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奇譚小函―きたんこばこ―

R-18 二次創作テキストサイト

俺屍サマナー

GOOD LUCK ON YOUR JOURNEY


【直接的な描写は控えましたが救いの無い鬱展開です】

永遠とも思える責め苦からようやく解放された時、緋と藍の眼はまだ開いてはいたが何も映してはいなかった。
少し日に焼けた健康的な肌は火照るどころか冷え切り、あちこちに負った痣と擦り傷が痛々しいばかりだった。
日生の方も似たり寄ったりのひどい有様だったが、自分の事など頭に無いように湯とタオルを用意し、仲魔に『後始末』を命じた。
下腹部に潜り込んでくる『手』の感触に、灯代はいいようにされていた時よりも恐がって泣き叫び、日生が手足を押さえつけなければならない程だった。
間違っても種が根付かないように念入りに始末を終え、鈍痛と吐き気に物も言えず蹲っていた灯代は、今は血の気の無い顔でかすかに寝息を立てている。
身体はきれいに拭かれ、内側の汚濁も掻き出されたが、それより深い所に負った傷までは消せないだろう。
――大丈夫ですよ、日生さん、こんなのどうって事ないですよ。
震える声で言っていた、それが彼女が最後に口にした意味のある言葉だった。

「……阿呆よなァ」

誰に言うでもなく、捨丸が独りごちる。
静かな部屋の中、他に聞こえるものといえば灯代の小さな寝息と秒針の音ぐらいだ。

「何も知らねェくせに、一人で全部背負い込んで、守れると思ったんだろうなァ」

灯代を寝かせている布団の横で膝を抱えながら、日生はただ独語を聞いている。
近栄の中で、日生とその仲魔を除けば灯代は孤立無援だった。
『当主代行』である自分の事を盾に取られてされるがままになったのだと、今なら分かる。
自分の身に降りかかる理不尽からどうして逃げなかったのだと、事の真相を知らないせいで、家族の仇を庇ってこの報いを受けた灯代を見る目には、憐憫と絶望が入り混じっていた。
……全ては手遅れだ、何もかも。

「自分一人の身さえ守れねェで、この顛末かよ、……救えねェなァ」

今まで、日生は当主代行としてこういった形で責任を取らされ続けてきた。
だが、家族も仲魔も今までの生活も奪われたよその少女が、同胞の手によってさらに奪われ踏み躙られるのを許した今となっては『近栄のために』『近栄の犠牲になる』という大義名分すら失ってしまった。
名ばかりの当主代行も、千年の間近栄を見守ってきた氏神も、疲れ果てていた。
互いが何をされているかも知らないまま庇い合っていた事を嘲笑われ、灯代の眼から最後の希望が消え失せる様を日生は思い出していた。
あの時、自分もこの子と同じ眼をしていたのだろうか。

「……捨丸」
「何よ」
「もう一つ頼みがある」

捨丸の瘴気の影響か、先程の事を悪夢に見ているのか、灯代が魘されているのを見て、日生はそっと手を握ってやった。
自分の手も冷えていたが、せめて少しでも暖めてやろうとする日生の手に、灯代の手も無意識に縋る。
外では少しずつ空が白くなり、夜が明け始めていた。




少しの手荷物をまとめてお屋敷を出た時、外にはもう車が停まっていた。
運転席にいる、長い髪を後ろでまとめたきれいな面差しの男の人は、綾さんだ。
私を見送りに門の前に立っている赤い髪の女の人に、別れの言葉をかけようと思ったが、時間が押しているらしく綾さんに促されたので、私は助手席に座った。

「……ごめんなさい」
「いいって、慣れてるよ」

女の人との短いやりとりの後、綾さんはエンジンをかけて車を発車させた。
ミラーの中でお屋敷が次第に遠くなり、角を曲がった時見えなくなった。
私と同じ赤い髪の女の人は、なぜか最後まで私と目を合わせなかった。

これから車で向かう、新しい家の事を考える。
事故で家族をみんな失って、寂しい思いをしていた私を引き取ってくれる人は、一体どんな方でどんな家に住んでいるんだろうと想像する。
家族といえば、今までお世話になっていたあの家は、私とどういう関係だったのだろう。
ど忘れしたのか咄嗟に思い出せない、親戚だとするとあそこに居られない理由があったんだろうか、ではあの女の人は、私の……
少し頭痛がしたので、考えるのをやめて窓の外を見ていた私に、綾さんが話しかけてきた。

「これから行く家にね、君と同じ年の女の子がいるんだ」
「そうなんですか」
「その娘、家からあまり出られなくて寂しがってるから、友達になってくれないかな」
「友達……」

インターチェンジを抜けて高速道路に入り、車はますます速度を上げる。
きっと、私が知らない遠い所まで行くのだろう。
その女の子と仲良くなれるといいな、と思いながら、私は心地よい揺れに身を任せていた。

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