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奇譚小函―きたんこばこ―

R-18 二次創作テキストサイト

俺の屍を越えてゆけ

華氏二七三二度 前編

(=摂氏一五○○度、鉄が溶ける温度)


かつて人に禁じられた技術を与えた二柱の神を封じたという九重楼の周囲には常に暗雲が立ちこめ、朝から雷雨を呼んでいた。
九重楼に巣くう鬼達と戦う四人の人影を激しい稲光が照らし出す。
初陣の弓使いを襲おうとした一ツ目入道を飛鳥の如き素早さで斬り伏せたのは、小柄な身体を甲冑に包んだ剣士だった。
鋭い太刀筋に似合わぬ優しい顔立ちで、一見すると元服前の美童のように見えるが、この一族きっての剣の使い手はまぎれもなく年頃の乙女であった。

「助かったぞ! 灯代」

灯代と呼ばれた乙女は微笑み返したが、その眼は油断なく左右に動き新手の鬼の姿がないか確認している。
戦闘が終わり一息つく四人の前で、先程倒した一ツ目入道の骸から眩しい光が放たれた。

「これは……!」

朱点童子のかけた呪いの『朱の首輪』が外れ、鬼に封じられていた神の一柱が解放されたのだった。
灯代は一瞬だけ、その光が隻眼の男神の姿を形作るのを見た。
赤銅色の肌に古代の装束を纏った男神は、灯代の手に握られた刀『天目一刀』を懐かしいもののように見つめ、すぐに光の中に溶けるように消えた。

九重楼の討伐より一月が経ったある日、灯代は儀式のために湯浴みをしていた。
兜を取ると燃えるように赤い短髪が露わになり、まるで印象が変わる。
女の命とも言える髪を戦闘の妨げになるからと自ら小刀で切り揃えていても、日毎鎧の下で成長する柔らかな膨らみは女である事をしっかり主張していた。
炎のように激しい闘志を持つ一方で、常に仲間の事を気にかける、火と水の性質が同居する灯代の性格は討伐隊長として適任であり、その資質と年齢からいって、次期当主に任命されるとしたら彼女であろうと誰もが考えていた。
鬼達に対抗するため、より強い力を一族の血の中に欲した現当主により、元服して間もない齢九ヶ月の灯代は今月初めて『交神の儀』に臨む事になった。
先日、当主である父とイツ花に呼ばれ、交神について聞かされる灯代はいつも通り背筋を伸ばし凛とした風情だったが、

「相手の希望はあるか? 今の奉納点で選べる神には限りがあるが、できるだけお前の望みに沿うてやるつもりだ」
「そう、ですね……もう天界に戻られたのでしたら、先月の討伐の時に一度だけお顔を拝見した、あの方に」

その男神の名を口にした時だけは、年頃の娘らしくはにかんだ笑みを見せた。
物心ついた時から鬼ばかり斬り続けて男女の事に疎い灯代だったが、自覚なく恋慕の情が目覚めつつあったのかもしれない。

神聖な儀式のため結界が張られた室内に、清められた白い襦袢姿の灯代は正座して待っていた。
(イツ花は『神様だって男と女なんだから大丈夫ですよ』と笑って言ってたけど、やっぱり緊張する……)
そもそも、自分に子供ができる事だってまだ実感がない。
やがて襖を開けて室内に入ってきたのは、火と鉄の技を司る鍛冶の神、タタラ陣内だった。
光の中に見た姿と同様、みずら結いと呼ばれる古い形に髪を結っている。
容貌は無骨だが、灯代を見る左目は穏やかだった。

「タタラ陣内様、此度の交神の儀、何とぞ宜しくお願い致します」
「畏まらなくていい。 お前だったな、九重楼で俺を朱の首輪から解き放ってくれたのは」

この方も自分の事を覚えていて下さった、と灯代は嬉しさに顔を輝かせた。

「あの時お前が持っていた、刀の銘」

斬られる瞬間『天目一刀』と刀身に刻まれた銘を見て、名前と神格を奪われ朱点の支配下にあったタタラ陣内は、自分が何者であったか思い出せたのだという。

「あれは、俺のもう一つの名を取ったものだったのだ。それを見て『名』を取り戻す事で呪いが解けた」
「そうだったのですか」
「お前の名は灯(ともしび)の代わりと読むのだな、良い名だ」
「はい、父様が付けて下さいました」
「父様、か……俺もこれが終わればそう呼ばれるようになるのだろうな」

それを聞いて、この方との間に子を授かるという事は、やはり世間でいう夫婦になるのと同じ事なのだと灯代は思った。
相手が神であっても真っ直ぐに顔を上げて相手の目を見ていたが、これからするべき事を思い出した途端に目を合わせられなくなってしまった。
耳朶を染めて俯く灯代の様子に、まだ男を知らないとタタラ陣内は直感した。
横には寝具が二つ並べて敷かれており、知らないなりに何をするか察しているだろうとは思ったが、陣内は念のため聞いてみた。

「『交神の儀』については、どの程度知っているんだ」
「はい、あの……二人で夜を共にするとだけ聞いておりますが……」
「だが、床を並べて共寝するだけで子が授かると思っているわけじゃなかろう?」
「…………」

言葉を失ってまた赤い顔で俯く灯代を見て、さてどうしたものかと陣内は思った。
乏しい知識で床入りを性的な事と知ってはいるが、具体的に何を成すべきかはさっぱりらしい。
とはいえ、タタラ陣内は自分を鬼の身から解放したこの人間の娘を好ましく思っていた。
灯代を形作る要素に、自分の属性である『火』が多分に入っている相性のせいもあるが、何よりも気に入ったのは灯代の気性を示す玉鋼のような力強い光を持つ瞳であった。
それに、イツ花が言うとおり神と人間の差はあれど男と女である。
戦場であれほど勇ましく戦っていた女剣士に、契りの具体的な内容も知らないようなうぶな素顔を見せられては、男として何とか導いてやりたくなる。
人間の営みに極めて近しい神であるゆえに、男女の房事にも通じている陣内は、顔を上げられずにいる灯代に囁いた。

「俺に任せておけばいい……まずは 溶かしてやろう」

火の男神は気性が激しい反面情が深く、一度惚れ込んだ相手には身も心も焼き尽くすほどの熱情を注ぐ。
念入りに湯浴みをしてきたというのに、灯代の身体は熱を持って早くも汗ばんでいた。
強張っていた手足が芯をなくして本当に溶けていくような気がする。
いかにも男らしいがっしりとした、鍛冶の神の手が灯代を愛撫していた。
愛撫と言っても、初めから無遠慮に身体をまさぐるのではなく、いたわるように優しい手つきで赤い髪に、丸い肩に、薄い背中に触れて灯代を溶かしていく。
暖かい掌に触れられているだけで心地よく、居心地のいい囲炉裏のそばで丸くなる子猫のように、灯代はすっかり緊張を解いて陣内の腕に身を任せていた。
無意識なのか、陣内の手を自分から握って指を絡めてくる。
灯代の手は鍛えられた武人のそれではあるが、剣を取るよりも花を摘む方が似合うであろう、ほっそりした綺麗な指先を持ち上げた陣内は、桜色の小さな爪までも愛でるように口付けた。
「暖かくて、気持ちいい……」と灯代が吐息混じりに呟くと、陣内は片目を細めて少し笑った。

「まだ、これからだぞ?」
「え……?」
「お前に火を付けてやる」

その言葉の意味を生娘の灯代は理解できなかったが、瞼をふさぐように唇が落とされ、その熱に微かに震えた。
何が始まるのかと灯代は少し怯え、陣内の広い肩を突き放そうとしたが、抵抗するつもりの手には力が全く入らず、結局逃れる事はできなかった。
今夜のため初めて紅を差した灯代の唇に、陣内の唇が静かに重ねられた。
その相手の唇が、指先や瞼に口付けられた時よりもっと熱く感じられ、灯代は頭の芯が白熱するようだった。
陣内は唇を合わせても性急に貪る事はせず、少しして離れ、もう一度口付ける。
次は灯代が自分から口付けるように仕向け、それを何度か繰り返して慣れた頃、ようやく唇の隙間へと舌を忍ばせた。

「……んん!」

直接的な粘膜の接触に灯代は驚いたが、さすがに舌を噛んでまで拒みはしなかった。
もっと先が知りたい一心で、灯代は陣内の背に腕を回し、必死でしがみつきながら応える。
互いの舌を絡めるという初めての行為にぞくぞくと快い感覚を呼び覚まされ、灯代はいっそう身体を熱くした。

「ずいぶんと覚えが早いじゃねえか」

唇を離した陣内には、灯代の吐息までもが火のようになっているのが分かり、まだ着物のあわせさえ乱れていないというのにここまで陶酔している灯代が余計に愛しくなった。
上気した肌が白い襦袢に透けそうで、匂い立つほどの色香を醸している。
その襦袢の胸元に陣内の手がかかり、灯代は慌てて身を引いた。

「嫌か」
「……嫌ではありません……けれど……」

拒むそぶりを見せて相手が気を悪くしなかったか不安で、灯代は恥ずかしそうに言葉を濁した。
今は肌にまとわりつく布一枚でさえもどかしくてたまらないが、かといって全て脱ぎ捨ててしまうのも躊躇いがあった。

「そうだな、まあ、このままでも出来ん事はないだろう」

無垢な灯代を包むあまりにも薄い最後の砦を陣内はそのままにし、決して急かさずに準備を整えていく。
おかしな事に、そうされるとかえって当てが外れたような機を逸したような気持ちになり、いっそ脱がせて頂きたかったと灯代は思ってしまった。
襦袢の胸に悩ましく浮き出ている両の先端を巧みな指先に捕らえられ、薄布越しに愛でられると唇から熱い吐息が漏れた。
この熱い掌でじかに素肌に触れてほしい……
本能ではもっと生々しい事を望んでいると自分で理解しているだけに、その願望を口に出すのはとても勇気が要った。

「陣内……さま……」
「何だ?」
「灯代は、あなたに何も隠しませんから……どうか、あなたに似た強き子をお授け下さい」

それだけ言うのが精一杯だったが、襦袢の上から腰の稜線を確かめるようになぞる掌を止め、タタラ陣内は決心した灯代を見つめた。
自ら白い襦袢をはだけて脱ぎ捨て、白足袋を除けば生まれたままの姿になった灯代は、自分の裸身が相手にどう見えるか気になって仕方なかったが、剣士らしくしなやかで無駄のない、それでいて女らしい曲線で形作られた肢体はどんな名工でも真似できない見事な造形美だった。

「可愛い事をするのはいいが、裸になったまんま固まっている奴があるか。 風邪引くぞ」

そう窘められて男神の膝の上に座らされ、後ろから抱き締められた。
タタラ陣内も身を包んでいた古代の装束を脱ぎ、赤銅色の逞しい身体を晒した。
何も身に着けず男と抱き合っている状況に灯代はすっかりどぎまぎして、陣内の肌からじかに伝わる熱にいずれ全身を包まれて燃え上がらされるのだと予感した。

「感じたままに声を上げろ。 その方が俺も昂ぶる」

そう囁かれながら唇で耳朶を嬲られ、灯代は情欲の炎に炙られるような気持ちだった。
自分がとてもはしたない女になってしまったような気がしたが、それが嫌ではなくむしろ開放感に似たものがあった。
そこかしこを触れられるたびに勝手に色めいた声が出てしまうのは恥ずかしく、ずっと口を押さえていたいほどだったが、陣内の望むとおりに我慢せず素直に声を上げていると、相手もそれに煽られて一層愛撫に熱が入ってくるように感じられた。

「そんなに、おっぱいばっかり、弄られたら……ん、んふっ……もう、先っちょ、ひっぱらないでぇ……あぁ……おかしくなっちゃいますっ……」

掌に収まる程良い乳房をさんざん弄んだ陣内の手は、子を宿す器官がおさまっているあたりを慈しむように撫で下ろし、腿の間の楚々とした翳りにたどり着き、今はそこを指先で優しく梳いている。
自ら指で慰めた事もないではないが、この方の指ならどうなってしまうのかと思う灯代は無意識に腰をくねらせて指戯を催促していた。
陣内がこぢんまりした割れ目へと無骨な指を忍ばせると、もうそこは歓喜の蜜でたっぷり満たされ、女体の中心に泉が湧いたようになっていた。
よく溢れて零れずにいたものだと思いながら、生娘も熟した女も等しく快く感じる一点に狙いを絞り、花びらの間に隠れた小さな蕾を濡れた指先でくすぐると、灯代の腰が跳ねた。

「あ! あぁ、そこっ」
「ここが好きか」

焦らして可愛い反応を見たかったが、少し強く擦ってやっただけで灯代は呆気なく気をやってしまった。
眼に涙を浮かべ、ふいごのような息をつく灯代の奥からより多くの蜜が染み出てきて、いつでも受け入れられるように体を整えていく。
思ったよりも早く繋がれるかもしれない、と陣内は灯代の体を褥に横たえ、片膝を立てさせて露わにさせた女の部分へとゆっくりと指を沈めていった。

「ん……!」

一本とはいえ男の太い指を挿入されてはいたが、灯代は全く嫌悪も苦痛も感じず、むしろそこに初めて受け入れたものをもっと感じたくて、加減も分からないまま陣内の指を柔らかな襞々できゅうっと喰い締めた。

「おい、今からそんなに欲しがられてはこっちが保たんぞ」

苦笑したタタラ陣内はもう片手で灯代の手を取り、次に灯代の器へ収めるべきものへと導いた。
灼けた鉄にでも触れたように灯代は驚いて手を引っ込めたが、好奇心が勝ったのかまたおずおずとその形を確かめようとする。
大きな杭のようなものは触れてみると熱く火照っていて、どくどくと血が巡っているのが感じられ、とても硬いが確かに肉体の一部なのだと分かる。
(……これで……?)
灯代はこんな大変なものが自分に収まるとはとても信じられなかったが、例えこれで身を裂かれても、この方を自分の最も深い所で知りたいと思った。
まだ未通の中を慣らそうと指を遊ばせている陣内に、灯代は瞳を潤ませて訴えた。

「お願いです……どうか今すぐに、灯代に陣内様のお情けをくださいっ……」

生娘にここまで言われては、さすがに神の端くれといえど辛抱が出来るはずもなかった。
陣内は灯代の両脚を持ち上げて腰を上向かせ、受け入れる格好をさせた。
何もかもさらけ出した姿なのに、白い足袋だけ履いたままなのが余計に淫猥だったが、今更わざわざ脱がしている余裕はなかった。
蜜に濡れて剥き出しになった花びらの中心に熱い切っ先があてがわれ、灯代の身体がかすかに震えた。

「辛かったら、いくら引っ掻いても噛みついても構わないからな」
「はい…… っ!うぅ……!」

灼けた杭のような男根が、誰も立ち入った事のない泉の中へと沈み込んでいく。
十分に潤ってはいるが狭い道筋を強引にこじ開けられ、灯代は体験した事のない痛みに歯を食いしばった。
破瓜の苦悶を堪える桜色の爪が赤銅色の背中に食い込み、いくつも艶めかしい痕を残した。

「よく堪えたな」
「はぁっ……ふぅ……」

灯代は眼に涙を浮かべて息も絶え絶えの様子だったが、その表情はどこか満足げだった。
男神と一つになったところが力強く脈打っていて、命そのものを受け入れている気がする。

「陣内様の……とっても熱くて、はちきれそうになっています……」
「お前のここも、火処(ほと)とはよく言ったものだな、俺の方が溶かされちまいそうだ」
「ほ……そ、そんな恥ずかしい事、言わないでっ……」

秘め処を指すあからさまな言葉に、初心な女剣士は顔を覆わんばかりに恥じらったが、陣内は正直な気持ちでの発言だった。
灯代のあどけない顔が艶めかしく紅潮し、すっかり『女』の表情になっているのに、本人はまだ気付いていないだろう。
脚を高く上げた体位のため、薄く破瓜の血が滲む初花を男根が割り開いているのがよく見える。
見るからに痛々しいが、これで灯代が女になったのだと思うと、それにも増して欲情をそそる眺めだった。
陣内が少し身じろぎすると、胎内で起きたかすかな変化に反応して灯代が眉を寄せた。

「うぅんっ……」
「きついか」
「まだ少し……でも、それほど痛くありませんから……」

陣内はこのまま温かい襞肉に隙間なく包まれていたかったが、一旦腰を引き、自分の太さに慣らすように浅いところを往復させる。
その動きが伝わり、灯代が小さく声を上げたが苦痛からくるものではなかった。

「はっ……はぁ……ああっ」

ゆっくりした律動を続けるにつれ、断続的な吐息混じりの声は徐々に艶を帯びていき、ますます潤って滑りがよくなった内部は催促するように肉杭を締め付け出した。
負担をかけないよう浅く抜き差しを繰り返していた陣内だったが、その反応に頃合いと判断して再び奥を目指した。
改めて、灯代の火処に根本までを収めた時、最奥の一部が粒立った感じになっているのに気付いた。
そこにちょうど先端が擦れて、いい具合にもてなしてくる。

「何も隠しませんと言っておきながら、一番奥にこんな上等なものを隠していたか」
「そんなつもりはっ……ひあぁっ!」

灯代自身でさえ自分の内側がこんなふうになっているとは今まで知らなかったが、そこを刺激されると思わず声を漏らしそうな切ない心地になり、戸惑いながらも未知の感覚に溺れていった。
灯代の思わぬ歓待に陣内にも火がついたらしく、そこに叩き付けるようにリズムを変えて深く腰を使う。
露にまみれた花びらがめくれ返ってしまうほど激しく突き込まれ、灯代は濡れた声を上げ続けた。

「陣内、さまっ! 灯代は、もう……!」
「構わん、イッてみせろ!」

白足袋の中で灯代の足指がきゅうっと縮こまったのと同時に、蕩けるような襞肉も一際きつく締まった。
本能で精を搾り取ろうとする艶かしい動きに急かされ、陣内の奥底からも熱い澱みがこみ上げてくる。

「く……出すぞ! 灯代!」
「あ、熱いぃ……っ!」

限界を迎えた陣内は灯代の細腰をぐっと掴み寄せ、熔鉄のような子種を命の坩堝へありったけ注ぎ込んだ。
灯代も陣内の逞しい腰に脚を絡ませ、とめどなく迸る精を最後の一滴まで女の器に受け止めた。
命までも一つに溶け合うような絶頂の中で、交神の儀は完成した。
吐精を終え、息を整えた陣内は灯代の上から退こうとしたが、灯代は縋りつくように腕を回し、離れようとしなかった。

「陣内様……もう少し、このままで……」

今し方まで情を交わしていた相手を、用は済んだとあっさり突き放すほど無情な男ではない。
いじらしい願いを聞いてやり、陣内はまだ余韻に浸っている灯代の赤い髪を撫でてやる。
気付けば、二人とも全身から湯気が立つほど汗みどろになっていた。

「どうだ、ひとっ風呂浴びてまた交合わないか」
「でも、まだ……」
「離れたくないなら、このままの格好で連れていってやろうか?」
「あっ、あ、駄目っ!!」

繋がったまま褥から抱き上げられそうになり、悪い冗談を本気にした灯代は真っ赤になって暴れた。

(続)

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