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奇譚小函―きたんこばこ―

R-18 二次創作テキストサイト

俺の屍を越えてゆけ

いと愛しき日々 後編

タタラ陣内が交神のため一族の屋敷を訪れて、半月が経ったある日の事だった。
夕餉の後、灯代は小さな手に何かを大事に握り締め、自室にいる叔母に声をかけた。

「叔母様、ちょっといいですか」
「なあに、灯代」

障子を開けて顔を覗かせたのは、真っ直ぐな長い髪を二つに括った妙齢の女だった。
短命の呪いを差し引いても、灯代と並ぶと姉妹にしか見えないこの若々しい叔母に、灯代はおずおずと手を差し出した。

「これを……」
「あら懐かしい、大事に持っててくれたの」

灯代の掌にある、白い貝殻細工で作られた椿の花の簪を見て、叔母は顔を綻ばせた。
それは灯代が天界から家に来た時、この叔母が贈った品だった。
女子なら誰でもこれで髪を飾りたいと思うような綺麗な簪だが、物心ついた時から短く切り揃えている灯代の髪には差す機会がなく、ずっと大事に仕舞っていた。
それがどういう風の吹き回しか、今になって簪を持ち出してきて付け方が分からないので教えて欲しいと言うのだった。

「私の髪って短いからうまく付けられなくて」
「ああ、陣内様に見せたいのね、言わなくても分かるわ」

説明してもいないのに叔母に言い当てられ、灯代はサトリの妖怪に心を読まれたように驚いたが、これほど分かりやすい理由もない。
叔母はそんな姪を微笑ましく思いながら、鏡の前に座るよう促した。

「灯代もお洒落を気にするようになったのねぇ、やっぱり好きな殿方のためにきれいになりたいって思うわよね」
「うん……こんなふうに思うのって初めて」
「あはは、私が黒鉄右京様と交神した時の事を思い出すわ~」

閨の中で『俺のどこに惚れたんだ?』と黒鉄右京に訊かれた叔母は、交神の申し込みに『承知!』と良い返事をしてくれた所、と答えて相手の腕に身を任せたのだった。
それを昨日の事のように思い出しながら、女の楽しみに目覚め始めた灯代の赤い髪を櫛で丁寧に梳く。
あと半刻もすれば閨に行く姪の横顔は緊張と高揚に早くも上気しており、彼女の初陣の時を思わせる。
そんな姪にふとお節介心を起こした叔母は、いい事教えてあげようか、と灯代の耳元に囁いた。

「ね、口取りって知ってる? お口で、……を舐って差し上げると殿方はとても悦ばれるのよ」
「えッ!? く、口で……?」

座ったまま飛び上がるほど驚いた灯代に、叔母は悪戯っぽい笑みを見せた。
口でするなど聞いた事もないようなこの反応を見る限り、かの男神は灯代にそういった戯れはまだ求めていないらしい。

「私も初心だった頃、右京様に口取りをして欲しいと仰られてびっくりしたけど、やってみると意外に熱中しちゃって、一晩であの方のいい所全部覚えちゃったわ」

叔母は自分の交神の体験を話しながら、器用に髪を編んでいる。
初めて聞く事に興味津々の灯代は、無意識のうちに叔母の口元を鏡越しに見つめている自分に気付いた。
愛しい男との閨での思い出を語るふっくらした唇が、見てはいけないもののような淫靡な器官に思えてしまう。

「あら、もじもじして……興奮させちゃった?」
「……少しだけ」

口取りという仕方に頭が一杯で、とんでもない行為だと思ったが、いつも良くしてくれる陣内に今度は自分が奉仕して相手を気持ち良くさせる事を想像すると、それだけで灯代の身体の芯は熱くなった。
叔母の艶めかしい体験話で更に好奇心を刺激され、陣内が悦ぶのなら今夜にでも試してみたい位だった。
やがて叔母は手を止め、鏡で仕上がりを見せた。

「見てごらん、とても可愛くできたわ、陣内様もきっと気に入って下さるわよ」
「わぁ……叔母様、有り難うございます!」

編み込んだ髪を耳の上でまとめ、簪で留めた髪型は、灯代の短い髪でも綺麗な簪と不釣り合いにならず見栄えしており、鏡の中の灯代自身も目を丸くするほど華やかな印象になった。
赤い髪を飾る白い椿の鮮やかな対照に、仕上げた叔母も満足気だ。

(陣内様、今の私を見たら何と仰って下さるかしら……)

目を輝かせて鏡に見入る灯代に、若々しい叔母は「試してみるといいわ」と吹き込み、姪を真っ赤にさせた。



その夜は、タタラ陣内が待つ閨に少し遅れて灯代がやって来る、いつもと逆の状況になった。

「すみません、お待たせして……」

すっと襖を開けて薄明りに照らされた灯代は、いつもと違う美しく編み込んだ赤い髪を白椿の簪で飾っており、白い夜着には淡い香りが焚かれ、それだけで交神に臨む彼女への親族やイツ花の心尽くしが感じ取られた。
自分のためにわざわざ装ってきた女心が愛しく、陣内は可憐な新妻を側に招いた。

「その髪は、自分で編んだのか?」
「いえ、叔母様にして頂きました。 この簪も……」
「よく似合っている、お前は夜毎に美しくなるようだな」

天界で美しい女神を見慣れているだろう相手に自分の姿がどう映るか、内心気になっていただけに、灯代は陣内の言葉に嬉しさを隠せなかった。
夜着に包まれた華奢な身体を抱き寄せ、温もりと香りを愉しむ陣内に灯代は思い切って声をかけた。

「あの、今夜は私の方から……床の稽古を申し込んでも宜しいですか?」
「ほう……?」

閨では終始羞じらう灯代が珍しく大胆な事を言い出したので、陣内は少し意外だった。
初夜よりずっと自分が主導権を握っていたが、灯代の好きにさせてみるのも面白いかもしれない。
そう思っていると、灯代はさらに意外な台詞を口にした。

「口取りの仕方を聞いただけで、まだ実際にした事はないのですが、もし陣内様が良ければ……私の口で、御奉仕しても宜しいでしょうか」

本人は至って大真面目であったが、まだあどけない顔立ちで淫靡な奉仕を願い出る落差が余計いやらしく、陣内の左目は灯代の愛らしい唇に釘付けになった。
一体誰から口取りの仕方など聞いたのか気になるが、この初心な娘が自ら口淫に挑戦するというのだから、そんな事はどうでも良くなった。

「宜しいに決まってるじゃねぇか、灯代は可愛い事を言うな」
「で、では、失礼します」

ぎこちない手つきで陣内が纏う古代の装束の帯を解き、下衣の間に滑り込ませた灯代の指先が男の器官に触れた。
衣の中からそっと引っ張り出した肉の根は軟らかな感触で、灯代の手の中でまだ眠り込んでいるようだった。
男の脚の間に屈み込み、両手で包んだ肉具をしげしげと見つめながら(これがあんなに熱く硬くなるなんて)と不思議そうな顔をする灯代を、つい陣内はからかいたくなった。

「毎晩見ているものなのに、そんなに見とれるほど珍しいか?」

タタラ陣内に声をかけられて我に返った灯代は、ちゃんと奉仕しなくては、と気を引き締めて手にした肉具に顔を近づけた。
陣内の言う通り、慣れ親しんだもののはずなのにこうして間近で見ると少し不気味だったが、両手で捧げ持った逸物の頭へその瑞々しい唇を捧げた。

「ちゅっ……ん……くちゅ……」

雄の本能自体を目覚めさせるように、二度三度と優しい口づけを浴びせ、淡く紅を差した唇を開いて肉具をその中へと迎え入れる。
大事な器官なので歯を立てないように、という叔母の教えを忠実に守り、陣内のものを口腔粘膜と舌で包み込むようにして愛撫を始めた。

「ふぅ……んふっ、むぅ……っ」

刺激を与えようと夢中でむしゃぶりついていると、だらりとしていた肉の筒に芯が通るように血が集まって徐々に硬度を増してきた。
形を成しつつある男根を半ばまでくわえた唇にも、熱い血の脈動が感じられた。
口戯に反応して大きく硬く変化していくのが面白く、灯代は頬を火照らせながら一層熱心にしゃぶり立て、唇と舌で何度も逸物の形を確かめた。
口の中で硬く膨れ上がったものを見てみたいと思った灯代は、努力の成果を確認しようと、いったん男根を唇から解放した。
ふうっ、と一息ついて見下ろした男根は、灯代の唾液に塗れてぬるぬるに濡れ光り、先端からそれとは違う新しい露も先走らせていた。
口に含む前と比べて一回りも大きくなり、すぐにでも交合えそうなほど立派に張り詰めていた。

「すごい……もうこんな……」

灯代は眼を輝かせて感嘆の声を上げる。
初めて自分の口で立派に勃たせたそれに一層愛着が湧き、根本まで美味しそうにくわえ込んで再び唇と舌で可愛がろうとする。
『心の火』の強さによる持ち前の積極性を発揮して、灯代はもう臆さず迷わず、ただ口戯にのみ集中して陣内を追い上げていった。
なにせ初めて行う性技なので巧みとは言えないが、気持ちよくさせようと一生懸命なのが何より可愛らしく、陣内は自覚する以上に淫情を掻き立てられていた。

「お前……本当に今日はいつもと違うな……」

灯代の唇からは返事の代わりに、ちゅぷっと秘めやかな音が漏れただけだった。
だんだんとコツを掴み始めた小さな口の中で、どれほど淫靡な戯れが為されているか、お互い言葉で表すまでもない。
傷口を舐めるように優しい舌使いは、痛いほど張り詰めた男根に苦悶と紙一重の快感を与え続けていた。
括れを集中的に舐め回され、唇を噛む陣内の荒い息遣いが灯代の紅潮した耳に聞こえてくる。
とろけそうに温かな口腔の中で、男の器官はもう鉄梃のように硬直していた。

「灯代、もう止せ、このままだと」

陣内のやや上ずった制止に灯代は耳を貸さず、淫らな熱に浮かされたように口取りを続けていた。
このまま続ければどうなるか知っていたが、その結果を望んでいた。
情欲の滾りを吐き出すのを促すように、根元から先端へと唇の環でゆっくり擦り上げ、太い裏筋を濡れた舌がなぞっていく。
献身的な奉仕とも、連夜一方的に蕩かされている仕返しとも言える行為は、鈴口を舌先で嬲られて限界を迎えた陣内の呻きで途切れた。

「う……!」
「……んっ! んうぅっ……!」

とうとう熱い飛沫が口腔内に勢い良く放たれ、灯代はどくどくと震える肉根に口を塞がれたままくぐもった声を上げた。
粘つく子種が喉に絡み、一息で飲み下す事もできず口を押さえて苦しげにむせ返る灯代の背中を陣内は慌ててさすってやった。
どうにかまともに呼吸ができるようになり、灯代は慎ましい胸の膨らみにまでこぼれた白濁の痕跡を見下ろし、まだ興奮の色冷めやらぬ様子で口を開いた。

「たくさん……子種、を出されましたけど、気持ちよかったですか?」

あまりにも率直に聞かれ、陣内は珍しく狼狽えた。
気持ちよくないわけがなかったが、こんな年端もいかない娘の口に搾り取られ、おまけに汚してしまったのはばつが悪く、素直に答えるのにいささか抵抗があった。
どう言えばいいものか陣内が迷っている間、灯代は口元に手をやり、先程放たれたものの温度や味を反芻するような仕草をしていた。
いつも子壷でたっぷり受け止めている生命の素をじかに味わい、考え込むような神妙な表情をしている。

「初めて口にしましたけど、陣内様のは何だか不思議な味でした……」
「そ……そうか」

そんな感想を聞かされても、元々味わうようなものではないのでやはり何と答えればいいか分からず、神の端くれともあろうものがどぎまぎするばかりだった。
とりあえず汚れた口元を懐紙で拭いてやろうと、顔を上げさせる。
灯代は初めて自分から相手を吐精させた達成感に満足げな顔をしていたが、陣内と目が合って照れ臭そうに微笑んだ。

「やれやれ、このままだと俺が一方的に搾り取られるのも時間の問題だな」
「そんな……」

苦笑しながら冗談半分に言う陣内だったが、もう半分は本気だった。
灯代と過ごす日々の中で、人間というのは瞬く間に成長するものだと身をもって実感していた。
初めての口取りでせっかく差した紅が落ちてしまったが、かえって艶を増した灯代の唇を陣内は指先でなぞった。
灯代の藍色の瞳はとろんと濡れ、まだ冷めない興奮にあどけない顔が上気して汗ばんでいる。
陣内に何もされずとも、男根を夢中で舐っているうちにすっかり気分を出してしまったのかも知れない。

「色っぽい顔しやがって、俺を寝かせない気か?」

薄明りの中、二人は戯れながら互いの着衣を解いていく。
陣内の手ではだけられた白い夜着の内側から、淡い梅の香と女の匂いが入り混じってふわりと匂い立った。
季節は雪がちらつく師走の月だったが、熱が篭る閨の中で肌を合わせる二人は肌寒さなどまるで感じない。
灯代は美しい簪、陣内は右目を覆う眼帯以外身に着けているものは何もなかった。

「灯代があんな事をするもんだから、おさまらなくなっちまった」
「あっ……」

細腰を抱き寄せられ、臍の下に押しつけられた硬いものが何か、見ないうちから分かった灯代は頬を赤らめた。
陣内の肉杭は腹を打ちそうに反り返っており、一度放ったとは思えないほど猛々しかった。
先程の熱心な口戯に情欲を煽られたせいで、一刻も早く収まる処に収まりたくて仕方ないようだった。

「裸に剥いてから言うのも何だが、せっかくの髪を崩すのは勿体無いな」

陣内は灯代を床に押し倒す事はせず、胡座をかいた自分の膝を跨ぐように座らせた。
もちろんただ座るだけではなく、灯代はすぐ真下の勃起をどうするべきか命じられなくとも察し、自ら手を添えて小ぢんまりした割れ目にあてがった。
初めての奉仕で官能に火がついた灯代の花園は、既に柔らかくほころびて潤んだ内襞を覗かせている。
濡れた粘膜同士が接触し、控えめな口付けに似た音を立てた。

「あ、あんまり見ないで下さい……」
「今更だろう? ほら、遠慮するな」

互いの息がかかる程の近さで男の視線に全てを晒け出し、あれほど一生懸命に口淫を行った灯代も流石に恥じらって目を伏せたが、陣内が押し当てられたそこは早く奥まで貫いて欲しいと期待に疼いている。
膝立ちのままそっと腰を落とし、燃えるように熱い先端を受け入れていく。

「んっ……! あぁ……はぁ……っ」

半ばまでが花芯に埋まり、さらに根本まで焦らすようにゆっくりと沈んでいく。
熱い肉を覆うぬめりを粘膜でじかに感じながら、先程までの濃厚な口淫を否応無く思い出してしまい、一層身体を熱くした灯代は陣内の大きな肩に縋った。
その赤い髪に差された簪の白椿が揺れ、小さく音を立てる。
幼さの残る顔を紅潮させ、小柄な体で一生懸命に肉根をくわえ込む灯代の姿態に、陣内はさも愛しげな眼差しを注いでいた。
やがて互いの下腹がぴたりと密着し、もうこれ以上収まらないと知り、灯代は熱っぽい吐息を震わせた。
濡れた粘膜が反りに吸い付くように馴染んで、先端が子壷の口まで届くようだった。

「良く出来たな」
「んん……」

はじめは拒むように窮屈だった灯代の火処は、夜毎の交合に慣れていくと次第に陣内の形に合うように柔軟に変化していき、今では一組の鍵と錠のようになっている。
いや、逆に陣内のものが灯代にぴったり合うようになったのかも知れない。
今の灯代にはそうとしか思えなかった。

「いやぁっ……陣内様ぁ、動かないで……! 動いちゃだめっ……」

硬い肉が胎内を緩やかに掻き回し、堪らず灯代は舌足らずな声を上げた。
だが陣内は可笑しそうに口角を上げるだけで、哀願する灯代をからかうような口調で指摘した。

「『動かないで』? 自分から腰を使っておいて俺のせいにするのか、悪い娘だ」

陣内の言う通り、相手を貪るように悩ましく動いているのは灯代の華奢な腰ばかりで、陣内の方はまだ微動だにしていない。
小ぶりな尻を陣内がごく軽く叩いてやると、灯代は眉を寄せて肩を震わせたがそれでも腰は止まらない。
灯代のぎこちない腰使いのたびに、繋がった処から秘めやかな音が立つ。
先刻まで唇と舌で愛されていた肉根は、今度は温かな肉に絞られながら甘い蜜にまみれ濡れ光っていた。

「陣内様がいけないの……だって、毎晩……あんなにされたら……」

自らの行いを責任転嫁するような性質ではない灯代だが、途切れ途切れのその訴えはどこかいじらしい響きを帯びていた。
灯代の内側は陣内によって幾度も熱と快楽を覚え込まされ、一度受け入れればもう気をやるまでどうしようもなくなってしまう。
仕立てた張本人の陣内はそれを承知でわざと動かずに、膝を跨ぐ灯代の痴態を面白そうに眺めているのだ。
何も知らなかった自分を悦びに溺れさせた男を責めながら、その細腕は陣内の肩から離れず、小鹿のような脚は逞しい腰に絡み付き、女の器は欲しくて堪らなかったように絶えず肉根を食い締めてくる。

「私……こんなに恥ずかしいのに、すごく気持ちよくって……止まらないのっ……」
「そうかそうか、灯代は俺のせいでこんなにいやらしくなっちまったんだな」

随分な好き者に育ててしまったものだと陣内は苦笑しながら、身体を開いたまま拗ねたように半べそをかく灯代の背を宥めるように撫でてやる。
自分の指で、唇で、肉根で、灯代がどんなふうにされたいか陣内は知り尽くしていた。
たっぷり口で愛された礼をしようと膝の上の小柄な身体を揺すってやると、繊細な粘膜を襲った激しい振動に灯代は小さく悲鳴を上げた。

「やんっ、いきなり……!」
「まだだ、堪えろよ」

まだ生硬な印象のある、男の掌に収まってしまう位の控えめな膨らみは、他の部分の肌と同じように紅潮して汗の粒を浮かべていた。
下から突き上げられる動きに小さいなりに揺れながら、その頂点で触れられてもいないのにけなげに勃っている両の乳首を、陣内は指の腹で捉えてきゅっ、と軽く押しつぶす。

「……っふぅぅ!!」

灯代の息が詰まり、膝の上の肢体がびくん、と跳ねた。
突然新たな刺激に襲われたせいで、灯代にいきなりきつく締め付けられた陣内の方も思わず歯を食いしばる。
しばらく物も言えずに荒い息の下で身体を震わせていた灯代だが、ようやく言葉を発した。

「陣内様ぁ、だめ……怖いの……ここだけで、変になっちゃう……」

弄られただけで果てそうになったらしく、灯代は今にも泣き出しそうだった。
元々敏感な性質とはいえ、ぷっくり色づいた乳首を軽く苛められただけでというのは大袈裟かもしれないが、今の生々しい反応を見る限り誇張などではなかった。
何より床の中で嘘などつけない灯代の性分が証明しており、陣内は一旦間をおいて灯代の身体を落ち着かせる事にした。

「そうだな……では、もっと別のところがいいか?」
「あっ……」

陣内の温かい掌が下腹にそっと当てられ、灯代は小さく声を上げた。
外から軽く圧迫され、苦しいというほどではないが、胎内に食い入る硬さを改めて意識してしまう。

「こん中にちゃんと収まってんだから不思議なもんだ……どのあたりだろうな、灯代の一番弱いところは」

囁かれたその内容を理解し、灯代は堪らなくなって眼をつぶった。
肌の上から触れて分かるはずもない深いところに隠れた、この男のために設えられていたような、柔らかく粒立った敏感な一帯の事を言っているのだ。
初夜に見つけられて以来、訪れた陣内を甘美な摩擦で何度となく歓待し、幾度も熱い迸りを受け、灯代に抗えない悦びを教えたそこ。
この体勢で陣内に一部始終を見られながら、自分から腰を使ってあの部分に思うさま擦り付けて、気をやるまで貪りたい。
ふとしたその思い付きに、肌の内側で欲情が一気に昂ぶり、灯代はぞくぞくするような期待に眼を潤ませた。

「お願いっ……もう、イかせてぇ……陣内様ので、イかせてっ……」
「灯代、お前……?」

震える吐息交じりに訴えながら、膝を跨いだままの灯代がゆっくりと腰を浮かし、体重をかけて再び自らを貫こうとする。
自分の何気ない言葉のせいで火をつけられたとも知らず、いっそう熱くなった粘膜に擦られて陣内は声を噛み殺した。
灯代自身の唇と同じ色をしている、と陣内にあからさまに評された事のある肉の合わせ目が、先刻までの口淫以上に深く男を咥え込み、蕩かしている。
貪欲とも健気とも言えるその所作は、陣内の情欲を燃え立たせるに充分だった。

「ん、くっ……はぁんっ……ふあぁ、あぁっ!」
「結構やるじゃねぇか、お前もっ……」

全身を上気させて乱れる灯代の姿に、押される自分を鼓舞しようと陣内は不敵な笑みを作った。
陣内の動きに合わせて灯代の腰が弾むたびに、蜜に塗れた剛直に柔襞をめくり上げられ、何度も良い処を貫かれる。
初めての時は陣内が望むようにと恥じらいながら声を上げていたが、こうも弱点ばかりを突かれていては、悦びを知った身体が堪えられるはずもなかった。
よく知った雄の形が灯代のなかを往復するたびに、重なり合った粘膜が逃すまいと絡み付き、濡れた音を立てながら擦れ合って互いの腰が砕けそうな快感を絶え間なく生む。
熱くたぎる先端に最奥の花園を小突かれ、灯代は切ない声と共にほっそりした背を仰け反らせた。
同時に陣内の喉から漏れる呻きは、肩に爪を立てられる痛みのためか、それとも入り口から締め付けられたためか。

「あ、あぁ! もっと、深くっ」
「くっ、う……!」
「陣内様っ、陣内様……! いいのっ……」

灯代が息をつくたびに、繊細な粘膜の襞が心地よく吸い付いてくるのが陣内自身に伝わってくる。
肩甲骨の浮かぶなめらかな背中には玉の汗がいくつも滴り、悩ましい稜線を伝って腰まで滑り落ちる。
どこもかしこも熱くてたまらないのに震えが止まらない、それは狂おしい熱病めいた震えだった。
限界が目の前にまで近付いた陣内の両手が腰を掴み寄せ、もう抑えが利かないように手加減のない強さで突き上げてくる。
疼いてたまらない、柔らかで微細な粒の集まりにその抽送が何度もぶつけられ、気がふれそうなほどの快感が灯代を苛んだ。
簪が外れて編まれた髪がほどけてしまいそうなほど激しく揺すぶられ、小さな身体の内を灼く熱の塊に意識ごと掻き乱される。
灯代は藍色の眼に甘露の涙を溢れさせ、最後の瞬間を待った。

「もう、もぉ……だめぇ……!!」

一際深い突き上げが合図になったように、陣内を包む粘膜に火が走り、襞の一つ一つが燃え上がる。
そこだけが意思と関係なくひとりでに蠢いて、相手の肉根にまとわりつき絞り上げるのを灯代は感じた。
繋がった処から溶け合うようで、もうお互いの肉の境目が分からなくなるほどだった。
陥落する灯代に引きずられるように、生命の熱さそのままに滾った精が、堰を切ったような勢いで子壷の口へとぶちまけられる。
灯代はその脈動と熱さを最奥で感じながら、恍惚の頂点で意識を飛ばした。



事が済み、夜具の中で裸身を丸めて眠っている灯代の表情は安らかそのもので、ほんのりと染まった頬だけがさっきまでの激しい情交の名残を留めていた。
白椿の簪をまだ着けたままなのに気付いた陣内は、せっかくの細工物が欠けたりしないようにと、そっと簪を抜いて枕元に置く。
編み込みを解いた髪を手櫛で梳いてやりながらしばらく灯代の寝顔を見つめていたが、やがて床から立ち上がり静かに閨を抜け出した。
縁側の先では雪が降り続けており、驚くほど静かな夜だった。
情交の火照りを冷ます陣内の眼に留まったのは、雪を被った庭の早咲きの椿。
雪の白さに劣らない白椿と、燃えるような紅椿が、凍える夜の中誇らしげに凛と咲いている。
灯代の髪に差されていたのと同じその花に眼を引かれ、何気なく枝に手を伸ばした陣内だったが、戯れだけのためせっかく咲いているものを摘む事もあるまい、と思い直してまた引っ込めた。

(……交神の期間が終わるまでには、きっと散り落ちてしまうのだからな)

精一杯咲く儚い花を、灯代の運命に無意識に重ね合わせている自分に気付いた。
花よりは長い、しかし二年も保たない命でありながら、魂を燃やし続けて精一杯生きる人間の娘の力になりたいと陣内は心から思う。
初めての契りの後、灯代が陣内に約束したあの言葉は陣内の中に新たな呪いのように刻まれた。

「 いつかきっと、あの方たちを解放します 」

灯代たちの一族にかけられた呪いは、一代や二代で解決するものではない。
ただでさえ短い命を危険に晒してまで一族の者が戦い続けるのは、自分のためではなく、ずっと遠い未来に生まれてくる子孫のためだ。
自分ではなく誰かのために戦おうとするその心が、タタラ陣内と同じようにいずれは九重楼に囚われた二柱を救い、そして……いつか、きっと、彼女ら一族を忌まわしい運命から解き放つだろう。
陣内と灯代の血を受け継いだ子孫が、いつの日かそれを成し遂げるのを見守ろうと陣内は自分自身に誓った。

「陣内様……寒くないですか?」

いつの間に起きたのか、夜着を羽織った灯代が襖を開けて顔を出していた。
雨や雪の中では火の力は弱まるため、火神である陣内を気遣ったらしいが、屋根の下なのでさほどではない。
灯代を側に招いて夜着の前を合わせてやり、外気に触れてかじかんだ指先を両手で包む。

「さっきまであれほど熱かったのに、もうこんなに冷えちまったな」

二人はまだ温かい夜具の中に足を滑り込ませ、身体を寄せ合う。
指先まで熱く溶かされていた小さな身体は、陣内の腕の中ですぐに温もりを取り戻した。

「それにしても、口取りなんか一体どこで知ったんだ?」
「内緒です」
「こいつ」

忍び笑いに交じる、唇を吸うかすかな音。
床の中で一つ相手を知る度に、また一つ新しい秘密が生まれる。
共に過ごした夜の数だけ幸せな秘密を共有しながら、鍛冶神と人間の娘の一月だけの夫婦の真似事は、明日もまた続く。

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