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奇譚小函―きたんこばこ―

R-18 二次創作テキストサイト

俺屍サマナー

THE OCTOBER COUNTRY


それは、楽しいハロウィーンの夜のことでした。
魔女に怪物に吸血鬼、思い思いのかっこうにふんした、あめ玉よりも色とりどりの仮装。
甘いお菓子をお目当てに、罪のないいたずらにはしゃぐ子どもたちの声。
今夜ばかりは悪ふざけも夜ふかしも許される、面白おかしいお祭りさわぎの裏で、ちょっとした事件が起きていました。


街灯もない暗い夜道を、三つの影がかけ足で急いでいます。
青白い月明かりにうつるその影たちは、いずれも子どもくらいの背丈しかなく、それ以上に珍妙ないでたちをしていました。
先頭を行くとんがり帽子をかぶった影は、手にランタンをさげ、宙に浮くような足どりで軽やかに進んでいます。
それに続く、大きな袋をかついだ影は、なんともふしぎな形の頭です。
絵本に出てくる、人の横顔がえがかれた三日月そのままの頭なのです。
しんがりの影は、人の姿こそしているものの、頭も手足もまるで筒のような形で、一番うしろをトコトコとついて行きます。
奇妙な風体の彼らは、ハロウィーンの仮装にしても、ずいぶん手がこみすぎているようですが、子どもたちが「トリック・オア・トリート!」とお菓子をもとめて家々を回っているのでしょうか。
それにしては、あたりに灯りのついている家はなく、むしろ三つの影はひと気のある場所から遠ざかっているようです。


やがて三つの影は、近所からお化け屋敷と呼ばれている廃屋にたどりつきました。
とんがり帽子の影がひらりと塀を乗りこえて、内側から門の錠を開け、のこる二人を迎え入れます。
ようやく安心したのか、三日月頭の影が、大きな袋を肩からどさりと下ろしました。
このようなぶきみな所で、三人は一体何をするつもりなのでしょうか。

「うぉまえら、ちっとは手伝えェェェ! クタビレてうぉれの顔面がすり減りそぉだァァァ!」
「オイラも灯りで照らしてたヒホ~」
「どんな仕事でも楽じゃないッスよ、お手柄だね、ボクら」

雲の切れ間からきよらかな月の輝きが現れ、口々にしゃべっている三つの影をあかあかと照らしだしました。
ああ、なんということでしょう。
筒のような手足を持つ影は、粘土人形じみた深緑色の肌にとぼけた目鼻がきざまれており、三日月頭の尖ったあごとひたいときたら、どう見ても中にほんものの人の頭があるようには見えません。
そして、とんがり帽子の下には南瓜の頭がおさまっており、目や口をくりぬいたがらんどうの穴の奥には鬼火のような光がもえています。
怪物の仮装をした子どもなどではなく、彼らはほんものの悪魔だったのです。
木をかくすなら森の中といいますが、ハロウィーンの仮装の悪魔たちにまぎれて『ほんもの』が街をうろついているなどいったいだれが想像するでしょうか。
この世のものではありえない姿を気の弱い人が目にしたならば、肝をつぶしてしまうかもしれません。
しかし、本当におどろくべき事件はこれからだったのです。
三日月頭が大きな袋の口を広げると、その中にはなんと一人の女の子が膝をかかえて丸くなっていました。
肩よりもやや短い髪にリボンをつけた、十五・六歳ほどのあどけない少女です。
まぶたを閉じてすやすやと寝息をたてており、袋の中で眠りこんでいるようでした。
三日月頭の悪魔・ザントマンがあやつる魔法の砂を目にかけられると、だれでもたちまち眠くなってしまうのです。
この少女も、そうしてかどわかされてきたに違いありませんでした。

「それにしても上玉だホ、はるばる人間界まで出稼ぎにきたかいがあったホ~」
「この子を大魔王閣下に貢げば、ボクらの株激アゲ確実だよね」
「うぉれも大満足で満月に立身出世だァァァ!!サイコォォォ!」

三体の悪魔はどこかおかしくも奇怪な顔を突きあわせてなにやら相談していましたが、南瓜頭のジャックランタンがふと思いついたように言いました。

「……これだけ魔力がありあまってる子なら、ちょっとぐらいつまみ食いしても……バレないホ……?」
「いい発想だねチミ ひさびさの新鮮な魔力ゴックゴク、う~ん、とってもティスティ」

いっけん粘土人形のようですが、ゆいしょ正しいアボリジニの悪霊・モコイがとぼけた顔をうれしそうにゆがませます。
悪魔たちにとって、人間からしぼりとる生気や魔力は何にもまさるごちそうなのです。
すぐそばで人さらいたちが口々に話していることを何も知らず、少女はおだやかそのものの顔でまだ眠り続けているようです。
ああ、この後彼女はどんな恐ろしい目にあわされてしまうのでしょうか、少女を魔の手から救いにくる者はいないのでしょうか。

「おやおや、こんなさびしい所にみなさんおそろいで、ハロウィーンパーティーですか」

とつぜん、錠が開いたままの門の方から、あやしげな声がしました。
声のぬしは、からんころんと下駄の音を鳴らしながら、こちらに近づいてきます。
いきなりあらわれた何者かに、悪魔たちはいっせいに警戒の目をむけましたが、つんつるてんの着物からひざこぞうをのぞかせて、狐のお面をかぶったその姿を見ると、はりつめた空気はすぐにゆるみました。
そのかっこうは、座敷ワラシとよばれる妖怪のものでした。
小さな座敷ワラシの後ろには大きな影がひかえており、大きな顔のまんなかでぎょろりと一つ目を光らせています。
人間に見つかったのではないと安心した悪魔たちは、この不つりあいな二人組みに声をかけました。

「び、びっくりしたヒホ~、お前らこそこんな所で何やってるホ?」
「わるいけど、いま取り込み中なんだよね、チミら、あっち行っててくれる?」
「まあまあ、そんなことを言わないで、人間からせしめたお菓子を手みやげにさしあげますから」
「なかなか気がきくね、チミ」
「気前のイイうぉまえらを 愛してやるぞォォォ!」

座敷ワラシが着物のたもとからちらつかせたお菓子を見るやいなや、三体の悪魔はあっさりと仲間にはいるのをゆるしました。
後ろの一ツ目入道も、座敷ワラシに連れだと紹介され、大きな頭をゆらゆらとゆらしながら輪にくわわります。
こうして、深夜のお化け屋敷でおかしなパーティーがはじまりました。

「南瓜のタルトのお味はいかがですか?」
「おいしいホ~! 人間もけっこうやるヒホ~」
「うぉまえ、それって共食いじゃねぇかァァァ!? ヤッベェェ!危!止!禁!」

おしげもなくお菓子をふるまう座敷ワラシはなかなか気さくなたちで、新顔だというのにすぐにみんなになじんでしまいました。
連れの一ツ目入道はそれとは大ちがいで、その場に腰をおろしたきりまったくしゃべらず、ひじょうに無口です。
さきほどまで悪魔たちがさわいでいた、女の子が入れられている袋のまえに大きな体でどっかりと座りこんでおり、何を考えているかわからないようすでいます。
しかし、まさかその中で、さらわれてきた人間の女の子が眠っているとは思ってもいないでしょう。
中身を知っている三体の悪魔も、今はおいしいお菓子に夢中になっており、かんじんの袋のことなどすっかりわすれているようでした。
モコイのとっておきのかくし芸にみんながお腹をかかえて笑いころげ、宴が最高潮にもりあがったその時でした。

「それじゃあこのへんで、私もひとつ面白いものをお見せしましょうか」
「待ってましたホ~!」

悪魔たちの拍手をあびながら、立ち上がった座敷ワラシはいきなりお面に手をかけました。
その狐のお面の下からあらわれたのは、見るもおぞましい化け物の顔……いいえ、かわいらしい人間の少女の顔でした。
燃えるような赤毛の下で、いきいきとした瞳に不敵な笑みがきらめいています。

「ヤヤッ、チミは……!?」
「キサマァァ! 人間じゃぬゎいくゎあァ~!!」
「アハハハ……気づくのがすこし遅かったみたいね、さらった女の子は返してもらうよ」

とつじょ正体をあらわした赤毛の怪少女の手には、いったいどこから取り出したのか、手品のように一振りの刀がにぎられています。
その剣先から破邪の力が炎のように立ちのぼるのを目にして、悪魔たちの顔色がかわりました。
こんな女の子がぶっそうな武器を手にして、悪魔たちの集まりにのりこんできた理由は、ただ一つしかありません。
さらわれた少女の身内が、悪魔退治の専門家をよこしたに違いありませんでした。
そう、勇ましく刀をかまえる彼女こそが、ヤタガラスより代々使命をうけつぐ鬼首家の新米サマナー・われらが灯代嬢なのです。

「ヒーホー! こいつ、サマナーだホ~! まんまとだまされたホ!」
「毎年のように、ハロウィーンの仮装にまぎれて悪魔が子どもをねらうんだから、どこの街でもサマナーが総出でパトロールしているとしらなかったの?」

それにしても、なんということでしょう、悪魔にばけて悪魔をだますとは、まったくあきれるほどの大胆さではないですか。
むろん、新米の灯代は先人のまねをしたにすぎませんが、悪魔の上をいくサマナーの知恵はみごとに一杯くわせました。
悪魔たちのおどろいた顔に、少女サマナーはゆかいそうな笑い声をあげました。

「さあ、志織さんを返してもらうよ、もしこれ以上いたずらをする気ならサマナー流のおもてなしをさせてもらうからね、アハハ……」
「ボクら相手に三対一でそんなビッグマウスを叩くなんて、ムリムリくんだね、チミ」

灯代はそう言いましたが、せっかくのえものを取り返されてはむだ骨だと三体の悪魔たちはいきり立ち、ただでは帰さぬとサマナーをとりかこみました。
三体とも体こそ小さいものの、れっきとした残忍な悪魔で、けっして油断できる相手ではありません。
この絶体絶命の危地を、灯代はたった一人できりぬけるというのでしょうか。
いいえ、サマナーがいればそばには仲魔が必ずついているのです。
なんと、今の今までだまって座りこんでいた一ツ目入道の背中ががばりと開き、その中から男があらわれました。
浅黒い肌に赤い眼帯をしたこの男こそ、鬼首家に刀とともにうけつがれる守り神のタタラ陣内でした。
このおどろくべき登場に面くらった悪魔たちは、灯代が正体をあらわした時よりもギョッとせずにはいられませんでした。
一ツ目入道に化けていたタタラ陣内は、大きな着ぐるみからようやっとぬけ出し、さもきゅうくつだったように手足をのばしました。

「おまたせしました、陣内さま」
「ようやく出番のようだな、ひとあばれするか!」

信頼にみちた灯代の言葉に、タタラ陣内はたのもしい笑みをむけました。
サマナーと仲魔は背中あわせになり、三体の悪魔を相手に武器をかまえます。

「イクで ありまァァァす!! やっちまえェェェ!!」

ザントマンのかん高いさけび声を合図に、真夜中の活劇がはじまりました。
モコイが投げつけたブーメランを灯代の剣は苦もなくまっぷたつにし、かえす刀で炎の魔法を打ち返しました。
自分のにがてな外法の属性をもつ悪魔と近づいて戦うのは、分がわるいと判断したのです。
ブーメランのかわりに手もとにかえってきた火の玉をとっさに受けとってしまい、モコイはやけどをしそうになってひっくりかえりました。

「アチチ、ダメダメっす、ボク……」
「なさけないホ! あのぐらいの炎なんか屁でもないホ~!!」

ジャックランタンが手にさげたランタンをかかげると、中の灯りがぱあっと燃え上がり、いくつもの火の玉が飛びだしました。
かがやく火の玉が暗やみの中をつぎつぎと飛んでいき、まるで流れ星のように美しいながめです。
しかし、たくさんの火の玉におそわれる灯代と陣内は、たまったものではありません。
そのはずなのに、いったいどういうつもりでしょうか、このままでは大やけどをしてしまうというのに、二人は逃げもかくれもせず、その場からなぜか動こうとしません。
その時です、二人のまえに、いきなり地面からつきだすように大きなかべがあらわれました。
火の玉たちは鉄のかべにぶつかり、表面を少しこがすだけでけむりになって消えていきます。
タタラ陣内がとっさにぶあつい鉄のかべを生みだして、おそいかかる火の玉から灯代とじぶんの身をまもったのです。
鉄と火のわざをつかさどる神さまにとって、このていどのことは朝飯まえなのです。

「たしかに、おれにとってもこのぐらいの炎など屁でもないな」

陣内が新しく作りだした鉄のくさりが、えものをねらう大蛇のように動いてジャックランタンをとらえようとします。
すばしこいジャックランタンはマントをひるがえして宙返りし、くさりを間一髪でかわしました。

「キエェェェ!! 悪霊たいさぁぁん!!」
「そりゃ、あんたでしょ! ……うわっ!」

気ちがいじみた声をはりあげ、やけくそになったようにザントマンは魔法の砂をばらまきます。
灯代はとっさに手をあげてふせごうとしましたが、もうもうとまいあがる砂がすこし目に入ってしまいました。
アッと悲鳴をあげてたおれた灯代は目をこすり、むりをしてふたたび開けようとしましたが、いきなり眠気がおそってきてまぶたを開けようにも開けられません。
このまま灯代も袋の中の少女と同じように眠らされ、ミイラとりがミイラになってしまうのでしょうか。
砂けむりの中、気力をふるい立たせてどうにかがんばっている灯代でしたが、それをさいわいに三悪魔は大事なえものを取られまいと必死で袋をかかえ、屋敷の外へ逃げだそうとします。
その後ろからタタラ陣内の笑い声がなげかけられました。

「ハハハ……お前ら、何かわすれてはいないか、肝心のえものをおいていくとは、ずいぶんまがぬけているな」
「はァァァ!? 何を言ってんだか全然わからねぇぞォォォ!?」
「ハッタリをぬかすひまがあるなら、サマナーの心配でもしてろだホ!!」
「うそと思うなら、袋の中を見てみるがいい、ハハハ」

腕をくんだままの陣内の余裕のたいどにきみが悪くなり、まさかと思って袋をあけた三悪魔はあまりのおどろきに、目をむいてアッとさけび声をあげました。
後生大事にかかえていた袋の中には、さらってきた女の子などどこにもいませんでした。
かわりに袋いっぱいにつまっているのは、赤や青の色紙で巻かれたたくさんの花火でした。
勘のいい読者諸君はもうお気づきでしょう、灯代とタタラ陣内がわざわざ悪魔の仲間いりをして茶番をえんじたのには、ちゃんとひみつがあったのです。
灯代が悪魔たちの気をひいている間に、一ツ目入道の大きな体のかげで、気づかれないように背中からぬけだした陣内がひそかに袋の中身をすりかえていたのです。

「さあ、お楽しみはこれからだ! いたずらっ子をもてなしてやる!」

タタラ陣内の指先にマッチほどの小さな火がともり、それをほうりこまれた袋の中で花火がいっせいにはじけました。
爆弾とまちがえそうなはでな音をたてて、十月の夜空に七色の炎が咲きみだれます。
そのすさまじいながめといったら、ハロウィーンというよりも、同じケルトの民がずっと昔にやっていた、木の人形に生けにえを閉じこめて燃やすウィッカーマンの火祭りのようでした。
悪魔たちの悲鳴をかきけすほどの音とまぶしい光に目をさました灯代は、タタラ陣内といっしょにそのきれいな花火にしばし見とれていました。

「終わったか」
「おそいお出ましだな黒蝿の、おまえのかわいい妹は無事だぞ、安心しろ」

タタラ陣内からの連絡をうけ、やたノ黒蝿がバイクをとばしてお化け屋敷の前にとうちゃくしたのは、それから十分後のことでした。
伝書バトならぬ伝書ガラスで、さらわれた女の子・志織さんの救出を灯代たちにたのんだのは、彼だったのです。
塀によりかかって眠っている志織さんの姿を見て、黒蝿はほっとしたようにため息をつきました。
仲魔というよりも、何も知らない志織さんを兄として守っている黒蝿だけに、どんなにか心配だったことでしょう。

「ほら起きろ、志織」
「あっ、お兄ちゃん……ここ、どこ?」
「覚えてないのか? おれのバイト先に迎えに出かけて道に迷ってたのを、こいつらが見つけて電話してきたんだ」
「そうだっけ? お兄ちゃん、今日は夜勤のない日じゃ……は、ハクシュン!」
「こんな所でうたたねするからだ、風邪ひくぞ」

夜の寒さにふるえている妹に、黒蝿は自分のマフラーをまいてあげました。
マフラーのあたたかさに志織さんはにっこり笑い、黒蝿のまたがるバイクの後ろにすわります。

「そうだ、今夜はハロウィンだからお菓子作ったの! 家に帰ったら楽しみにしててね!」
「ああ」
「あの、灯代さんと陣内さんも、今日はもうおそいけどよかったら明日……」
「え、お邪魔していいんですか?」
「そうだな、今回の一件の礼として、しかるべきもてなしを期待してるぞ! なあ黒蝿?」
「……大したことはしてやれねえぞ」

悪のりする陣内にかまわず、話のとちゅうで黒蝿はバイクを発進させました。
灯代は二人のバイクにむかって手をふっていましたが、小さな赤い尾灯が遠ざかり、やがて見えなくなると、手をおろして陣内といっしょに屋敷の庭にもどりました。

「さて、あとはこいつらの始末だけだな」

花火の爆発にまきこまれて丸焼きにされかけたうえ、鉄のくさりでがんじがらめにしばられた三体の悪魔を見おろして、陣内がいいました。

「もはやこれまでだホ…… トホホのホ~……」
「チミら、悪魔を殺して平気なの?」
「チクショオオオオ!! このヘコキ虫めがァァァ!! うぉれもとうとう運のツキかァァ!!」

サマナーと戦って負けた悪魔がどんな最期をむかえるかは、彼らも話にきいて知っています。
とどめをさされるか、合体の材料にされるとかんねんして、最後の捨てぜりふとばかりに悪魔たちは口ぐちに文句をはきすてます。

「どうする、灯代? こんな三下ども、刀のさびにもならないと思うが」
「うーん……志織さんを傷つけなかったのにめんじて、今度だけはゆるしてあげましょうよ」

悪魔といっても根っから悪いやつばかりではなく、人間とおなじように出来心で悪さをしてしまう悪魔も少なくはないのです。
とくにハロウィーンの夜には、はじめて人間界にやってきてはめを外しすぎたような連中がおおぜいいるというので、彼らもそのたぐいの者だと灯代は思いました。
敵にようしゃしない一方で、お人よしなサマナーにやれやれと苦笑いし、陣内はくさりをほどいてやりました。

「お前らは運がよかったな、もしあの子にかすり傷でもつけていたら、火だるまじゃすまなかったぞ」
「ひょっとして、かんべんしてくれるホ? 助かったホ~!」
「ラッキィィィ! うぉれのツキも捨てたもんじゃねェェェ!」
「いつかその甘さが命とりになるよ、でもチミの甘さ、キライじゃないね」
「もう人さらいみたいな悪いことしちゃだめですよ」
「そこらの悪魔よりえげつないガイコツ野郎につかまらねえうちに、さっさと魔界に帰るんだな」

こっぴどくやっつけられたというのに、自分たちを見のがした灯代にたいして愛着がわいたのか、悪魔たちは「バイバイ ホ~」と何度も手をふって去っていきました。
悪魔たちとわかれた灯代とタタラ陣内も、お化け屋敷を後にします。
もう夜ふけですが、灯代たちサマナーのパトロールは、人知れず夜明けまでつづきます。
そして、ハロウィーンが終わった11月1日の朝には、打ち上げとしてサマナーがみんな集まり大宴会がはじまるのです。
新米サマナーの灯代は、それにはじめて出かけるのが楽しみでなりませんでした。

「ああ、おそくまで働いたから腹がへったな、灯代、何かもってないか」
「いちおうお菓子用意してましたけど、若葉ちゃんからもらった分も、あの子たちと食べちゃった……」
「そういやあ、あすの余興で使うつもりの花火もぜんぶ灰にしちまったな……まあいいか、手ぶらでもかんべんしてくれるだろうよ」

灯代は狐のお面をかぶりなおし、陣内はぶかっこうな着ぐるみの中にふたたび入り、二人は街の灯りがとどかない暗やみの中へと歩きだしました。
あとには、からん、ころんと下駄の音がひびくだけでした。

(おしまい)

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