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奇譚小函―きたんこばこ―

R-18 二次創作テキストサイト

俺屍サマナー

BUBBLE WITH JOY(R-18)


タタラ陣内が百年ぶりに封印を解かれて灯代の仲魔になって以来、その身は継承刀や管の中に収められ必要に応じて使役されているが、自宅の屋敷内ではむしろ管から出されている時の方が多い。
普段は鬼首家の居候とも客分ともいえる立場で過ごしており、家族が一人増えたような扱いだった。
灯代が無事試練から戻ってきた夜、主役不在の宴会で陣内が当主を始めとした家人と早々に打ち解け、外堀を埋めた成果と言えた。

「陣内様、おはようございます」
「おはよう灯代、お前は朝から元気だな」

休日でも欠かさず早朝の稽古を終えた灯代は、陣内を継承刀から召喚し、朝食の席に向かう。
ヒトの姿をとっているが人間とは違う神の身なので、別に食事を摂らなくても飢えないが、三度の食事は陣内の分も神膳という形で用意され、食卓を共にしている。
病で寝込みがちだった先代の暁丸も、後継の灯代が晴れてサマナーとして認められてからは活気を取り戻し、起きて動ける日も多くなったのだが……

「おいコラ! 見てねえと思って俺の皿から玉子焼き取ってんじゃねーぞ!」
「お前は昨夜人の分まで白菜の漬物をかっ食らってただろう、忘れたとは言わさんぞ!」
「過去の事をいつまで根に持ってんだこの爺!」
「あ~あ、お二人さんまたやってるよ……よく懲りないねえ」
「まあ、見ている分にはそれも一興だけどな」

自分のおかずを取った取らないで揉めている陣内と暁丸の醜態に、同席する家人の苦笑や呆れ顔も毎日の事だった。
継承刀の守り神と鬼首家最強の剣士、二人とも灯代にとっては尊敬する師のような存在だが、こんな低次元な争いを見ていると自分に人を見る目があるのか疑わしくなってくる。

「陣内様……玉子焼きなら私のを差し上げますから静かにご飯食べて下さい」
「灯代、気持ちは嬉しいがこのクソじじいはお前がそう言うのを見越して俺のを取ったんだ、許せねえ!」
「何だと!? 因縁をつける気か!」

灯代に受け継がれる以前に継承刀を所有していた曽祖父の暁丸は、なぜか陣内と顔を合わせるたびに大人げなく喧嘩をしており、陣内も陣内で譲らずにやり返している。
しかし二人とも内心では子供のような意地の張り合いを楽しんでいるようで、その時だけは厳めしい老サマナーの表情も十代の頃のように明るくなるのだった。
騒々しい朝食が済み、食器を片付ける灯代を手伝いながら陣内が言った。

「そういえば、『ここのつ』に行くのは今日だったな」
「はい、陣内様にも着たところ見せて差し上げますね!」

『ここのつ』とは、鬼首家の者がたびたび着物を仕立てて貰う呉服屋の事で、正式な屋号は『九つ星』である。
以前、灯代は暁丸の用事のついでに連れられて行き、今日は出来た着物を店に受け取りに行くのだった。

「一緒に帯を選んでくれたあの人、今日はいるかなぁ……黄八丈のお着物がよく似合ってて素敵だったな」

あの時応対に出てきた同年代の娘にまた会えるかと、灯代は密かに楽しみにしているようだが、こいつは同性に友情や憧れの域を超えて入れ込む傾向があるようだと、陣内は少しだけ気がかりだった。

「行って来まーす」
「今日は風強いから気をつけてな~」

大急ぎで支度を終えて玄関から出て行く灯代の背に、父は声をかける。
その男にしては小柄な体格や赤みの強い色の髪といった特徴は、そのまま娘に受け継がれている。
灯代の父であり、鬼首家当主である空良(そら)は、言霊を用いた会話で悪魔との契約や交渉を有利に進める『交渉人』として、暁丸をはじめとした戦闘要員とは別方面で暗躍していた。
しかし生まれもっての童顔に加え、Tシャツにスウェットという気の抜けた今の格好では誰も信じないだろう。

「……ふ~、やっと行きやがった」

どこからか声がして、空良の肩に乗るほどの小さな異形の影が現れた。
大きな頭にぎょろりとした眼とこれまた大きな鼻、細長い尻尾を生やした姿は不気味とも滑稽とも言える。
燃える油を掬ったスプーンを抱えているこの子鬼は、ウコバクと呼ばれる小悪魔だった。
ウコバクは辺りを見回してタタラ陣内の姿がないのを確かめ、肩の上から空良に訴えた。

「旦那ぁ、あの野郎にでかいツラさせてていいんスか」
「あの野郎とは何だ、お前のよーな三下悪魔とは氏も素性も違ううちの守り神サマだぞ」
「火を扱わせりゃオイラだって負けてねえし! こう見えても蝿の王の忠実なるしもべだった頃は……」

このウコバクはずっと昔ケチな悪事を働いていた所を暁丸に捕まり、始末はされなかったが「もう悪さはしません」という出任せの口約束をしたばかりに言霊を以て捕らえられ、空良の仲魔とされた。
とはいっても、空良は直接戦う事のない立場であるし、ウコバクも悪魔の序列ではほんの下っ端に過ぎないので、当主に仕える役に立たない執事といった所だ。

「ウコバク、灯代の試練に付き添えなかった事、まだムクれてんのか」
「へっ、本当ならこのオイラがお嬢様の初めての仲魔になるはずだったんですからね」

試練に臨む灯代にウコバクを封じた管ではなく、かつて娘の命を救った刀だからと験を担いで紅蓮踏鞴を持たせたのは空良だった。
仲魔の愚痴を聞き流しながら、空良は引き出しから年季の入ったシガレットケースを取り出す。
開くと、中には市販の煙草の他に、奇妙な色紙で巻かれたものが数種類収まっていた。

「そんな事より火ぃ点けてくれ、お前の大事な仕事だろ」
「旦那、ライターという文明の利器を知らないんで……」
「ガスの点火は美味くないんだよ」

ぶつぶつ言いながら差し出されたスプーンから煙草に火が移され、空良は美味そうに紫煙を吸い込む。
吸い方こそ手馴れてるがツラがツラだけに飴玉の方がお似合いだよなぁ、とウコバクは思ったが、当主の前で口に出せば鼻の頭を捻り上げられるに違いなかった。

入浴や着替えの際、灯代は一番先に太腿にガーターで着けた短刀を外す。
スカートの下に手を差し入れて留め具を外しながら、灯代は今日訪れた呉服屋での事を思い出していた。

『あなたも、何かのために戦っている人なんだね……』

灯代の太腿に忍ばされたこの短刀を見て、着付けを手伝ってくれた娘・天(はるか)はそう言って微笑んだ。
おっとりした振る舞いや優雅な着物姿からは想像もつかないが、彼女が戦う理由は何なのだろう、と灯代は考える。
譲れない目的を遂げるためか、失いたくないものを守るためか、それとも口の端に上らせた双子の兄のためか……
白い革鞘に収まった大事な短刀を、脱衣籠の中の新しい着替えの脇に置く。
腿に薄く残った帯状の跡は若い肌からじきに消えてしまう。
軽い衣擦れの音と共に、洗濯槽の中に一枚一枚と衣類が積み上がり、最後にそのてっぺんにふわりと小さな下着が落ちた。

「あ~、今日は上等なお着物のせいか肩が凝っちゃった……ゆっくり入ろうっと」

剣の稽古で汗をかいた後の風呂も格別だが、今日は別の期待があった。
仲魔であるタタラ陣内から「今日半日がかりで風呂場を改築してみた、入ったらきっと驚くぞ!」と言われ、一体どんなものが出来たのか内心楽しみだった。
外出から戻って来て僅か半日でやってのけるというのも有り得ないが、無から有を創造する陣内の力をもってすれば難しい事ではない。
灯代に封印を解かれて以来、やる気が有り余っている陣内は、時々このような形で職人魂を発揮し、屋敷内を勝手に改築する事もしばしばだった。
暁丸に言わせれば神通力の無駄使いであるが、陣内の今の主である灯代は基本的に咎め立てはしない。

「わあっ……」

見慣れたはずの浴室は、昨日とはすっかり様変わりしていた。
壁も浴槽も檜造りになっており、とてもいい香りの湯気が立ち込めている。
一角に敷き詰められた玉砂利には松が植えられ、灯篭を模した照明に暖かく照らされていた。
温泉旅館にでも来たみたい、と灯代は呟きながら、手桶で湯を掬って身体の汗を流す。

「気持ちいい~……」

陣内の仕事ぶりは大したもので、大きな浴槽の中で手足を伸ばしながら、灯代は快適そのものの入浴を堪能する。
春先とはいえ風が強く冷え込む日だったので、湯の温かさが身体に染み入るようだった。
外から激しい風の吹き付ける音や物が転がる音が聞こえてきて、このまま勢いが弱まらなければ夜中には嵐になりそうだった。
明日は今日より温かくなるといいけど、と思いながら灯代が肩まで湯に浸かっていると、唐突に擦りガラスの扉が開けられた。

「おう灯代、先に入ってたのか。 どうだ? 檜風呂は気持ちいいか?」
「陣内様っ!?」

浴室への闖入者は、家人ではなく驚いた事に仲魔の陣内だった。
何も着ていない姿がいきなり目に入り、その逞しい身体を見るのが初めてという訳ではないが、灯代は狼狽えてざぶりと湯面を揺らした。

「もう! 誰か入ってるかちゃんと声ぐらいかけて下さい!」
「すまんすまん」

一応謝ってはいるのだが、陣内の態度は大して済まなそうには見えない。
畳まれた着替えの上にバスタオルを重ねていたせいで陣内は入浴中の灯代に気付かず、また灯代も強い風のせいで脱衣所からの物音が聞こえなかったのだった。

「こんな格好じゃ風邪引いちまうぞ」
「と、とにかく湯船に入ってください」
「おお、じゃあお言葉に甘えるとするか」

神の身で風邪を引くかどうかは分からないが、出て行ってと言うのも気が引けて、灯代は仲魔と一緒に湯を使う事にした。
陣内が手ずからあつらえた檜作りの浴槽は、二人で入っても悠々足が伸ばせて窮屈ではない……のだが。
湯の中で陣内に後ろから抱きかかえられ、胸板に背中を預けてぴったり密着した体勢のまま、灯代は身動きできずにいた。
その頬にすっかり血が上っているのは、湯で温まったせいだけではないだろう。
灯代の身体を腕の中に収めたまま、陣内は鼻唄でも歌い出しそうにくつろいだ風情でいる。

「っはぁ~、寒い日の風呂は格別に気持ちいいな、灯代」
「陣内様、ちょっと……もう少し離れて頂けませんか……?」
「何か不都合か? こうしていておかしな事があるか?」

さりげなく注意したが陣内は平然としたもので、新米サマナーは言葉に詰まった。
陣内の言うとおり、その手は灯代の小さな肩を包み込む以上の事はしておらず、灯代が勝手に想像しているようないかがわしい真似には及んでいない。
とはいえ、全て許し合った仲の男とこうして肌を寄せ合っているだけで落ち着かないのは、若い娘としては自然な事だった。

「……別に何でもありません」
「はは、そうか」

情事の際も眼帯を着けたままの陣内だが、今も湯に浸かりながら相変わらず同じもので右目を覆っている。
気になった灯代が、外さなくていいんですかと指摘すると、「これは防水だ」との答えが返ってきた。
出会って契約して以来、取った所を見たことが無いその眼帯に引き換え、みずら結いを解かれた鳶色の蓬髪は湯気に湿って落ち着き、いつもとまた違う印象だった。
なんだか照れ臭くて、何気ない会話も間が持たない中、外の強い風の音ばかりが響く。

「外の風、すごいですね」
「そうだな、昼間より吹いている」
「庭の沈丁花、この前咲いたばかりだからすぐに散らないでほしいな……」
「ああ……窓開けるといい香りがしてたな、灯代はあの花好きか」
「はい、沈丁花の香りがするとやっと春が来たって気がしますから」

桜も好きですけど、それより早く春の匂いがする花だから好きなんです、と言う。
緊張を解き始め、強張りをなくした灯代のしなやかな背中が湯の中で身動きし、陣内の厚い胸板に擦れる。
陣内が少し視線を落とすと、短い襟足の真下に剥き出しのうなじが見え、汗か湯か分からない滴が伝っていた。
それを舐め取ってしまいたい衝動的な思いに駆られ、陣内は首を沈めて灯代のうなじに唇を寄せた。

「ひゃっ」

あまり人から触れられる事の無い部分なだけに、ごく軽い刺激にも敏感な反応を見せ、灯代は陣内の腕の中で肩をすくめる。
くすぐったいです、と言う灯代に構わず、その日焼けした滑らかな首すじや丸い肩に何度も口付けを落とした。
暖かな日なたの匂いがしそうな小麦色の肌は、きつく吸われてもさほど痕は目立たないのを陣内は知っている。

「湯冷めしないように、体の芯までよく温まらんとな」

灯代の健康的に張った太腿の間にささやかに生えた、紅葉色の淡い翳りが湯の中で揺らめいている。
その翳り越しに透けて見える割れ目にも指が伸び、さすがに灯代は怒って声を上げた。

「陣内様っ……! もう、こんな所でふざけないで下さい」

いつもは柔和な印象の眉を逆立てた灯代に、陣内は癖の悪い手を引っ込める。
これ以上変な事をされてはかなわないと、派手に飛沫を立てて浴槽から出る灯代だったが、控えめな胸や臍の下といった肝心な所はしっかり手で隠していた。

「それは済まなかった、じゃあ詫び代わりに身体を洗ってや……」
「陣内様! 本当に怒りますよ!?」

まだ浴槽に浸かっている陣内にぷい、と背を向けて灯代は洗い場に座ったが、どうも背中に陣内の視線を感じる気がして落ち着かない。
まずは汗ばんだ髪を洗おうかと、コックを捻って温かいシャワーを頭から浴びる。
灯代の赤い髪は物心ついた時から短く、理由あってこれ以上伸びる事もないが、洗うのも乾かすのも短い時間で済むのがこの髪型の利点の一つだった。
きゅっと目をつぶり、指先でシャンプーの泡をかき混ぜながら髪の根元の頭皮ごと洗っていく。
灯代は洗髪に集中しており、水音を立てないよう浴槽から出た陣内が泡を含ませたスポンジを手に、背後に忍び寄っているのに気付かなかった。

「……? 陣内様っ!?」

怪しい気配に振り返った時、灯代は逞しい腕にあっさり捕らえられてしまっていた。

――こうして、嫌がる灯代は陣内の手で全身泡まみれにされて洗われてしまったが、水気を嫌う犬猫を無理矢理洗うのとは訳が違い、浴室内は石鹸の匂いと熱気でむせ返りそうだった。
隅々まで手を抜かない陣内の洗い方は、丁寧というよりも濃厚という表現の方が適していて、指が腰から下に差し掛かった時、既に灯代の息は荒く、やめてと訴える声は媚びるように甘く上擦っていた。
そんな灯代の小麦色の肌に真っ白いシャボンの泡はよく映えて、終始陣内の目を愉しませた。
シャワーの湯で全身から泡が洗い流される頃には、どこに触れられても声を上げてしまうほど敏感になっており、灯代は不埒な行為に怒るどころか陣内の肩にしがみついてただ堪えていた。

「あっ……」

下腹に硬いものがじかに押し当てられているのに気付き、灯代ははっとした。
陣内がばつの悪さ半分、開き直り半分の照れ臭そうな笑みを浮かべる。

「おい、洗い始めた時からずっとおっ勃っていたのに気付かなかったのか? お前も人が悪いな」

今ここで抱いてもいいか、とさらに求められ、灯代は咄嗟に返事ができなかったが、それは浴室で事に及ぶなど考えられなかったからだった。
せいぜい悪戯程度か、指戯だけで済まされるだろうと思っており、まさか寝室以外の所でなんて……と、自分の想像で勝手に煽られて早くも真っ赤になっている灯代に、陣内はさらに言う。

「それから、お前が嫌だったら別にいいんだが……」
「……?」
「いや、あのな……灯代の背中やうなじがあんまりそそるもんだから……今日は、灯代を後ろからよく見られるような格好でしてみてぇなと……」

遠慮がちな割にはあけすけな陣内の要求に、灯代の頬がぽっと熱くなる。
如何に初心とはいえ、既に男女の事を知っているのだから、試した事がなくともそれがどんな格好か思い当たらないわけではない。
うなじや背中なんて自分では見えない箇所なだけに、今ひとつピンと来なかったが、陣内にそこまで言わせるほど艶かしく見えるのかと意外だった。

(でも……そんな格好でも、陣内様だけに見せるなら……)

どれほど恥ずかしい事でも、この方が望むならやってみて悦ばせたい、と良くも悪くも素直な灯代はそう思ってしまった。
陣内に泡まみれの手でさんざん可愛がられ、後戻りできない所まで昂められたせいかもしれなかった。

「じゃあ……失礼します」
「お! マジでやってくれるのか?」
「で、でも、笑ったりしないで下さいね……」

灯代はおずおずと檜のすのこに手と膝をつき、陣内に尻を向けて四つん這いになる。
腰を後ろに突き出して小ぶりな尻が上を向いた格好に、赤い髪の間から覗く灯代の耳朶が不安と羞恥に染まっているのが見えた。
自分からは相手が見えないが、相手からは自分の無防備な全てを見られている姿。
肩越しにちらちらと様子を伺う灯代の不安げな眼差しに、陣内は安心させるように背中を撫で下ろしてやった。
桃尻のあわいに男の指先が届き、誰にも触れさせた事のない箇所に刺激を受けて、灯代の身体は動揺と緊張にびくんと震えた。

「きゃ! 陣内様っ、そっち触っちゃだめっ……!」
「おお、すまんな、影になってよく見えなかった」

訴える声まで泣き出しそうに震えており、陣内は行き過ぎた悪戯を少し反省した。
よく見えなかったせいというのは無論出任せだが、灯代は今度こそ間違えられないようにと、普段なら考え付きもしないような行動に出た。
片手で身体を支えながら、開かれた脚の間に手を持って行き、ふっくらした柔肉の合わせ目を指先で拡げ、内側の濡れた粘膜までよく見えるように剥き出した。
いつも快活な灯代がこんな娼婦のような媚態を見せるとは、と陣内も驚くほどの淫蕩な仕草だった。
後ろの窄まりに触れられる事に堪らない羞恥を感じる灯代だが、それ以上に恥ずかしい格好になっているのに本人は気付いているのか。
なめらかな背中や形良く盛り上がった尻と同様、本人の指でくつろげられたそこもほんのりした明かりに照らされて陣内の隻眼に晒されている。

「お前のここはまだ何も知らんように見えるな、可愛らしいもんだ」

秘処の初々しいたたずまいを評した言葉に、灯代は恥ずかしそうに腰を捩る。
そこが何度となく陣内を迎え入れ、夢中で締め付けて悦ばせ、熱い精を注がれたか、お互い知り過ぎるほど知っている。
陣内自身が灯代に男女の事を教えた張本人で、灯代は陣内の他に男を知らないのだからこれ以上灯代を恥じらわせる言葉も無かった。

「さあて、力抜いとけよ」
「ん……」

陣内の身体は普通の人間の男とさほど違いは無いが、火の神らしく常人よりも熱を持っているそれは、あてがわれる瞬間にその熱さでいつも灯代を驚かせる。
手間取ったのは入り口を先端で探り当てるまでで、準備の出来た若く柔軟な肉体は自然に開かれていき、腰を進めた分だけ奥まで受け入れていく。
後ろからの交わりは初めてだったが、それこそ鍵を錠に差し込んで開けるように容易かった。

「は……ぁ……」

いつもより深く繋がった陣内の息遣いや鼓動までがじかに伝わり、灯代の唇からため息がこぼれた。
無防備な最奥に肉杭がずん、と突き当たり、貫くような刺激に鼻にかかった声を漏らしてしまう。

「んんっ」

ぺたん、と肘の支えが崩れ、すのこの上に上半身だけ寝そべるような格好になったせいで、もたげられた腰が余計に強調される。
まだ青さの残るしなやかな肢体が、男を後ろから受け入れる慣れない体位に震えている。
余すところなくさらけ出された蕩けた肉を遠慮無く貪られるしかない今の姿は、恥らう灯代から理性の箍を外しつつあった。
相手に呆れられるほどあさましい痴態を晒すのではないか、と不安に思いながらも、陣内に夜毎悦びを教え込まれた灯代の身体は、これから始まるそれを否応なく期待していた。

「陣内さまっ……もう、いっぱい……いっぱいになってるぅ……」

灯代の素振りに苦痛の色がないのを見て、これなら動いても良かろうと陣内は突き込むために腰を引く。
小ぶりな愛らしい尻の谷底で、自らの赤銅色の猛りに秘めやかな襞が押し拡げられているのが見えた。
その真上で、先程大いに灯代を恥ずかしがらせた後ろの門がひくひくと震えている。
奥の奥まで蕩けている前の花園とは違って頑ななほどきつく窄まり、対照的な眺めだった。
再び根元まで粘膜に埋められた肉杭は、灯代の悩ましい姿態にもう痛いほどに張り詰めていた。

「初めての割には……すんなり慣れたようだな……」
「あっ、あ……! ん、ひぃっ」
「満更でもなさそうだな、いい声だ」

外では叩きつけるような風の音が凄まじい中、灯代がよがり喘ぐ途切れ途切れの声が浴室に響く。
張り出した雁首に柔襞を擦り上げられ、反り返った幹に掻き回されてされるがままになっている。
固い板面に押し付けた膝が少し痛い事も、相手の頼もしい肩や大きな背中に縋り付けない不満も、後ろからの抽送の激しさに押し流されていく。
いつもなら陣内に夢中でしがみつく両手は、小さなこぶしを作って突っ伏した顔の横できゅっと握られていた。

「あぁんっ!! だ……だめっ、深過ぎるのっ」

より深くまで突き込まれる体位なだけに、奥が傷付きはしないかと怖くなるが、灯代の中は本人が思う以上に練れており、むしろ力強い抽送をねだるように意識せず丸い尻を揺らしていた。
陣内の引き締まった腰が打ち付けられるたびに、突き出された尻が小気味良い音を立てて手鞠のように弾み、それが少しでも滞ると、灯代は物欲しげな眼で肩越しに見つめて催促してくるのだった。
はしたなさを咎めるように、陣内は灯代の首すじを軽く噛んでやった。

「感じ過ぎじゃねぇのか? 全く、お前は覚えが早いな……」

魔石のピアスを外した耳朶をくすぐるように囁くと、陣内を咥え込んだ処が堪らないように疼くのが伝わってきた。
後ろから責められるのが余程気に入ったのか、結合部から溢れ出た豊潤な蜜は灯代自身の内腿を濡らし、陣内の剛直を伝って糸を引きながら滴り落ちた。
愛の営みに耽る二人は、脱衣所に誰かが入ってきた事を知る由もなかった。

「あぁ陣内様、先に使われているんですな、湯加減はいかがですか」

扉の向こうから聞こえてきた空良の暢気な声に、さっきまで燃え上がっていた灯代は凍りついた。
陣内との関係自体は何一つ恥じる事などないと思っているが、嫁入り前の娘が浴室でこんな戯れをしているのを父親に知られたらまずいという事も承知している。
そんな灯代の緊張を感じ取ってか、陣内は自分の掌で灯代の口元を覆った。
喋るなという意味らしいが、もちろん灯代にそんなつもりはない、というよりもこの状況で声など出そうにない。

「当主殿か、今日改築したばかりだからまず入ってみたんだが、我ながらいい具合だ」

興奮に弾む息を抑え、陣内は平然とした口調を作り鬼首家の当主に返事をする。
その当主の愛娘をあられもない格好にして後ろから抱きながら。
陣内を奥深くまで収めたまま、灯代は息を殺しながら信じられない気持ちでそれを聞いていた。

「後で当主殿も入るといい、疲れがいっぺんに吹き飛ぶぞ」
「そりゃ楽しみですね、ありがとうございます」
「いやいや、いつも勝手に建て替えるのを大目に見てくれて感謝したいのはこちらの方だ」
「そういえばこの前は雨どいの修理もして下さって……」

いつもの太平楽な調子から伺うに、幸い父は浴室に陣内しかいないと思っているらしい。
しかし、陣内を入り婿扱いしているとはいえ、サマナーと仲魔の間柄で、嫁入り前の娘が裸で男と一緒にいると知ればさすがに驚くに違いない。
ましてこんな風に……

(んんっ!?)

こんな状況だというのに、陣内は灯代から身体を離そうとはしなかった。
猛ったままのそれを抜くどころか、またゆっくりと抽送を始め、灯代はその動きに背中を強張らせる。
掌で押さえられたままの灯代の口内に無骨な指が二本入ってきて、声を上げられないよう念入りに指を咥えさせられた。
さらに灯代の腿の間にもう片方の手が前から忍び込み、二人が繋がった境目を濡れた指で探り、すぐに見つけた蕾を優しく摘み上げ苛め出した。
声を出せない状況で弄ばれる灯代の頭の芯はかぁっと熱くなり、絶え間なく襲う甘い刺激に嬌声を上げる代わりに上気したうなじを仰け反らせた。
なおも空良は扉越しに陣内に話しかける。

「灯代はあの通りのお転婆ですが、どうか可愛がってやって下さいね」
「ああ、本当に可愛いと思っている」

その答えは陣内の本心に違いなかったが、まさに今、床でするのと同じ意味で灯代を可愛がっている最中なのだから相当な神経といえた。
緩慢な責めに、もうやめて下さい、と抗議するつもりで灯代は陣内の指に歯を立てたが、かえって相手の情欲を煽ってしまい、お返しのように二度三度と腰を深く突き込まれて気をやる間際まで追い上げられる。
眉を寄せて必死に堪える灯代の顔は茹でられたように真っ赤に火照り、噴き出す汗で四つん這いの身体をぐっしょりと濡らしていた。

(ふあぁぁっ……だめ……だめぇっ!!)

では失礼します、と父親が脱衣所の戸を閉め、立ち去る物音がようやく聞こえてきてもほっとする余裕も無く、責め続けられた灯代はどうにかなってしまう寸前だった。
熱い喘ぎを漏らす灯代の口腔から、唾液にまみれた無骨な指が抜き出される。

「大丈夫か」
「……もぉ……なんて事、するんですか……」

大丈夫も何も、そう気遣う陣内のせいでこうなったのだから灯代の言い分はもっともだった。
肩越しに陣内を睨む藍色の瞳は濡れ、灯代自身は怖い顔のつもりが上気した横顔と相まって、まだあどけない顔立ちには不似合いなほどの色香を醸し出していた。
陣内がいったん腰を引こうとすると、蜜で満たされたそこは反射的に締め付けてきた。

「い、いやっ、まだだめですっ」

このまま抜かれるとでも思ったのか、半ばうわ言のように口にする灯代は桃尻をよじっていじらしく訴える。
無論どちらも未だ気をやっていない以上、中途半端なまま終わらせるつもりは陣内にはなかった。

「ああ、まだだったな……最後まで、な」

再び腰を使い出した陣内の太い肉杭でくまなく擦られ、切なげな声を上げる灯代の汗に光る背中が悶えてうねる。
声を抑えながら責められ続けたせいか、灯代のなかはいっそう熱くなり、襞の一つ一つが雁首の裏側にまで絡み付いてくるようだった。

「ふっ、ああっ、何、これっ、やあぁっ」

先程の絶体絶命の窮地が呼び水となったのか、それとも昂められた性感がついに限度を超えたせいか、灯代の花園から気をやる前触れのように透き通った潮が飛沫となって噴き出した。
灯代の身体がこんな反応を見せるのは初めての事だったが、陣内の方も今にも放ちそうで、気付いていても気にするだけの余裕はなかった。
自分でも分からない現象に翻弄される灯代だが、陣内の力強い動きと荒い息遣いに頭の中が白熱し、すぐに何も考えられなくなった。
ほのかな明かりの下、小麦色の肢体に逞しい褐色の身体が後ろから覆い被さり、芯まで蕩かそうと揺すり立てる。
外で、ごうっと一際強い風の音がした。

「…………、っ!!」

さっきまであれほど必死に感じる声を押し殺していたというのに、硬い肉に掻き回された奥底で熱い泡立ちが一斉に弾けるような感覚に襲われた時、灯代は声も上げられないほどだった。
灯代の乱れる様を心行くまで堪能した陣内も、抑えていた情欲をありったけ迸らせて果てた。
深く息をつきながら灯代から身体を離すと、さんざん擦られて色付きを増した花びらの奥から驚くほどの量の白濁が溢れ出てきた。
まだ荒い息が収まらず、激しい情交に汗まみれになった華奢な身体を陣内は抱き起こす。

「はぁっ、はぁ……」
「悪りぃな、きれいに洗ったのにまた汗だくにしちまって」
「ふうぅ…… 今度は私にも、陣内様の身体を洗わせて……?」

鍛冶仕事と同じくらい集中して灯代を抱いていた陣内の方も、やはり汗をかいているだけに、この健気な申し出は願ってもない事だった。
お互いの身体を洗い合うのも艶かしい後戯だが、そんな事をすればまた収まらなくなってしまうだろう。
そっちはまた今度な、と陣内は灯代ののぼせた頬に口付け、まだ余韻に痺れている身体から汗を流してやろうとシャワーを手に取った。
最中に身体のどこかが当たって動かしてしまったのか、温度調節が『冷水』になっているのに気付いたのは、二人揃って全身に冷や水を浴びせられ悲鳴を上げた直後だった。

その後、情交の残滓にまみれた灯代は陣内の手で再度洗われ、長湯ですっかりのぼせてしまった身体を自室の布団に横たえられていた。
枕元で様子を見ながら、陣内は無理をさせてしまったサマナーを気遣う。

「はぁ~……」
「まだフラつくか? 冷たいもの持ってきてやろうか」
「大丈夫です……ちょっと楽になったかも」

狂おしい火照りはもう灯代の身体から引いていたが、先程までのスリルと覚えたての悦びは深いところに確かに残されていた。
これが病み付きになっちゃったらどうしよう……と灯代は内心で少し不安だったが、陣内がそれを知ったらまた一つ灯代を自分の手で変えた事を喜ぶに違いなかった。

「それにしても、あそこで当主殿に邪魔されるとは思わなかったぞ……」
「灯代、いるのか? 陣内様もご一緒か?」

噂をすれば影というのか、襖の外からまさにその空良の声がした。
二人してびくりと肩をすくめるが、あの後浴室を丁寧に洗い流して篭った空気も入れ替えたので、後ろ暗い事の証拠は何一つ残っていないと平静な態度に努める。

「陣内様は風呂から上がられたようだが、お前は入らなくていいのか? 空いてるぞ」
「あ、父様、今ちょっと熱っぽくて横になってて……」
「そうか、  ……ほどほどにしておけよ」
「「!?」」

当主の淡々とした一言に、灯代と陣内は言葉を失い、顔を見合わせた。
勝手に深読みをして、頭から煙が出るほど思い悩む二人をよそに、空良は檜風呂を堪能しようと浮かれた足取りで浴室へと向かっていた。

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