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奇譚小函―きたんこばこ―

R-18 二次創作テキストサイト

俺屍サマナー

A MAKE BELIEVE


任務達成の報酬代わりに、美しい耳飾りが灯代に贈られたのは、彼女がサマナー稼業に少しだけ慣れてきた頃だった。
普段あまり装飾品を着けない灯代だが、せっかく頂いた物を引き出しの中に眠らせておくのは勿体無く、また年頃の娘としての興味から着けてみたいと思った。
ただ、首飾りや指輪などと違い、これは耳に穴を開けなければ着けられない。
高校の同級生の中にはピアスを着けている友達が何人もおり、自分で開けるような者もいるが、灯代にそんな経験があるはずもなく
初めての事で勝手が分からないので、誰か器用な人に開けて貰いたいと望む灯代が白羽の矢を立てたのは、最も身近な仲魔だった。


繊細な細工の耳飾りに嵌められた、小指の爪の半分ほどの輝石。
控えめだが強い輝きを秘めたこの魔石は、呪いの囁きから持ち主の身を守るという。
手の中で光る耳飾りを見て、まだ未熟で精神攻撃に耐性のないサマナーの助けには丁度いい品だ、とタタラ陣内は思った。
無謀なまでに真っ直ぐな魂は強い反面、柔軟さに欠け折れ易いものだと陣内は知っている。
それ故に、鬼や魔に付け込まれ魅入られ易いという事も。
以前戦った、大江ノ捨丸という外法の鬼を陣内は思い出していた。
性質は狡猾にして残虐、その不意打ちと搦め手は灯代と陣内を苦しめたが、奴は力の半分も出していなかった。
恐らく奴は、熟練サマナーすら死に誘う呪殺の術も使いこなすだろう。
あの時は誤解で済んだからいいようなものの、もし奴が何かの拍子に敵に回ったらと思うと流石にぞっとしない。
そういえば、召喚主の女は捨丸のあれほど濃い瘴気に晒されても平然としていた。
奴とつるんでいる位だから当然只者ではないだろうが、圧倒的な剣技と冷静な態度の奥に陣内はどこか底知れなさを感じたものだった。

「陣内様、準備できました、お願いします」

サマナーの中には呪術的な刺青を入れる者もいて、それに比べれば大した痛みではないだろうが、灯代は緊張した面持ちでいる。
彼女自身も戦闘での負傷は日常茶飯事で、耳朶を針で突く程度の事を恐れるわけがないというのに。
後の戦いの備えとして魔除けの耳飾りを着けるのに協力する陣内だったが、一方でこれで身を飾った灯代を見たいという思いもないではなかった。
赤い髪を無骨な指先で分け、露出した薄い耳朶を摘む。

「耳朶が小さいからやりにくいな……もっと首を傾けろ」

陣内に言われて灯代が少し肩をすくめる。
いつも隠れている分敏感なのか、息がかかる程度の刺激でもくすぐったそうだった。
怪我の手当てに常備しているアルコール消毒剤で耳朶を清め、焼いた針を近づけた。

「少し、我慢していろ」
「……んっ……!」

細い針を耳朶に通す瞬間、灯代の体が強張るのが分かった。
傷口から血の玉が盛り上がり、貫いた針を一滴が伝う。
服に染みを作る前に陣内はそれを拭き取り、手際よく耳飾りの環を穴に通した。

「痛かったか」
「大丈夫……陣内様、もう片方も……」

逆の耳朶は薄紅色に火照っており、触れるとほんのりした熱が指先に伝わってくる。
耳といえば、とあるサマナーと契約している白梟の化身が理性を失い、守るべき主人の耳を食いちぎったと聞いた事があった。
治癒術で事なきを得たというが、今の陣内にはその仲魔の気持ちが分からないでもなかった。
今こうして、陣内を信頼しきって身を委ねている灯代の耳朶に唇を寄せ、歯を立てたらどんな顔をするだろうか。
ただの悪ふざけと思うだけかもしれないが、それとももう灯代はそんな行為の意味を知っているのかもしれない。
陣内は波立つ内面を気取られないよう平静に努め、もう片方の耳も同じ手順で針を通す。
襟元から覗くうなじが目に入り、こんなに細かったろうかと気付いて不覚にも手元が狂いそうになった。
眼をつぶって堪える表情も、唇からかすかに漏れる吐息も、本人がそのつもりのはずはないのに陣内を否応なく妙な気分にさせ、いつの間に魅了の術をかけられたのかと思う程だった。

「……終わったぞ」

陣内に声をかけられ、灯代はようやく眼を開けた。
藍色の眼と同じ深い色の輝きは、赤い髪から覗く耳によく映えていた。
何度も鏡を見ながら、耳飾りがきらめく様に眼を輝かせる灯代は、思い出したように友達の話題を口にした。

「そういえば、栞ちゃんも今度ピアス開けてあすか様とお揃いのをつけるんですって」

あの優男が『おさなづま』のために見立てた耳飾りを手ずから着けてやる様が思い浮かぶ。
とても似合うよ、などと甘ったるい言葉に、彼女も口では文句を言いつつ満更でもない顔で微笑むのだろう。

「陣内様はピアス着けたりしないんですか? あんまり派手でなくて、眼の色と同じ赤い石なんかお似合いだと思うんですけど」
「……そうだな、日頃の褒美としてサマナー殿が贈ってくれたら、着けようか」

純朴で、無防備で、危なっかしい新米サマナーのあどけない表情を陣内はあらためて見る。
お互いどれほど気を許していても、男女の関係になるのはまだ早過ぎる、と自分に言い聞かせる。
一度そうなってしまったら、灯代自身がどう変わってしまうか分からない。
いまだ無垢な灯代の耳朶に嵌められた輝石は、甘美で少しだけ後ろめたい『真似事』の証のようで、今はこれだけでも充分過ぎるぐらいだ、と陣内は思った。

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