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奇譚小函―きたんこばこ―

R-18 二次創作テキストサイト

俺屍サマナー

DEATH OF THE OTHERSIDE OF A CHAIN


氷魚の姫は再び、蒼乃祇の手から離れた。
傷付き倒れ、心を折られ、絆を砕かれながらも、若葉を奪還しに挑んできたサマナー達によって。
『烏の羽裏』と呼ばれてヤタガラスの裏仕事を一手に引き受け、夜の闇よりなお暗い世界に生き、死んでいくはずだった蒼乃祇家の片割れ・綾人は愛用の錫杖を握り直し、潜伏していたアジトの窓から飛び出した。
時刻は魔が跋扈する丑三つ時、綾人の視界に広がるのは、異様な色の夜空の下の人気のない異界化した街だった。
捨丸の連れに一杯食わされ、強制的に戦線離脱させられた煉が復帰するまで時間はかからないだろうが、いま綾人は単騎だった。
いかに歴然とした力の差があろうとも、一度に複数のサマナーと仲魔を相手にするほど綾人は無謀ではない。
向こうが分断する作戦に出たなら、こちらも確実に各個撃破して煉が戻るまで露払いの役目を果たそうと駆け出した綾人は、若葉を抱えて建物の屋根づたいに逃走する一同から一人、歩調の遅れた灯代の仲魔――タタラ陣内に狙いを定めた。
若葉を拉致した夜、追ってきた灯代と陣内を退けた蒼乃祇の二人は、その際に二人を冷静に観察し、どの程度の力か評価していた。
短い戦いの中で、この鍛冶神はサマナーに武器を供給し手助けするのが主な役目であり、直接戦闘に向いた仲魔ではないと判断していた。
ゆえに綾人などは陣内を『烏合の衆の中でも、取るに足らない相手』と見なしていたのだが……


追っ手の綾人に気付いたタタラ陣内は、必死に逃げるどころか廃ビルの屋上で足を止め、腕を組んでこちらに向き直り正面から迎え撃つ意思を見せた。
強い夜風の吹きつける高所、追う者と追われる者の立場は逆だが、陣内が返り討ちに遭った時とよく似た舞台だった。

「今ここで、一つ言っておくが」

綾人が錫杖を構えたのを見て、陣内が口を開く。
一度砂をなめさせられた強敵を前にして緊張を滲ませていたが、その口調に恐れや迷いはなかった。

「今回の件で、灯代を成長させてくれて感謝するぞ、お前達の詰めの甘さに礼を言わせて貰う」

その台詞に、綾人の眼に一瞬だけちらついた感情に陣内は気付いただろうか。
それはすぐに不遜な笑みの裏に隠され、綾人は陣内の隻眼を正面から睨み返す。

「どういたしまして、わざわざ首を差し出しに来てくれたんだからこちらこそお礼をしたいぐらいだよ」

陣内の挑発とも本気ともつかない台詞に軽口で返しながらも、綾人は決して油断してはいなかった。
他に伏兵がいる可能性、煉と合流するまでの時間、若葉を見失う危険といった数々の要因を計算し状況分析を続ける。

(こいつも俺を倒せるとは思っていないはず……長く足止めされるほど時間も体力も失って不利になるだけ)

強力な術の触媒となる小さな輝石、身に着けているその数を思い出し、後のためにできるだけ温存するべきと戦法を立てる。
錫杖の先の鈴がシャン、と鳴り、それが戦闘開始の合図のように、陣内が先に仕掛けた。
陣内の手から生み出された四本の剣が風を切り、四方から綾人を襲う。
しかし綾人は飛来する全ての剣の軌道を見切り、小蝿でも払うように錫杖の一振りで叩き落す。
避けるか身を守るかすると思ったが、追撃してきた陣内は武器も持たない素手のまま、逆に一気に間合いを詰めてきた。

(上等!!)

苦し紛れに腕を掴まれるのを意に介さず、綾人は陣内のがら空きの腹部に貫通するほどの勢いで錫杖を叩き込んだ。
体重と速度を乗せた打撃は完全に入り、へし折られた肋骨が内臓にめり込む生々しい手応えがあった。
渾身の突きをまともに食らった陣内は、身体を折り表情を苦悶に歪めるが、なおも綾人の腕を掴んだまま離れなかった。

「……! なるほど、こんな小細工を……」

綾人は忌々しげに自分の手首を睨む。
陣内はただやみくもに向かって来たわけではなかった。
一撃食らうのを代償にあえて掴みかかった『仕掛け』に、魔力を浪費してでも距離をおいて仕留めるべきだったと綾人は舌打ちした。
陣内は口から血を溢れさせ、苦しげに歯を食いしばりながらも、計略の成功に不敵な笑みを見せた。

「だから言ったろう、詰めが甘いとな」

互いの左手首は手錠で繋がれ、しかも瞬時に溶接でもされたように鋼鉄の輪が手首の肉に癒着している。
陣内の方も同じ状態なのを見てとり、綾人は相手の目論見を悟った。
相手の肉体と手首だけでも一体化しているなら、この男も自分自身の一部とされ、転移の術で離脱し綾人だけ若葉を追う事はできない。
鍛冶神が造り出したものが単なる道具であるはずがなく、このぐらいは予測していた綾だったが、最も脆い部分である手錠の鎖に手刀を振り下ろそうとして――思いとどまった。

「ほう、やはり気付いたか」

にや、と笑う陣内の決死の意図が、互いの手首と一体化した手錠を伝わって綾人にも感じられた。
陣内の身体を火薬庫とすれば、この手錠はいわば起爆装置だ。
逃れるため手錠を破壊したり手首ごと切断すれば、それを引き金に体内の火気が炸裂し、綾人を道連れとする腹積もりだ。
陣内が繰り出した『剣の結界』を完全に封殺した、あらゆる攻撃を打ち消す守護の力を秘めた石でも体内からの破壊を防ぐすべはなく、いかな綾人といえどこの距離で逃れるには左手を犠牲にしなければならないだろう。

「仲魔を捨て石にするとはね、あの子、結構エグい事するんだねぇ」
「お前の口からそんな台詞を聞くとはな……! ともあれ、しばらく俺に付き合って貰うぜ!」

痛む身体に鞭打ってタタラ陣内は左腕をぐっと引き、二人を繋ぐ手錠の鎖が張り詰める。
その動きに引っ張られて綾人の上体が前のめりになったが、バランスを崩す事はなくむしろ陣内の力を利用して、右手の錫杖で勢いに乗った突きを繰り出してくる。
だが、直ぐに攻撃に移ると相手も読んでいたのか、まともに当たれば骨を打ち砕く錫杖の先端は陣内の頬をかすめただけに終わり、綾人は小さく舌打ちする。
互いの懐に入り込むような超近距離の戦闘では長い得物の利点は封じられ、むしろ隙が生まれて不利になる事を、錫杖の使い手である綾人自身理解していた。
灯代と陣内の二人を容易くいなした技巧が充分に発揮できない中、陣内はさらに次の手を打つ。

「――業火抱く永劫の炉よ、鉄火の神の名においてその扉を開け!」

鍛冶神が支配する炉に命じた言霊によって、陣内の身体が発火し、猛り狂うような炎に包まれた。
肌と髪を焦がさんばかりの、吸い込めば喉が焼け爛れるほどの熱気が至近距離で綾人を襲った。
火神の力をもって我が身を燃やす炎と熱を防壁とし、さらに追い詰めようとした陣内だが、黙って火炙りにされるような綾人ではない。

「暑苦しいんだよ……!」

綾人は形のよい眉をわずかにひそめただけで、得物を逆手で短く持ち、構え直す。
錫杖の先端の鈴が鳴る、その澄んだ音に合わせるように水の加護を借りた呪を呟くと、揺れる水面(みなも)の輝きを思わす淡い光が身体を覆い、結界となって業火を防ぐ。
揺らぐ光の膜を通して、陣内が火の中から精製した短刀を、至近距離の綾人目掛けて投擲する構えが見えた。
綾人はうかつに左右に避ける事はなく、思い切り良く身体を反転させ、膝を折り低い姿勢をとった。
流れるような動作に綾人の手錠の鎖が捩れ、陣内の腕もそれに引きずられるように逆方向に捩れ、筋と関節を無理矢理に引き伸ばされる耐え難い苦痛が走る。
短刀は呆気なく手から滑り落ち、足元で乾いた金属音を立てた。
捩じ切れるかと思う間もなく背中に強い衝撃を受け、炎を纏ったままの陣内の身体は地面に投げ倒されていた。
手錠で繋がった左腕の関節を極めたまま、綾人は体を炙る高熱も厭わず、仰向けになった陣内の胸を靴底で押さえつける。
綾人の容貌には一見似合わぬ体術だったが、それは今まで蒼乃祇が潜り抜けてきた修羅場の数を物語っていた。

「ぐうぁっ!」
「他愛ないね」

手元で錫杖を回転させた綾人は、その先端を陣内の無防備な喉元にピタリと突きつけた。
一突きで喉仏を砕ける体勢に、陣内の命運は尽きたと思われたが――

「おらああぁっ!!」
「……っ!!」

身にまとう炎を切り裂いて、真下から突き出された高速回転する刃を綾人は間一髪避けた。
綾人が後ろに退き、押さえつける足の力が緩んだ隙を陣内は逃さず、力を振り絞って起き上がりざま横殴りに凶刃を振るう。
それは普通の剣ではなく回転鋸に酷似した武器だったが、一般的に使われる工具よりは小型で、陣内の片腕に装着された鋼鉄の手甲と一体化したような構造だった。
陣内の能力で造り出された回転鋸は、魔力を糧に駆動し凶暴な唸りを響かせ綾人に迫る。
超人的な反射神経と瞬時の判断で綾人は錫杖を捨て、空いた右手で咄嗟に白刃取りした。
素手の指で挟んで押しとどめているその鋸刃は目と鼻の先でなおも動き続け、僅かでも指の力が緩めば触れるものをズタズタに切り裂くだろう。
しかし、それでもなお能力で上回る綾人は冷静に相手を分析し続けていた。

(こいつの魔力の総量はそう多くない……どれだけ保つ? あと三分か? 一分か?)

陣内はその力の多くを無から有を造り出す技につぎ込んでおり、身体能力や魔力においては並みの人間とそう変わる所はない。
今の陣内は綾人と並走するためずっと全速力で駆け続けているのと同じ事で、息を切らしながら張り合っているものの、間もなく力尽きると綾人には読めていた。
仲魔に魔力を供給するサマナーと離れて単身で戦っている以上、失った力を補給する手段は無い。
このまま陣内が綾人と戦い続けていれば、残る運命はジリ貧に追い込まれ数分以内にすり潰されるのみだ。

「……ずいぶん震えているじゃないか、タタラ陣内。 あんたから喧嘩売っておいて今更怖気づいたのか?」
「やかましいぜ! 今すぐそのすました面を真っ二つに……」
「まあ、こんなに『寒い』なら震えるのも無理もないけどね」

膠着状態のまま回転鋸の刃を押さえ続けている綾人の台詞に、陣内の背筋に凍りつくような戦慄が走った。
真冬の夜風がまともに当たる屋上とはいえ、確かに震えるほどに寒い、いや寒いなどとというものではない。
今し方まで場を満たしていたのは、タタラ陣内が生み出した炎による身を焦がすほどの熱気だった。
しかし今は微かな体温も容赦なく奪う冷気が白い靄を作り、温度計があれば零下何℃を指すか分からない凍える寒さが綾人を中心に発生している。
いまや陣内の身体は地面から這い上る冷気によって、実際に凍りつつあった。
すでに感覚のない足の裏は床に霜で貼り付き、回転鋸を持つ手は指が固まって動かない。
このままではじきに全身が氷の像と化し、震えさえも凍りついて止まってしまうだろう。

「うかつに近付いて自分の首を絞めたのはあんたの方だよ! もう後悔する時間もないね……!」

術者である綾人にとって、身を守る水の加護をそのまま攻撃に転じる事など造作もない。
陣内の火の力を以った戦法と同じだが、こちらは永久に溶ける事のない氷室の中に閉じ込められたような極寒地獄だ。
鍛冶神の炎をもってすれば相殺できそうなものだが、彼が司る火も魔力が失われるにつれて弱まり、無慈悲な冷気の侵食を許してしまう。
綾人の指に抑えられている鋸刃も白く凍りつき始め、次第に動きが鈍くなり、ついに力尽きるようにその回転を止めてしまった。

「畜生め……!!」

血の流れまでも凍らされた手足は骨の髄まで痺れきり、もはや冷たいとさえ感じない。
文字通り手も足も出ない窮地に追い込まれ、胸まで凍らされた陣内が絶望的な声を漏らす。
魔力がついに底を尽き、構造を保てなくなった回転鋸がばらばらの部品になり、それも脆く崩れていく。
同じく陣内の手で造り出された、互いに繋がれた手錠も同様にその形を失いつつあるのを見てとった綾人は、地面に落ちた錫杖を足先で器用に引っ掛けて跳ね上げ、再び手に取る。

「さてと、この手錠が外れたら鬼首の方もさっさと片付けさせてもらうか……あんたが必死で稼いだ五分、その時間分だけは遊んでやるさ」

綾人は気付いた。
回転鋸のけたたましい駆動音が消えても、鈴の音が聞こえない事を。
代わりに聞こえるのは澄み渡る歌声、この世のものとも思えない甘美な響きの葬送曲。
それが死に誘う歌と知っていながら、誘惑に耳を塞げず海に身を投げる船乗りの伝説を思わせる、この歌声の主は。

「……お前はっ!?」

振り向いた綾人の視線の先には、隣のビルの看板の上に佇み、背に畳んだ翼に街灯の逆光を受け歌う鳳あすかの姿があった。
戦いなどには向きそうにない繊細な衣装に包まれた細い体、しかし万事において享楽的なこの神には珍しい事に、その眼には確固たる戦意が含まれ、真っ直ぐに綾人を射抜いていた。
あすかの呪をのせた同じ波長の歌声によって、綾人の錫杖が奏でる鈴の音色が打ち消されたのだった。

「遅かったじゃねぇか……!」
「陣内さん、そんな無粋な言い草じゃなくて拍手喝采で出迎えてほしいところだね」
「馬鹿野郎! こっちは必死こいて命張ってんだぞ!」

前の戦いで、相手の動作を観察し手の内を読んでいたのは綾人だけではなかった。
あの時、灯代と陣内の攻撃が綾人にかすりもしなかったのは力の差もあるが、陣内には戦闘中ずっと感じていた微妙な違和感があった。
綾人の錫杖の先で揺れる鈴――その涼しげな音色自体が呪となっていた事に、かつて戦ったあすかが『歌』で栞の負傷を癒していたのを思い出し、その秘密に気付いたのだ。
絶えず鳴り続ける鈴の音色によって、本人も気付かないほど自然に五感を狂わせられた事に。
陣内はあすかの力を借り、自ら囮となって、一流の術師によるこの幻術を破る策を立てた。
鈴の音を聞かなければ術にかからないなら、ただ耳を塞げば済むだけだが、陣内とあすかの狙いはその上をいっていた。

「得物として役に立たない間合いの中でも、お前はそいつを後生大事に持ってたからな、読みが当たって嬉しかったぜ」
「……やってくれたな、正直、君らに見抜けるとは思わなかったよ」
「そして、お前も術者なら知らないはずがないだろう、相手に破られた呪は……そのまま、術者に返る!」

陣内のその言葉に、綾人が自分の立っている場所を確かめようとした時にはもう遅かった。
あすかの呪が上乗せされた自らの術にかかり、無意識に五感に狂いが生じた綾人の踵は、今まさに危ういバランスで立っていた屋上の縁を踏み外し、呆気ないほどにたやすく転落した。
ちょうど彼の従兄に吹き飛ばされた灯代と同じように。

「く……!!」

しかし綾人はただ大人しく地上に叩きつけられるはずもなく、錫杖をビルの壁面に突き立て落下する体を辛うじて支える。
近くの窓を破るか、隣の建物に飛び移るか決めるより早く、腕一本でぶら下がる綾人がその眼に捉えたものは――

「今から君に味あわせてあげるよ……栞ちゃんの受けた屈辱を!!」

いつも分け隔てなく女に微笑みかけるあすかの眼は、今は狂気に近い怒気を滾らせていた。
羽音と共に広げられたその白い翼がネオンの彩光に照らされ、瞬く間に紅蓮に燃え上がる。
神としての真の姿である鳳(おおとり)の形態に変化を遂げたあすかが、全身を炎に包まれた超高熱の塊と化して綾人に突っ込んできた。
結界、転移術、身体一つで跳ぶ、今の綾人に可能などの回避手段よりもあすかの翼の方が速かった。
蒼乃祇の片割れにして、烏の羽裏で屈指の術師・綾人は、声を上げる間もなく華々しいまでの炎と熱波に呑み込まれた。

「……あすかの奴、予想以上に派手にやりやがったな」

死闘の舞台となっていた廃ビルは衝撃に揺れ、倒壊する寸前だった。
人のいない異界で起きた事とはいえ、表裏一体である現世にも破壊の影響は多少あったかもしれない。
あすかが起こした熱気の余波で、陣内の手足を戒めていた氷の呪縛が溶け出す。
腹部のダメージに加えて四肢に凍傷を負ったが、凍らされていたのが短時間で済んだおかげで、幸い手はまだ元のように動くようだ。
頭部や内臓といった箇所よりも、職人の命であり能力を司る部分である『手』の負傷の方が実のところ陣内にとっては致命的なのだった。
優男の姿に戻ったあすかが翼を畳み、ふわりと屋上に降り立つ。

「陣内さん、大丈夫かい?」
「お前に心配されるほどじゃねぇよ、おさなづまの心配でもしてろ」

先程の憤怒は憑き物が落ちたように消え失せており、あすかの口調がいつもの能天気なそれだった事に陣内は内心でほっとした。
綾人は灰塵も残さず焼却されたかと思われたが、陣内には一つ気がかりな事があった。
『剣の結界』を完全に無効化した、守護の力を秘めたあの石……あれと同じものを持っていたとしたら、辺り一面を灼き尽くす業火を防いで逃げおおせる事もあり得るだろう。
流石に無傷とはいかないだろうが……と、陣内は感覚が戻りつつある指を鳴らして火花を熾し、懐から取り出した煙草にいまだ震える手で火を点けた。
気を抜くと下腹からこみ上げる激痛にまた血を吐きそうだったが、奇妙な色紙で巻かれた煙草を燻らすにつれ、鎮痛効果をもたらす紫煙が傷ついた身体に心地よく染み渡る。
心身の回復には程遠いが、この一本を吸い終えたら陣内は再び走り出さなければならない、今度は灯代の戦いを支え、見届けるために。

「あすか、栞にやってたあの癒しの歌って俺にも効くのか、さすがに灯代の所まで走って行けそうもない」
「ぼくのラブソングは栞ちゃんにしか聞かせないんだよ、男に歌ってやるなんてとても勿体無いね」
「そう言うと思ったぜ……じゃあ翼に乗せて運んで貰おうか、重いから嫌だとか抜かしたら後で栞に言いつけるぞ」

半分は本気の陣内に、恐妻家のあすかはやれやれと細い肩をすくめながら再び翼を広げる。
陣内の指に弾かれた吸殻の火口が闇に赤い軌跡を描き、それは地面に落ちる前に一瞬で燃え尽きて灰になった。

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