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奇譚小函―きたんこばこ―

R-18 二次創作テキストサイト

EPISODE5. ペルラの初恋


雨が上がった午後の音楽室に黄金色の夕陽が眩しく差していた。
音楽教師ウェザー・リポートは、時計が5時5分前を指したのを確認すると、いつものように音楽室に暇をつぶしに来ていたアナスイを無言で出て行かせた。

「またあの娘と内緒のレッスン?」
「…………」
「あーあ、つまんない。 徐倫の所に行こうっと」

腰掛けていたピアノの上から音もなく降り、アナスイが不服そうに立ち去ったのと入れ違いに、彼女の一学年下の生徒――
ペルラ・プッチがふわふわした髪を揺らして入って来た。

「先生、今日もお願いします」
「…………」

ウェザーは何も言わず、ピアノの横にもう一つ用意された椅子を引いた。
ペルラの耳朶が夕陽のせいではなくうすく染まっているのに、彼は気づいていただろうか。
やがて音楽室の窓からは、二人が奏でる旋律が細く聞こえてきた。



ミッション系のラッキーランド女学園には礼拝の時間があり、週一回クラスごとに礼拝堂に集まって神父の説教を聴いたりするのだが、
前任のスティクス神父が布教でメキシコに派遣されることになり、この度新しい神父が赴任してきた。
礼拝堂に並んだ女生徒たちは、噂の『ザ・ニュー神父』に興味を抑えきれない様子で、ひそひそと私語を交わしていた。

「どんな人かしらね」
「ハンサム顔だといいわね~」
「前の神父みたいに二日酔いで説教する人じゃなきゃいいけどな」

期待にざわめく生徒たちの前に、すぐに新しい神父が姿を現した。
浅黒い肌に奇抜な髪型が印象的な男で、手短な自己紹介で名乗られたロベルト・エンリコ・プッチという名に、トリッシュとルーシーは不思議そうな顔をした。

「プッチ……? 寮の二年生に同じ姓の子がいたよーな……」
「そういえばそうね。 親戚とかかしら」

その時はそれだけの会話で済んだが、この新任神父と『とある人物』との関係が一騒動を起こすとは、この時の徐倫たちには思いもよらなかった。


やがて礼拝の時間が済み、女生徒たちが礼拝堂を出ていこうとする中、よく通る声がした。

「久しぶりだな、プッチ」

扉の陰にいつのまに立っていたのか、遠巻きな女生徒の熱い視線を一身に浴びている、一際目立つ金髪の男はDIOだった。
普段は日の射さない図書館の中にいて、滅多に外に出てこない彼が、今日に限ってどうしてこんな所にいるのか。
呼ばれた当人のプッチ神父は驚いた様子でDIOを見つめている。

「DIO!? 君がどうしてここに?」
「それはこっちの台詞だ、まさか君が女子校に赴任してくるとは思わなかったぞ
 しかし見違えたな、すっかり聖職が板についているようじゃないか?」
「そう言う君は全然変わらないなあ」

どうやらお互いに面識があるらしく、ずいぶん親しげな様子で話している。
DIOの取り巻きの女生徒たちも二人に興味を隠せない様子で黄色い声を上げている。

「なになに? ひょっとして神父様とDIO様はお知り合いなのッ!?」
「興味深いわッ! どういう事なのかしら?」

特に興味のない徐倫たちは次の授業が始まるので早々にその場を離れたが、光の早さで広まった女生徒のうわさ話によると、
プッチ神父はまだ神学生であった頃からDIOの旧友であり、あのDIOが唯一親友と認めているほどの人物なのだという事だった。
この学園の女生徒たちのDIOに対する感情は、身も心も捧げるぐらい心酔しているか、蛇蝎の如く忌み嫌っているかのどちらかであり
心酔派は「まあっ! うらやましいッ!」とおめでたい反応を見せたが
徐倫たち三人娘の反応は「あの神父、人を見る目が全然ないわ……」と冷ややかなものだった。



それから半月ほどが経過した。
DIOはというと毎日のように、旧交を暖めるためと称して神父を図書館に呼び、のんきにティータイムと洒落込んでいるらしい。
高等部の一部のお姉様たちは「DIO様があの神父とばっかりお話しててムカつく!」とご立腹のようだった。
一方、中等部の徐倫やトリッシュなどは、まだまだ色気より食い気といった感じで「あの二人できてんじゃあないのか?」「まさかだろ!」
と無責任なうわさをしつつ、いつものようにお気に入りの場所でお昼の弁当を食べようとしていた。
学園裏手の景色のいい丘でお弁当を広げていると、すぐ近くの花壇から何やら男女が言い争う声が聞こえてきた。

「……お兄ちゃん! どうしてそんな事言うの!?」
「お前のためだ、あの男には近づくな」

何事かと思い、ちょっと身を乗り出してみると、言い争っている二人の姿が見えた。
遠目からでも分かる黒い神父服を着込んだ一人は間違いなくプッチ神父、もう一人は自分たちと同じ中等部の少女だった。
清楚で目立たない感じだが、なかなかかわいい子だ。

「あれ、あの子……同じ寮の子だわ、たしか名前はペルラ・プッチ」
「『お兄ちゃん』って言ってたよな、やっぱり神父と兄妹なのか?」

野次馬根性で事の成り行きを見守る徐倫たちに気づくはずもなく、神父とペルラは口論を続けている。

「おかしいだろう、仮にも教師と生徒が他人に隠れて会っているなど……何かうまい事を言われて騙されたんじゃあないのか!?」
「何考えてるの!? ウェザー先生はそんな人じゃないわッ!!」

そこでフォークを置いて立ち上がったのはエルメェスだった。

「ヘイッ! 楽しい昼飯時に横で騒ぐのはそのへんにしな!」

自分自身でもいらぬお節介とは思ったが、ペルラが一方的に問いつめられているような様子を見かねて仲裁しようとしたのだ。
いきなりしゃしゃり出てきた部外者に神父は一瞬鼻白んだが、君達には関係ない事だとエルメェスを退けようとする。
さすがに傍観しているわけにもいかず、徐倫やトリッシュも助太刀に入る。

「まーまー神父様、……あたしが言うのも何ですけどちょっとは彼女の言い分も聞いてあげたらどうですか?」

うるさい小娘め、という目で睨んできたが、他人がいる前で込み入った話をしたくないのか、神父は一旦引き下がって去っていった。
残されたペルラは、嵐を逃れた小ウサギのような様子で小さく息をついた。

「あの、ごめんなさい、見苦しい所を見せてしまって……」
「いいのよ別に、……やっぱり、あの神父ってあなたのお兄さんなの?」

徐倫の質問に、ペルラはこくりと頷いた。
神父への反発心と同時に、後輩を守ってやりたいというお節介な精神を刺激された徐倫達は、あたしたちでよかったら話すだけ話してみて、と促した。
ペルラは少しためらっていたが、同じ寮の先輩ならと打ち明けた悩みはこうだった。
彼女はこの学園の寮に入るまでピアノを嗜んでおり、合唱部の伴奏者として練習を積んでいた。
しかしそれとは別にどうしてもマスターしたい曲があり、音楽教師であるウェザーに練習のためピアノの鍵を借りたいとお願いしたのをきっかけに、
独学よりは本職から学ぶ方がいいだろうというウェザーの好意により放課後に個人レッスンを受けていた。
赴任してきた兄にペルラがその事を話したところ、すぐにレッスンを止めろと理不尽な言葉をかけられたのだという。
どうして兄がそんなに怒るのかさっぱり分からず、ウェザーに対して何か個人的な恨みでもあるような言い種にペルラは困惑顔だった。

「ウェザー先生はあんなに親切な方なのに、お兄ちゃん誤解してるんだわ……」
「まあウェザー先生はなに考えてるか分からないけどルックスはイケメンだからな、そりゃ変な誤解もするかもね」
「いわゆるシスターコンプレックスってやつなのかな」

FFの余計な一言はともかく、ペルラは誰かに話したことで少しだけ気が楽になったようだった。

「大丈夫よ、あのわからず屋の神父がいちゃもんつけてきても守ってあげるから」
「そうそう、レッスンのアリバイ作りぐらいいつでも協力するぜ」

すっかりペルラに肩入れしている一方で、徐倫たちは(何としてでもこの子とウェザーをくっつけてあげよう)と、
あまり誉められたものではないお節介な野望を内心密かに抱いていた。



昼なお暗い図書館の一角にしつらえられた上等の椅子にもたれ、DIOとプッチは午後のひとときを過ごしていた。
その傍らでは給仕役を務めるヴァニラがカップにお茶を注いでいる。
香り高い紅茶と古紙の匂いの中、いつものように神学の議論や芸術の話題で盛り上がると思いきや、プッチは浮かぬ顔だった。

「君の妹の事か」

神のみぞ知る神父の憂鬱の原因をDIOは言い当ててみせた。
旧友に図星を突かれ、かなわないな、とプッチは苦笑してまた真顔に戻る。

「……なぜ人と人とは出会うのだろう」

プッチは神学生時代からその問いの答えを探し続けてきたが、いまだ答えは見つからなかった。
妹がウェザーという男と出会い、自分もまたDIOと再会したのは奇妙な引力が働いているとしか思えなかった。
しかし、プッチがどんな運命の力に逆らおうともあえてウェザーとペルラを引き離そうとするのは理由があった。

「あいつとだけは間違いがあってはならないんだ……」

本人しか預かり知らぬ理由に葛藤する神父は、せっかくの紅茶にも手をつけず早々に退出してしまった。
DIOは膝の上の本を閉じ、ヴァニラに器を片付けさせるついでに用を命じた。

「アイス、確かペルラ・プッチはお前と同じ寮だったな?」
「はい」
「それなら話が早い」



規則に厳しいLL女学園の寮生とはいえ、外出許可さえもらえれば休日に友達同士で遊びに行ったり実家に戻ったりする事もできる。

「行ってきま~す」

私服姿の徐倫、エルメェス、FFにトリッシュ……といういつもの顔ぶれの中に混じっているのはペルラだった。
一行は学園の門を出て、街中の賑わうオープンカフェの席についたがみんなどこかかそわそわしている様子だった。
まるで誰かを待っているような……

「……そろそろかしら」

トリッシュが腕時計を確認する横で、「あっ、来た!」とストローをくわえたままFFが声を上げた。
その指さす先に、人混みの中こちらにやってくる特徴的な帽子を見つけ、ペルラは目を輝かせた。

「……待たせてしまったか」
「い、いいえちっとも! 今来たところです!」

ウェザーとペルラの微笑ましいベタなやりとりに、横で見ている徐倫達は思わず吹き出してしまった。

「うまくやりなよ!」
「頑張ってね!」

背中に無責任な激励を浴びつつ二人は徐倫たちと別れ、別方向に歩いていった。
先輩達と遊びに行くというペルラの外出理由は、この本当の目的のためのカモフラージュだったのだ。
教師と生徒が休日に内緒で会うというのは多少外聞が悪いし、もしウェザーと二人で出かけるなどという事が兄の耳に入ったら無理矢理外出を取り消されたに違いない。
ともあれ、作戦が成功したのを見届けたチームは第二の作戦に移った。
あくまでさりげない振りを装い、気づかれないよう二人の後を追う。

「「兄へのプレゼントを買いたいから一緒に見立ててほしい」ってのはなかなかうまいお誘いの理由よね」
「『お兄ちゃん』もデートのダシに使われてカワイソーにね」
「ヴァニラも図書委員の仕事なんかほったらかして来ればよかったのに」

悪い先輩もあったもので、カップルを尾行している。
初めてのデートに幸せいっぱいで浮かれるペルラは気付くはずもなかったが、彼女らを追う尾行者は『二組』いた。
建物の陰から、食い入るような視線で見つめる男……帽子を深く被っているがそれは間違いなくプッチ神父で、その傍らにいるのはなんとヴァニラだった。
どうして神父が今日のデートの事を知っているのか、それはDIOの忠実なしもべである彼の存在が証明していた。
プッチの妹の動きを逐一知らせろというDIOの命令に従い、ヴァニラ経由で徐倫たちのカモフラージュ作戦は筒抜けになっていたのだった。
それではなぜ理由を付けて未然に外出を取り潰さなかったかというと、プッチはこの機会を利用してウェザーと妹の仲を決定的に破壊してやろうという考えだった。

「妹が傷つくことだけは絶対に避けなければならない…… 奴がペルラに何かする前に行動を起こさなくてはッ……」
「神父様、それはわたしも協力しなければならないのですか」

陽の下に出られないDIOの代わりに見届け役として遣わされたヴァニラはどこか冷めた態度でいる。
どうして神父がそんなにカリカリするのか理解できない様子だ。

「計画はすでにできている」

神父はそう言って辺りを見回し、近所の男子校の制服を着崩してコンビニの前にたむろしている三人組に目を付けた。
計画にうってつけの連中だと判断し、つかつかと近づく。

「アァ? 何だよ神父さんよォ~、お説教なら余所で……」

目つきの悪い尖ったモミアゲの男はうざったそうにしていたが、神父が財布から出したピン札をちらつかせると態度を変えた。

「マジかよ! こ……こんなにくれるのォ!? グヘヘ……ラッキー!」
「うまくいったらこの倍くれてやる」
「マジか!? やったッ! バイクの修理代が浮くぜーッ!」
「で、でもよォ~変じゃねえかリキエル? 何で神父がそんなわけのわからん事オレらに頼むんだ?」
「そんなどうでもいい質問に答えてわたしに何の得があるんだ? お前らのやる事はここを通りがかる二人連れを脅かす事だ」

憧れている相手が目の前でゴロツキにボコボコにされれば、ペルラの恋心は一気に醒めるだろう……というのが神父の目論見だった。
連れの少女には決して手を出さない事を即席で雇った実行犯たちに居丈高に忠告し、隠れて様子を見る。
この単純だが効果的であろう計画に一つ疑問点を見つけ、ヴァニラは神父に聞いてみた。

「仮定の話だが、もしウェザーがあなたの妹を差し出して自分だけ助かろうとしたらどうする気だ?」
「それならそれでペルラは奴に失望するに違いないからかまわない。 でも……我が身かわいさにそんな選択をした事を後で死ぬほど後悔するだろうがね」

プッチが浮かべた表情は神に仕える聖職者のそれとは思えないドス黒いものだった。
見なかったことにして、ヴァニラは通りの向こうに目をやった。
ちょうどモコモコした帽子の男と、ペルラがこちらに歩いてくるのが見えた。
手はず通り三人組が前に立ち塞がる。

「おいおっさん、その変な帽子ごとド頭カチ割られたくなきゃあ、女と有り金こっちによこしな!」
「!! せ、先生……」
「……心配しなくていい」

いきなりガラの悪い男たちに絡まれ怯えているペルラをさりげなく背後にかばいながら、ウェザーは相手の顔に鼻息がかかる距離まで近づきこう言った。

「あぁ!? 何だコラァ? 痛い目見たくなかったら金を出」
「向こうへ行け……蹴り殺すぞ」
「ヒィッ」

ぼーっとした印象の彼の口から出たとは思えない台詞はペルラには聞こえなかっただろうが、その威圧的な低い声にはやると言ったらやる凄味が感じられた。
ウェザーの目の奥に垣間見えた漆黒の殺意に、三人は怯えた小型犬のように尻尾を巻いて後ずさりした。
そんなゴロツキ共を後目に、ウェザーは何事もなかったかのようににペルラをエスコートしながら去って行く。
計画の頓挫を知った神父は舌打ちと共に、死者に鞭打つような心ない台詞を吐いた。

「役立たずどもが……」

わけの分からない神父に付き合わされ恐ろしい目に遭った挙げ句ただ働きをさせられ、三人にとってどうやら今日は厄日のようだった。



その後もデートを邪魔する計画はことごとく失敗し、神父の苛立ちは募るばかりだった。
そうこうしているうちに夕方になり、歩き疲れたペルラとウェザーは公園のベンチで一休みする事にした。

「いいムードじゃないの? 思い切ってキスぐらいしちゃいなさいよ」
「シーッ」

しかし、二人はキスどころか手も握っておらず、ぽつぽつと他愛ない会話を交わすだけだった。

「あの賛美歌は難しい曲だが……よく頑張った」
「兄のために弾けるようになりたくて」

その言葉に、木陰から二人を監視していたプッチの表情がわずかに変化した。
ペルラが放課後音楽室に通っていた理由は本当だったのだ。
だからこそ、そんな純粋な妹が傷つくのを見過ごすことはできなかった。

「その男から離れろ、ペルラ」
「お兄ちゃん…… どうしてここに!?」

いきなりの急展開に、隠れて見守っていた徐倫たちも驚いたが、神父の登場にもウェザーは何も言わない。

「帰るぞ、何度も言わせるなッ!」
「お兄ちゃんとウェザー先生は何の関係もないはずでしょ!? どうしてそんなに目の仇にするの!?」
「……そいつは……ウェザーは――」

言い淀む神父に代わり、ウェザーが口を開いた。

「違う わたしがお前の兄だからだ」
「……!?」
「死産の赤ん坊と取り替えられて……育ての母が死ぬ直前に聞かされたが、今まで言うつもりはなかった……
 ただ、ずっと影からペルラを見守ろうと思っていた」

真実を明かせない様子のプッチを見かね、墓場まで持っていくつもりだった秘密を口にするウェザーの頭の中では、
年の離れた妹が入学してきたと知った時の驚き、ペルラから初めて話しかけられた時の事、二人でピアノを弾くひと時がどれだけ嬉しかったか、
そういった今までの事が渦を巻いて甦っていた。
兄は双子で生まれたが、その片割れは生まれてすぐ亡くなったと聞かされていたペルラはにわかに信じられない様子で愕然としていた。

「そんな……でも、その事を知っていたならお兄ちゃんはどうしてわたしに話してくれなかったの!?」
「ウェザーの育ての親から偶然懺悔を聞いて知ったからだ。 たとえ相手が死んだ後でも神父として秘密を漏らすわけにはいかなかった……
ウェザーもこの事を聞かされていたとは知らなかったが」
「そうだったの……わたしだけが知らなかったのね……」
「……すまない」

ペルラの頬に真珠のような涙がいくつもこぼれ落ちた。
プッチは兄としての心情と聖職者の義務の板挟みになって長いこと苦悩していたが、秘密が暴露されて隠す必要がなくなっても重苦しさは消えず
、妹の心境を察すると苦しみは余計に増したようだった。
想いを寄せていた相手が実の兄だと知ったショックは如何ばかりだろうか。

「辛い思いをさせてすまなかった……」
「ううん、違うわ……わたし、嬉しいの」
「嬉しい?」
「ウェザー先生と家族になれて、それにお兄ちゃんが二人になったんだもの」

まだ涙の残る顔だったが、ペルラは心から微笑んで見せた。
全てを赦す聖女のような微笑みにプッチは何もかも報われ、救われた思いだったが、それもつかの間だった。

「グスングスン、よかったわねズビィ」
「うううう、いい話だ~~~」
「!! せ、先輩、いつからそこにいたの!?」
「ええい見世物じゃあないッ!! さっさと帰れッ!!」

感極まって派手にもらい泣きする一同と追い払う神父をよそに、兄と妹は少しぎこちない笑みを交わした。

「まだ何て呼べばいいか分からないけど……これからよろしくね、『お兄ちゃん』」

生まれて初めて兄と呼ばれ、雲間から覗いた太陽のようにウェザーの顔にも心からの笑みが輝いた。



翌日、トリッシュは移動教室の途中らしいペルラを見かけて声をかけた。

「あ……あの、昨日はごめんなさいね、こっそり覗いたりして」
「いえ、先輩が協力してくれたおかげですからそんな事……」
「でもよかったじゃない、お兄さんとの事も丸くおさまったみたいで」
「それがそうでもなくて……」

その時、別方向から神父とウェザーが同時に現れ、ペルラを見つけてつかつかと近付いてきた。

「ペルラ、離れずにもっとゆっくり歩け、転んだらどうするんだ」
「教科書は忘れてないか? ハンカチは持ったか? トイレは済ませたか?」

周りの生徒にくすくす笑われ、おとなしいペルラも恥ずかしさの余りに怒鳴ってしまった。

「いいかげんにしてよお兄ちゃん! あたしは幼稚園児じゃないのよ!!」

二人の兄の行き過ぎた愛情からくるあまりの過保護さに、ペルラはいささかうんざりしている様子だった。
それにもかまわず妹の世話を焼くウェザーと神父の手首に、ペルラが贈った揃いの腕時計が着けられているのを見てトリッシュは微笑ましい気分になった。




その後も放課後のピアノレッスンは相変わらず続いており、アナスイはそのたびに音楽室を追い出されるのだったが、
この間からいつもの一年生の少女だけではなく、神父もやって来るのを不思議に思っていた。
まあどうでもいいけど……と音楽室を後にするアナスイの背後から、優しい連弾の調べが聞こえてきた。


HAPPY END

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