲鳴みたいな呻き声を喉の奥から出しながら、歯が当たらないよう一生懸命口を大きく開けていた。
「ンッ、…ンーッ、ンンーッ」
 惨めったらしい声しか出せない。
「ああ……」
 澄水人が静かに歓喜の声を上げた。
 思いっきり後ろに髪を引っ張られて、口からペニスが抜けると、目を瞑って背けた顔の頬や首筋、胸にも温かな飛沫がべったりとくっつくのがわかった。
 自尊心まで汚された思いがしている。
 身体から力が抜けて床に座っても、顔を上げることができずに絨毯を見ていると、澄水人が側にしゃがんで俺の顎を持ち上げた。
「先輩、とっても上手でしたよ」
 両目を覗かれると、恥ずかしさに顔が熱くなって、自分が惨めなだけの存在に思えた。上手と言われて、これほど嫌な思いをしたことはない。
 澄水人は手を伸ばして俺の髪を梳いた。
「僕ので、こんなに汚れちゃった。洗った方がいいですね」
 唇に満足そうな笑みを浮かべながら、澄水人は俺の身体にかけた自分のものを、指先で触り、オイルを塗るみたいに、ゆっくりと薄くのばしていく。
「所有者の刻印を押したいな。家畜みたいに皮膚を焼いたり、それともナイフで文字を刻んだり……」
「なっ…、なんだよ、それ……」
 とんでもない提案に驚いて身体を引くと、澄水人は「そんなこと、僕が本当にするわけないでしょう」と言って笑った。瞳の奥に妖しい光が点ったのを見た気がして、言葉だけじゃ安心できない。こいつはやりかねない。そして、やりたくなったら躊躇わずに実行するだろう。
「信じられませんか?」と澄水人が穏やかに笑って訊く。「でも、望むなら、こんなのじゃなくて…」と、自分の左胸に手を置いてから、「綺麗で残酷なタトゥーを身体のどこかに入れてあげます……」と、考えを巡らせるような顔をした。
 澄水人の指が、俺の胸を這い回った。まるで、どこの部分にどんな絵を入れようかと真剣に考えているような目つきに、俺は薄気味悪くなって身体を引いた。
「フロに入りたかったんでしよう? こっちです」
 突然、立ち上がった澄水人はセーターを脱ぎながら部屋を歩き、バスルームの扉を開けた。
「鎖は充分届くから、入れます」と、ペットでも手招きする仕草をして中に消えた。
 やがて、水音が聞こえはじめた。浴槽に湯を溜めてるような音だ。
 どうすればいいんだ、俺は……。
 澄水人を懐柔するのは無理っぽい。俺は、番犬男に言われるまでもなく、言いなりになって監禁されている。この状況を変える手段が何も無い。
 どうすればいい? 思考が堂堂巡りして、頭は熱を帯びていく。
 首に巻かれた鎖を外してよろよろと立ち上がった。鎖は千切れそうになく、両手は自由なのに、逃げ出すためにできることが何もない。
 溜め息をついて顔を上げると、ドレッサーの鏡に映る自分がいた。
 その姿を見て、俺は頭を殴られたようなショックを受けた。


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