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奇譚小函―きたんこばこ―

R-18 二次創作テキストサイト

俺の屍を越えてゆけ

華氏二七三二度 後編

(=摂氏一五○○度、鉄が溶ける温度)


初めての事で足腰がフラつくので、灯代は陣内に横抱きにされて湯殿まで連れて行かれた。
夜遅いのに風呂の用意がされており、イツ花が気を利かせてやってくれたのだろうが、こうなる事を彼女に知られていたようで、明日どんな顔をして会えばいいんだろう……と思い悩みながらも、灯代は温かいお湯で汗と破瓜の血をきれいに流した。
陣内は湯には浸からず、むしろ全身の熱を冷まそうと冷水を汲んでざっと頭から浴びた。
背中を流し合って夫婦の真似事でもするか、と冗談半分で言う陣内の背中にさっき自分がつけた生々しい傷を見つけ、灯代が申し訳なさそうにしているのが可笑しかった。
久々に人と交わったせいか、体中に生気が満ちているのが分かる。

「またこんな気分になれるとは、九重楼にいた頃は考えられなかったな」

そう独語した陣内の広い背中を、傷を避けて洗いながら灯代は訊ねた。

「あの……陣内様は、どうして鬼にされてしまったのですか?」
「何だ、いきなり」
「私もイツ花から聞いただけなんですが……天界から姿を消された神様の多くは、朱点童子に心の闇につけ込まれて鬼に変えられたと聞きました。
でも、陣内様のようなお優しい方がどうして……」

解放されて天界に復帰した以上もう済んだ事だったが、この娘には経緯を打ち明けたい気もした。

「九重楼のてっぺんにおわす、二柱の神の事は知っているか」
「太刀風五郎様と、雷電五郎様ですね。 一度お会いした事があります」

実際はただ会うだけでは済まなかったが。
黄川人より聞いていた話では、人間に火と風を御する方法を教えた彼らはその咎で九重楼に幽閉されたという。
そこまでして救おうとした人間が、自分たちの与えた技術で殺し合いを始め、二柱の神はいたく悔やんで絶望したという下りまで聞かされた。
神にとっては恩をあだで返されたようなもので、全ての人間を憎み怨んでもおかしくないはずなのに、最上階にいた雷神と風神は、手のかかる我が子に対するような朗らかな口調で一族に相対したのだった。
激しい戦いの末、二柱の神を辛うじて退けたが、降参降参と軽口を叩く相手が十分手加減しており、小指の先ほども力を出していなかったのは灯代にもよく分かった。

「私達に恨みつらみをぶつけてくるとばかり思っていました……意外でした」
「そうか……お二方は、まだ人間を見捨ててはいなかったか」
「はい、私は少なくともそう感じました」
「……俺は、あのお二方が人間に火と風を与えた後に生まれた神だ」

二柱の神が人間に与えた火を熾す術と風を御する技から、鍛冶とそれを司る神であるタタラ陣内は生まれた。
仕事熱心で誇りある鍛冶神として人の営みを見守り続けてきたが、自分の技術で生み出されたさまざまな道具で人の暮らしが豊かになる一方、同じく鍛冶によって作られた武器を殺し合いに使われ、技術が進歩するたびに戦の規模が大きくなるにつれて、タタラ陣内は複雑な気持ちを抱えていた。
自分が良かれと思ってやっている事は、あのお二方を余計に悲しませるだけなのではないか……?
いくら鍛冶の技術を洗練させても、愚かな人間は結局それを殺し合いに利用していずれは自滅するのではないか……?
自らの生業を負い目に思うその心を朱点につけ込まれ、呪いを受けて鬼と化したタタラ陣内は太刀風・雷電五郎共々九重楼に閉じ込められていた。
灯代たち呪われた一族がやって来るまで。

「……そうだったのですか」

灯代は背中を流す手を止めて陣内の話に聞き入っていた。
相手が鬼とはいえ、剣を振るう自分自身も『愚かな人間』の例外ではないと思い灯代は目を伏せた。

「辛気くさい事を話しちまったな」
「いえ…… 陣内様は今でも、人間の事を……」
「人間が皆どうしようもない奴だと思ってるなら、お前とこうやって交わったりはしねえよ。
 それに、あのお二方がまだ人間を信じているなら、俺も信じようと思う」
「陣内様……わたしは……」

限りなく暖かい言葉に、自分の事を覚えていてくれた時よりも、身も心も結ばれた時よりも灯代は胸がいっぱいになり、思わず陣内の広い背中に抱きついていた。

「あなたと出会えたせめてものご恩返しに、今の私には無理でも、私の子孫が……いつかきっとあの方たちを解放します、だから……ずっと、見守っていて下さい」

二年も生きられないちっぽけな人間が口にした言葉だったが、戯れでも勢い任せでもなく、陣内は真摯な誓いの言葉として受け止めた。

「それなら、尚のこと丈夫な子をこしらえんとな。『俺達の』子孫に強き血を受け継がせるために」

もう夜も更けていたが、閨に戻った二人の熱は高まるばかりだった。
帯を解くのももどかしく抱き合い、再戦の合図の接吻は灯代からだった。
唇をついばみ合う微かな音さえも互いの情欲を煽るようだったが、唇以外の柔らかさも味わいたくなった陣内は、今度はほっそりした首すじに口付けた。
鎖骨、乳房、臍の周りと女体を下降する唇は、柔肌の中に次々と火種を埋め込んでいく。
湯上がりの匂いに混じる甘い女の匂いに酔いながら、陣内は灯代の全身を愛した。
このままひっくり返して欲望のままに突き入れるのもいいが、初心な娘に床の作法を教えてみたいという悪戯心がふと起こった。

「試しに、さっきと別の仕方もやってみるか?」
「別の……?」
「色々な仕方があるんだが、そうだな……俺の腰の上に跨ってみろ」

仮にも神様を尻に敷いていいものかと思ったが、灯代は勧められるままに陣内の腰を跨いだ。
指で具合をみられ、十分潤っているのを確認した陣内に「ゆっくりでいいから、自分の力だけで俺のを受け入れられるか?」と訊かれ、灯代はこくりと唾を飲んだ。
先程灯代を女にしたものが、身体の真下で精気を漲らせている。
自ら身体を開いてこれを迎え入れると思っただけで、奥底が疼くようだった。
痛い思いをしただけに少し躊躇ったが、一度は入ったのだし……と意を決して腰を落としてみた。

「あっ……」

灯代のそこはまだ陣内の形を覚えており、押し当てられると思ったよりも抵抗なく花びらをほころばせた。
自分の指で花びらを拡げてみたり、直立した幹に手を添えたりして少しでもうまく受け入れられるよう工夫する。
一気に貫いてしまいたいのを我慢しながら、陣内は灯代の形のいい尻を両手で支え、慣れない仕事を手伝ってやった。

「あぁ……陣内様、そんなにじっと見ないでっ……んんっ……」
「おいおい、こんないいもの、見るなという方が無理だろうが」

浅ましい姿を陣内に見られるのを恥じらって身を捩る灯代だったが、目と鼻の先で自分の逸物が桃源郷にくわえ込まれていく様が嫌でもよく見えるのだから仕方ない。
やがて、息を詰める灯代の火処に肉杭が根本まで填まり込んだ。
亀頭が奥に突き当たる感触に、灯代の腰から背中にかけて甘美な震えが走った。

「いいぞ、そのままお前が悦いように動いてみろ」
「こう、でしょうか……? あ、んあぁっ!」

恐る恐る腰を上下させると、肉杭が初めて交わった時とは違う所に擦れて灯代に新たな快感を教えた。
陣内に見られているのが恥ずかしく、せめて視線を合わすまいと目を瞑った灯代は意識せず大胆になり、相手を貪ろうと不器用に腰を使い出した。
浅く深く、腰を浮かしてはまた沈めるのを繰り返す。
性技ともいえない未熟なものだったが、陣内の目にはなんとも初々しく可愛らしく映った。

「陣内さまっ、この仕方、すごくいいです……っ」

腰がすっかり蕩けて体を支えられず、華奢な上半身が前のめりになったせいで、陣内の固い下生えに蕾が擦れるのがまた堪らないらしく、灯代は今にも気をやりそうなあけすけな声を上げている。
ついさっきまで生娘だったとは信じられないほどの乱れようだったが、何も知らなかった灯代をこんなにしたのが誰でもない自分なのだと思うと、陣内の情欲は一層燃え上がった。

「俺も愉しませてもらうぞ」

陣内も強靱な腰で下から突き上げ、まだこなれておらず窮屈な道筋を遠慮なく掻き回した。
逃げようとする灯代の腰を両手でしっかりと捕まえ、最奥の粒立った天井を堪能する。
激しい猛攻に灯代は立て続けに気をやり、灼けた杭で臓腑まで貫かれたように背中を仰け反らせた。

「あぅっ、どうか、もう、子種をっ……」
「分かっている……このまま一番奥にぶちまけてやる」

理性が薄れつつある陣内から卑猥な言葉を聞いてももう灯代は恥じらわず、子種を待ち望むように自分から腰を密着させて肉杭をより深くに受け入れた。
やがて力強い脈動と共に、奥の奥まで染めようとする勢いで精が噴き出される。
狭い胎内に収まりきらなかった分が結合部からどぷっ、と溢れだす感覚に、灯代は身体を震わせた。
陣内の胸にもたれ、女からもうすっかり母親になったような顔で宣言する。

「陣内様……灯代はきっと、あなたが誇りに思うような良い子を産んでみせます」
「俺とお前が精魂込めて造ったんだ、間違いないだろうよ」
「交神のお相手が陣内様で良かったです、一晩だけでも夫婦になれて、嬉しかった……」
「……その事なんだがな、灯代」

本当のところ、交神の儀は一月の中で一度交われば事足りるのだが、天界一仕事熱心なタタラ陣内はその程度のやっつけ仕事で済ませるつもりはなかった。
一月の間、この娘と夫婦として過ごす勤めは始まったばかりだった。

授かった男児には、父神の名から音だけ取って、迅(じん)と名付けた。
迅が家に来たのと前後して先代当主が逝去し、娘の灯代がその後を継いでからは慌ただしい毎日だが、不安や重圧に負けずやっていけるのもあの幸せな日々があったからだろう。

「実戦では鬼は四方八方から襲ってきます、目の前の敵を倒したと思っても気を抜かず、不意を突かれぬよう周りに気を配ること」
「はい、母様!」

この子に自分が教えられる事の全てを伝えようと思う灯代は、今日も息子に剣の稽古をつけていた。
体も出来てきて、力だけなら大人に負けないほどだ。このぶんだと来月には実戦部隊に入れるだろう。
復興されつつある京の都に、伝説の刀鍛冶が戻ってきたという噂を灯代がイツ花から聞いたのはそんな時だった。
訪ねた工房の絵看板そのままの、閻魔大王さながらの髭面の中で鋭い眼を光らせる刀匠・剣福に、灯代は気後れもせず話しかけた。

「この子に刀を打って頂けませんか?」

愛しい我が子をこれから死地に遣るのだから、せめてもの親心のつもりだった。
それから一月経って、完成した刀を受け取りに行った灯代は剣福からこんな話を聞いた。

……昨日の夕方のこと、確かに台の上に置いていたはずの注文の刀がどこにも見当たらない。
弟子に訊ねても触った者はおらず、盗人の仕業だとしても刀一本だけ持っていくのはおかしい。
明日一番で使いを出して改めて打ち直す旨を伝えようと思い、工房の奥の間で床に就いた剣福は不思議な夢を見た。
真夜中の工房で、古代の装束を着た隻眼の男が一人、なくなった注文の刀を打ち直していた。

「熱ぅなれ! 強ぅなれ!」

ふいごの風で真っ赤に熾った竈の火が両手を炙っても、男は意に介さず鉄槌から火花を散らして刀身を鍛え続けていた。
やがて夜が明けて、仕事を終えた男は元通りに刀を台の上に置き、赤々とした暁光の中に消えていった。
剣福が起きて見てみると、まさにその刀が夢と同じ所に置かれていたという。
なにせ夢の中の出来事だったので、はじめ剣福は自分の勘違いかと思ったが、鞘から抜かれた刀身には燃え上がる炎のような美しい刃紋が浮かび上がっていた。

鍛冶を司る神の名にあやかり、灯代が『紅蓮踏鞴(ぐれんだたら)』と命銘したその剣は、一族の家宝として代々の当主と剣士に受け継がれ、数え切れないほどの鬼を屠ってきた。
時は流れ、九重楼に幽閉された二柱の神をついに解放した十数代目の当主の手にはその剣が握られていたという。

(完)

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