俺屍サマナー
FORBIDDEN AFTERCARE(R-18)
「はい」
「日生さん、……鬼首です」
「ああ、今開ける」
日生は玄関の扉を開けて後輩を出迎えた。
同じ高校に通う彼女・鬼首灯代とは、日生が転校してきた日に一悶着あり、今は『同業者』として時々会って情報交換をしたり、強大な敵を相手に共闘した仲である。
平日の昼間に訪ねて来たという事は学校を休んだのだろうが、灯代はいつも通りスカート丈の短いブレザー姿で、それを言うなら日生も同じだった。
学校では灯代と同じ制服を着ている日生だが、今日は自宅にいるにも関わらず『仕事着』である黒いセーラー服姿だ。
憧れている先輩の家を訪ねるのだから、いつもの灯代なら弾んだ顔で手土産の一つも持ってきそうなものだが、今の灯代はいかにも不安そうな浮かない表情でいた。
挨拶もそこそこに灯代を部屋に上げ、用心深く戸締りをして日生は口を開いた。
「……見せてみてくれ」
「ここで、ですか」
「見ないとどうなっているか分からないだろう、恥ずかしいかもしれないが……」
「……はい……」
灯代はその場でおずおずと下着だけを引き下ろして脱ぎ、動きやすく短いスカートをそっと捲り上げる。
制服姿の少女が、同じく制服姿の先輩の前でするにはずいぶんと淫靡な仕草だが、二人とも表情は真顔だった。
灯代のスカートの下、そこに決してありえないものを見て、悪魔にも動じない日生の赤い瞳が驚きに見開かれる。
そのすべすべした腿の間についているものは、確かに男性器だった。
元々の性器が失われたわけではなく、淡い恥毛に隠れた合わせ目の上端からそれは生えており、今の灯代は両性具有の状態だった。
確認作業を済ませ、溜息をついた日生は一旦灯代を座らせる。
「何と言うか……大変な事になってしまったな……」
「はい……本当にどうしていいか分からなくて……」
「君の家族や仲魔には、言ってないのか」
「言えません、こんなの……」
泣きそうな顔で俯く灯代。
確かに自分の身体がこんなふうになったら人にも相談できず悩むしかないだろう、同じ年頃の少女として日生にもその気持ちは分かる。
そもそもの原因は、三日前の事だった。
とあるホテルで宿泊客の男女が原因不明の昏睡状態に陥る事件が相次いでおり、そこに出没して人の生気を吸い取っている悪魔の駆除依頼が灯代に任せられた。
その悪魔とは、眠っている人間を襲い性的なエネルギーを餌とする、いわゆる性夢魔の類だった。
まだまだ上に新米の二文字がつくとはいえ、サマナーとして力をつけ始めてきた灯代の敵ではなく、たいした傷も負わず継承刀で両断したのだが……
「うわっ……!!」
夢魔が死に際に吐き出した液体を浴び、灯代は油断した自分を悔やんだ。
強酸か毒液かと思ったが、どろりと粘ついた白濁液は妙な匂いがするだけで、肌に付着しても特に何もなくひと安心した。
すぐにハンカチで拭きとって気味悪い感触を落とし、後で念入りにシャワーを浴びてぐっすりと寝る頃にはもうそんな事も忘れていたのだが、翌朝灯代はおかしな感覚に目覚めさせられた。
「ひ、日生さん……こんな時間にいきなり電話して済みません」
「鬼首か? どうした?」
「自分でもどうしてか分からないけど、大変な事になっちゃって……あの、お願いがあるんです……」
切羽詰った声の灯代から連絡を受けたのが早朝の事で、倒した悪魔の死に際の一撃を受けて体に異変が起きた、との訴えを耳にして日生は顔を険しくした。
日生の実家である近栄家の知識を借りようと、藁にも縋る思いで助けを求めてきた灯代から、電話口でその『異変』の内容を聞いた時は初めとても信じられなかった。
しかし灯代が嘘や冗談でこんな事を言うはずもないと思い、詳しい経緯と事情を聞いた日生だったが、このような奇妙な異変をもたらす事象はさすがに分からず、仲魔であり近栄家の氏神でもある大江ノ捨丸に尋ねるしかなかった。
そして今、異変の原因と解決の方法が分かったという知らせに日生の住処を訪ねて来たた灯代は、日生の前に泣きそうな顔で座り込んでいる。
「若葉ちゃんや栞ちゃんに聞こうとも思ったんですけど、こんなの見せたらびっくりして泣いちゃいそうだし…… 日生さんなら驚かないで診てくれると思って」
「それは買いかぶりというものだ、というか誰だって驚く」
「ですよね……」
日生は昨夜、仲魔に異変の原因と治し方をそれとなく訊ねた時の事を思い出していた。
夢魔の呪詛によって肉体を変化させられた者は、生えてきたものに生気を吸い上げられてしまうため放っておけば徐々に衰弱し、場合によっては死に至る。
ただし変化して日が浅ければ、特別な道具や術式も無しで助けられるという。
「中身を全部搾り出してやるのが一番よ、身体に溜まった呪詛の澱みごと出し切れば自然に元に戻らァな」
捨丸は至極あっさり言ってのけたが、それを聞いて日生は固まったまま返事も出来なかった。
方法が分かった以上、灯代一人でも解呪できるわけで、日生にはこれ以上手助けする義理はない。
とはいえ、恥を忍んで相談してきた後輩を「一人で処理しろ」と無下に放り出す事もできず、結局日生は腹を決めて付き合ってやる事にした。
「ひ、日生さん……?」
「大丈夫、ここにいる」
不安げな声を出す灯代だったが、今の格好からすればそれも道理で、彼女の両目は日生のセーラー服のスカーフで覆われ、厳重に目隠しされていた。
おまけに両手を頭上でタオルで括られて畳に寝かされており、灯代の方からは動けないし、相手や周囲の様子を見る事も出来ない。
最低限の用さえ済ませられればいい、というような状態だ。
横になった灯代の足の方に座った日生は、その短いスカートをそっと捲り、下に隠されたものを露出させた。
まだそれはくったりと柔らかそうで、当然の事ながら勃ってはいない。
「捨丸」
囁くような声に呼ばれたように、障子の向こうで禍々しい気配が揺らめいた。
気配だけでも肌が粟立つような外法の屍鬼の存在に灯代はびくりとするが、彼を使役する日生がそばにいる事で少し安心し、平静を取り直す。
「へいへい、何の御用でェ? サマナー様」
「どうすればいい」
「『どうすれば』ァ? 何のこった?」
「だから! 『中身』を出すには具体的にどうすればいいか訊いているんだ!」
肝心の解呪の手順に助言を求める日生に、野晒しの骨を擦り合わせるような甲高い細い声は、召喚主の望み通りに的確な答えを返した。
「ンなもん、股ぐらのモノを適当に扱いてやりゃあいいんだよ、十代のガキなら刺激さえあれば出すだろ」
「……もういい、貴様に訊いた私が馬鹿だった」
転校初日に灯代を剣技で圧倒したその手で、日生は思い切って雁首のあたりをぎゅっと掴む。
いきなり遠慮のない手つきで粘膜に触れられ、初めて感じる強すぎる刺激に灯代は思わず悲鳴を上げてしまった。
「痛ぅっ!」
「! ……悪かった」
「だ、大丈夫です……済みません」
「あ~あ、握り潰せって誰が言ったよ」
「黙ってろ! 今度こそちゃんとやる!」
(もしかして、日生さん……)
年上なのに加え、サマナーとしても手錬れなだけに、日生はそういう経験も自分より多いだろうと無意識に思っていた。
しかし、男のものを前にしてどうすればいいか戸惑うような先程の言動といい、こちらから触れられるのも見られるのも嫌がるような灯代への処置といい、経験が豊富などころか全く男性を知らないのかもしれない……と灯代の中に疑念が生まれる。
だからといって日生に対し幻滅するような気持ちはなく、逆に彼女の意外な一面を発見できたようでなんだか嬉しかった。
「手で出来ねェってんなら、口でやってみるかァ?」
「……くち?」
「口ン中の方が女陰(ほと)の感じに似てるしなァ、慣れないなら手でチンタラやるよりも手っ取り早いだろうよ」
捨丸の説明に、え、と灯代が思う前に、掌の圧迫から解放された先端に吐息がかかり、生温かく濡れたものに茎の半ばまで包み込まれた。
視界はスカーフの裏地の闇に覆われて何も見えないが、触感だけで日生が自分の一部を咥えていると知り、灯代の頬に一気に血が上った。
「ふぁ……!!」
相手に快感を与える仕方など知らない日生は、口に含んだものをどうしていいか分からないようだったが、障子越しの「舐めんだよ、気が利かねェな」という野次交じりの声通りに舌を動かし出した。
まだ軟らかい肉をちろちろと舌先でくすぐられ、もどかしい刺激に灯代の腰が浮きそうになる。
「歯ァ立てんなよ、鬼首のに痛い思いさせたいんなら別だけどなァ」
捨丸の助言はいかにも投げやりで面倒臭そうだったが、日生は言われた通り真剣に実行し、それなりの効果を上げた。
とはいっても、もし灯代に目隠しを施しておらず、相手の視線に晒されながらだったらこんな大胆な事が出来たかは分からない。
拙くはあるが一生懸命な舐め方に素直に反応を示し、日生の温かな口の中で灯代の肉は徐々に硬くなっていく。
はしたない声を上げるまいと灯代は歯を食いしばっていたが、口を押さえようにも両手は括られており、初めて味わう感覚の前にその意志は数分ももたなかった。
「はあっ、あぁ……ん、くうぅ…… ふわぁっ!」
確実に追い上げられていく灯代はもはや意味のある言葉を口に出来ず、噛み殺せない熱い喘ぎを漏らすばかりで、目隠しのスカーフに涙が滲んだ。
自分の嬌声や、日生の口淫の秘めやかな音が、障子越しに捨丸に筒抜けになっている事さえも、もう気にする余裕はなかった。
日生は口に含めないほどに大きくなった肉茎をいったん唇から解放し、口元を拭いながら唾液と先走りにまみれて反り返るものを見下ろす。
遊び慣れた女なら「元気が良い」と評しそうな勢いのいいそれは、色こそ初々しかったが長さも太さも並の男の持ち物を上回り、小柄な灯代には不釣合いなほどだった。
「捨丸……他には、どうすればいい」
「おォ? えらく熱心でいやがんな、鬼首の一物がそんなに気に入ったのかよォ?」
「……訊かれた事にだけ答えろ」
「皮の繋ぎ目のへんと、先っちょを徹底的に舐ってやりなァ」
険悪なやりとりでありながらも、やはり日生は仲魔の指南に従い、弱点を集中的に舐め出した。
焦らしたり煽ったり、相手の反応を見て自分も愉しんだり、といった床での駆け引きなど考えに無く、ひたすら刺激を与えるその行為は、愛撫ではなく責め苛むという方が正しかった。
容赦なく責め続けられる未経験の肉茎は、活きのいい魚が暴れるようにびくびくと痙攣し、それを咥える日生にも限界が近いのが感じられた。
「あっ、あ……! 日生さんっ、出、出ちゃうっ……!!」
出していい、と促すように、あるいは駄目押しのように先端をきつく吸われ、灯代の頭の芯が真っ白に白熱した。
同時に、熱さも濃さも色合いも匂いまでも精液に似た、ただ子種だけを含まないものが日生の口内に放たれた。
とっさの事で驚き、含んでいた灯代の肉茎ごと吐き出してしまう日生だったが、慣れない彼女にこぼさないよう飲み下すのを要求するのは酷というものだろう。
後から後からどくどくと迸る白濁は、日生の赤い髪や端正な顔までも汚してしまったが、目隠しをしたままの灯代にその惨状が分かるはずもない。
捨丸の死臭ともまた違う、独特の生臭い匂いに日生は眉をしかめながら、横に用意したちり紙でそれを拭き取る。
「あ……ふぁ……」
灯代は初めての吐精の余韻がまだ続いているようで、頬を真っ赤に染めて切なげに息をついている。
先程の荒々しいまでの迸りに引き換え、制服姿で縛られ目隠しをされたまま余韻に震える華奢な身体は、彼女の仲魔でなくとも生唾を飲むほどの色香があった。
ただ、女として成長途中のその身体の中で、いまだ萎えずスカートを持ち上げている『異物』が一際存在を主張していた。
(一度だけでは足りないか……)
日生は見下ろし、勃ったままのこれにもう一度口淫を試すのと、然るべき処に挿入するのとどちらが早く済むだろうかと考える。
顔や服が汚れるのは御免だという理由から、後者を選択した日生は下肢を覆う黒タイツと下着を脱ぎ下ろし、後輩の身体の上にそっと跨ろうとした。
体重をかけないようにしたが、跨られて相手が気付かないはずがなく、正気づいた灯代は何が始まるのか不安そうな声を上げた。
「日生さん、今度は何を……」
「君のがまだ収まらないみたいだから、じかに……ま、交わって……出させてみる」
「そうですか、どうも…… えええっ!!?」
さすがに日生とそんな行為に及ぶまでは考えておらず、灯代は寝たまま飛び上がるほど驚いた。
自分のものは痛みを覚えるほど張り詰めており、もちろん交合できる状態だが、日生の方はそれを受け入れる準備など何も出来ていないのではないか。
それ以前に、男を知らないかもしれない日生にそんな事をさせていいのかと思い、狼狽えた灯代はちょっと待って下さいと訴えた。
「で、でも、日生さん、いきなりしたら痛くないですか……?」
「痛いのは慣れているから、問題ない」
「慣れてるとかじゃなくて駄目ですよ! すごく痛いに決まってます!」
灯代は血相を変えて叫ぶが、日生は自ら積極的に愉しんだ事は無いだけで、身体はある程度女としてこなれてはいた。
自分が持たぬものを得る代償に氏神である大江ノ捨丸と契約した日生が、それでも足りぬものを補うために身を捧げるようになったのはごく最近の事だった。
一方的に貪られるがままで愉しむような余裕はなく、それどころか他者の苦痛を好む捨丸を悦ばせ繋ぎ止めたいあまりに、手荒な真似をされながら否応無く感じる肉体に罪悪感さえ覚えていた。
そんな日生の事情など知る由もない灯代は、ただおろおろするばかりだ。
「お願いですから、準備するお手伝いぐらいさせて下さい……」
この際相手に迷惑をかけるのは仕方ないとしても、せめて痛い思いだけはさせまいと、灯代は自ら奉仕を懇願した。
頼み込んだ甲斐あって、と言うべきか、目隠しを解かず服も脱がず手探りのまま行うという条件で、ようやく日生の許可が下りた。
服で隠れた傷痕や、乱れ喘ぐ表情を見られたくないためだったが、本人が気にするそれらさえも相手によっては魅力に映るのを日生は気付いていない。
両腕を括ったタオルだけは外してもらい、上体を起こした灯代は膝立ちの日生と向き合う格好になる。
刺激を欲しがり、自分の脚の間で不満そうに揺れている勃起が気になって仕方ないが、今は日生の身体を解すのを優先するべきだった。
「……じゃあ、失礼しますね」
とはいえ、自分の経験をなぞって愛撫するにも服の上からでは勝手が違うし、何より視界が利かない。
何でも果敢に挑戦する灯代といえども、そこまで巧みな技術を身に付けているわけではなく、こんな条件下で相手をその気にさせるのは難しかった。
よって、自分なりに考えた灯代は、先程の日生と同じく『手っ取り早い』手段を用いる事にした。
「――ひゃ、んッ!?」
いつもの冷静な彼女を知る者なら、耳を疑うような頓狂な声を日生が上げた。
だが、いきなり自分のスカートの中に相手が頭を突っ込んでくれば、日生でなくとも同じ反応をするだろう。
尻餅をついたような格好の日生の脚の間に、四つん這いになった灯代が潜り込む体勢になった。
「鬼首っ! や、やめ……!!」
今はタイツも下着さえも着けていないのに、と日生の頬がかっと赤くなる。
黒いプリーツスカートの上から頭を押さえて制止しようとするが、酸で焼けた皮膚の色が違う敏感な内腿に熱い吐息がかかり、手から力が抜けてしまう。
目隠しがあると分かっていても、灯代の顔がそこを間近で覗き込んでいるのに、頭の中が熱くなった。
「ちょ、やめろっ、お願いだから……!」
「でも……日生さんも同じ事をしてくれたんですし、今度は私にさせて下さい」
スカートの布地越しにくぐもった声で答えた灯代に、日生は断るだけの理屈を持たなかった。
こんな事捨丸にもされた事ないのに、と日生は諦め半分で、真面目な分だけ始末に負えない後輩の暴走を止められない己の無力さを噛み締める。
すり、と恥丘に頬擦りされ、日生の身体が強張った。
「……ん……っ」
灯代は手探りでそっと恥毛を梳き上げ、柔らかく濡れた舌で女の部分を探り当てる。
合わせ目の奥に潜り込んだ舌が隠れた粘膜に届き、まだ濡れてもいないそこを出来る限り慣らそうと、生々しい音を立てて日生の入り口を舐り出す。
同性の先輩とこんな行為をする灯代に抵抗は一切ないと言えば嘘になるが、それ以上に相手を悦ばせたい気持ちの方がはるかに勝っていた。
しかし、慣れない日生にとっては唇と舌での愛撫も蛞蝓が這っているようで、まだ快感よりは違和感の方が強かった。
体温のある指先も、柔らかな舌での奉仕も、生きている証拠の熱い吐息も、唯一知っている相手とはまるで違うもので、かえって居心地が悪く感じるようだった。
目を閉じたまま堪えている日生だったが、灯代の舌先が襞の間に隠れた蕾を舐め上げた時、否応なく鋭い刺激が背筋に走り、くっと息を詰めてしまう。
「……っ、う……」
「どう、ですか……?」
「鬼首……どこで、こんな事を覚え……」
「陣内様が私にして下さるように、してるんですけど……あまり、気持ち良くないですか?」
日生は良いとも良くないとも答えなかったが、それは当人にすれば何気ない灯代の言葉に絶句したためだった。
(あの真面目そうな仲魔が灯代にこんな事をしているのか……!?)と、てっきり男女の事など何も知らないとばかり思っていた後輩の意外な一面に、内心結構なショックを受けていた。
温かな唇で蕾を優しく包み込まれ、キスでもするように軽く吸われて声を上げそうになり、日生は慌てて口元を押さえる。
繊細な襞の間でぬめっているのは、もはや灯代の唾液ばかりではなかった。
「あ……あ、鬼首、やめ……変、変だ、これ……何……っ」
冷えて尖った骨の指で嬲られるのとは違う、じわじわと溶かされるようなむず痒い感覚に日生の粘膜は火照り出し、閉じ合わされていた秘裂はふっくらと綻びつつあった。
灯代の唇と舌にくすぐられるたびに濡れた音が立ち、それを聞かされるだけでも恥ずかしいのに、滲み出るものを味わわれていると思っただけで顔から火が出そうだった。
(こんな仕方、知らない……恥ずかしい、嫌だ、怖い……)
初めての感覚に困惑しながらも、年下の少女の愛撫で昂められていく日生の有様を、捨丸は障子越しに伺っているのだろうか。
膨らんではいてもなお小さな蕾を濡れた唇で何度もついばまれ、日生は堪えられないように赤く波打つ髪ごと首を左右に振る。
「く……ふぅうっ……!」
傍目から見れば、抑えた声と共に小さく腰をよじっただけの控えめな仕草だったが、潤んだ赤い瞳とせわしない熱い息、そして何よりスカートの奥でひくひくと震えて蜜を溢れさせる秘処が、日生が気をやった事実を示していた。
それを察し、スカートの中から篭った空気ごと抜け出した灯代が、ふうっと深く息をつく。
「日生さん、大丈夫ですか?」
「……なんとか……」
目隠しを取らないまま気がかりな様子で訊ねる灯代の唇は、いつもの自然な血色とは違って淫靡に濡れ光っており、先程までの生々しい口戯を思い出して日生はますます赤面した。
「ありがとう、これならちゃんと、出来ると思う……」
「あっ……ひ、日生さん」
再度横になるよう促され、しっとりと濡れた日生の下生えの柔らかな感触が先端に触れ、灯代はかすかに腰を震わせた。
(ついに日生さんと一線を越えてしまう)と期待とも後ろめたさともつかないものに、奉仕している間も萎えなかった灯代の肉茎は、女の肉に根元までうずめられるのが待ちきれないように震えている。
先程の口戯で十分すぎるほど潤っており、挿入には何の支障もないだろうが、土壇場で日生はどうしても抵抗があるのか、貫かれる寸前のまましばらく躊躇っていた。
「日生さん?」
「鬼首、済まないけど……やっぱり、最後までは……」
おずおずと口にする日生に、灯代は自分の方こそ済まない気持ちになる。
経験が無ければ怖いに決まっているし、こんな大変な処理に付き合わせている以上、断られたからといって口惜しがったり、まして無理矢理にするようなつもりは全くなかった。
「どうせ相手も女で孕まねェんだし、せっかくだから愉しめよ」
「ふざけろよ、骨」
人の気も知らず仲魔に外野から茶々を入れられ、日生は不快感を露わに罵る。
本人が自覚する以上の感情を捨丸を寄せている日生にとって、唯一知っているその歪んだ肉以外を受け入れるなど考えられなかった。
召喚主と仲魔のちょっとした修羅場に、日生の下になったまま動けない灯代はどうしようと固まったままだ。
「出すだけでいいなら……あの、挿れ……なくても、大丈夫なんですよね」
「一応……そのはずだが」
「せっかくだから、別の仕方で……日生さんと、一緒に気持ちよくなりたいです」
口も手も使わず、挿入する事はなく、二人がお互い気持ちよくなれる方法。
それを全て満たす灯代の提案を呑んだはいいが、日生は正直戸惑っていた。
「それにしても、鬼首、この格好は……」
制服の上下を着込んだまま畳に手と膝をつき、腰を高く上げた格好で、日生は不安そうにしている。
四つん這いにさせた日生の太腿の間に、後ろから灯代のいきり勃ったものを挟み込んで、そのまま互いの性器を擦り合わせてみる仕方を聞いた時には、この娘の頭の中はどうなっているのか本気で驚いたものだった。
もしかすると、これも陣内にされた事があるやり方なのだろうか……と、日生の頭に妙な想像が浮かびそうになり、慌てて打ち消す。
「目隠ししたままだったらやりにくそうだし、日生さんがお顔見られるのが嫌なら、こっちの方がやりやすいと思って」
日生の背後の灯代は目隠しのスカーフも解き、真面目くさった顔で身体の位置を調節している。
身長差があるので、腰の位置がうまく合うか確かめているようだ。
しばらくして得心がいったらしく、失礼しますね、と後ろからスカートに手をかけられる感触があった。
「あっ、待って……」
内腿の古傷を見られたくない日生は、灯代の手に自分の片手を添えて辛うじて見えないようにたくし上げた。
快楽に蕩ける表情を正面から見られたくはないが、だからといって後ろからというのもかなり抵抗があった。
自分が弱いがために背中に負ったいくつもの傷跡を、他人に見られたり触れられるのを日生は極端に嫌っており、この際着衣で隠れているのがせめてもの幸いだった。
灯代はそんな相手の内心には気付かず(女同士だけど、やっぱり日生さんも恥ずかしいのね……)と見当違いな事を考えていた。
無理に捲り上げて日生が嫌がったり怖がったりしないよう、スカートの裾をくぐらせるようにして、影になった腿の間へと注意深く自分のものを潜り込ませる。
「……んっ」
「あぁ……っ」
にゅる、と滑らかな肉と肉が触れ合った所から、お互いに艶かしい感覚が走る。
本当に挿入こそされていないが、後ろから犯されているのと変わらない格好で、張り詰めた肉茎に秘裂をぬるりと擦られながら拡げられ、日生は息を詰めて身体を強張らせる。
熱っぽい器官を隙間無く密着させて、灯代は早くも顔を真っ赤にして深くため息をついた。
「はぁっ……日生さんの、あったかい……すごく、気持ちいいです……」
ようやく望みが叶えられたような、今にも泣き出しそうなほど感じ入った灯代の声色に、そんなに我慢させていたのか、と日生は自分の至らなさを恥じた。
「鬼首……私、大丈夫だから、動いてみて……」
「は、はい」
日生に促され、灯代はゆっくりと腰を引いてみた。
ぴたりと閉じ合わされた腿の付け根は、窮屈だが滑らかで動くのに支障はなく、温かで柔らかい粘膜が凶暴な熱を包み込んでくれるようだった。
もどかしい摩擦の快感が下腹部に広がるようで、灯代は甘ったるい声を漏らす。
「んっ……んふ……先から蕩けちゃいそう……」
熱い血の通う生きた肉の感触に日生は戸惑いながら、徐々に激しくなる灯代の若い器官の律動に細腰を揺さぶられていた。
初めての戯れに一生懸命に声を殺しながらも、夜毎の加虐で変えられた身体は、壊されてしまう位の手酷い交わりを欲していた。
自分ばかりが悦くなる事に申し訳なさを感じながらも、日生は無意識に腰の角度を上げ、相手の括れや反りがより強く淫核に擦れる位置に合わせていた。
「……っ……ぅんっ……」
色合いは灯代と似ていても、長さは背中を覆うほどの日生の髪はやや乱れており、微かにいい香りがした。
よく知った若葉色の髪からも同じ香りがしていた事を思い出しつつも、灯代の腰は止まらない。
後ろから覆い被さる灯代には当然日生の表情は見えないが、少し外側に尖った形の耳が紅潮しているのを目にして、日生さんも悦いんだ、と愛おしい気持ちがこみ上げてきた。
身を乗り出して、染まった耳朶をごく軽く甘噛みすると、思わぬ処への刺激に日生は堪えきれず声を上げた。
「ひぁあっ!? ……っ、やったな……!」
「んひぃっ!?」
特に敏感な亀頭を日生の指先に捕らえられ、掌全体で柔らかく包み込まれて、意外な反撃に灯代は驚いて眼を見開いた。
されるがままだった日生だが、刺激する力加減を早くも心得たらしく、手探りで弱い所ばかりをなぞってくる。
弄られる鈴口から先走りが溢れ出し、くちゅくちゅといやらしい音を立てて日生の掌を汚した。
灯代は腰が砕けそうになりながらも、日生からもっと快感を引き出そうと、これ以上ないほど硬く張り詰めた肉茎をがむしゃらに前後させて花びらの間を擦り上げる。
「こ、このまま……出して、鬼首……!」
「だめぇ……! 私だけなんてだめです、日生さんも一緒に……!」
「もう、私の方が、もたな……っあぁ!」
しなやかな若木のような腰が重なり合い、汗ばんで張り詰めた若い肌がぶつかり合う音と、蜜にまみれた粘膜が擦れ合う音に二人の嬌声と喘ぎが混じる。
捲れたスカートから覗く日生の引き締まった内腿は、灯代の先走りと本人の蜜で濡れ光っており、互いの快感がどれほどのものかを示していた。
触れられていない灯代の割れ目からも同じだけの蜜が溢れ出し、今や内腿をしとどに濡らしていたが、本人は初めて味わう男根の感覚に夢中になっており、もうどちらで欲情しているのかも分からない。
二人の少女の制服の内に篭った熱が匂い立ち、締め切った室内に甘酸っぱく淀んだ匂いが充満する中、やがて訪れる絶頂の前触れに灯代の腰が跳ねた。
最も狭い所に雁首を挟みこまれ、張り詰めた肉筒の中を熱いものが駆け上る感覚に、もう何も考えられなくなる。
「日生さんっ! もう、だめぇ…… あっ! あ!」
「あ……! こんなに、出……!?」
「やぁ……! まだ、出てるぅっ……んあぁぁっ!」
最も敏感な秘処に情欲の迸りをまともに受け、その熱に火をつけられた秘処までも燃え上がるような錯覚に、日生も目の前が真っ白になる。
とめどなく放たれる熱い白濁が日生の腿に垂れ落ち、黒いスカートの内側にまで飛び散って汚していく。
いつも凛とした憧れの先輩をこんなにしている申し訳なさ以上に、どうしようもない興奮に支配された灯代は息を荒げながら日生の肢体を後ろから抱き締めた。
「ご……ごめんなさい、日生さん……まだ収まらないの……」
「あっ、そんな……駄目だ、また…… んうっ!」
一度果てて敏感になった身体で身動きすると、さらなる刺激に重なり合ったまま二人は声を上げる。
身体に溜まった呪詛の澱みを精と共に全て吐き出すまで、行為はまだ続く。
二度、三度と吐精を繰り返しても灯代は萎えるどころか勢いを増す一方で、擦られ過ぎた日生の粘膜は痛々しいほどに色づき、快感が閾値を超えた後はただ灼けるような熱さが襲ってきた。
後ろから延々と責められ続けた日生と、灯代がほぼ同時に何度目かも分からない絶頂を迎えた頃、灯代の体内からようやく全ての精は搾り取られ、身体を張った解呪は成功した。
「……しこたま出しやがったもんだなァ? いったい何発分だ、こりゃ」
甲高い揶揄の言葉と共に、乾きかけた精液が絡む骨の指先が日生の唇に押し付けられる。
汗と精が染み込んだ黒いセーラー服は脱ぎ捨てられ、生まれたままの無防備な格好の日生の脚の間に僧衣の骸骨が覆い被さって性質の悪い笑みを浮かべていた。
先程までの激しい交わりに消耗しきって、気を失ったように眠る灯代に毛布をかけてやった後、日生は捨丸と治療に使う別の部屋に篭っていた。
灯代の解呪のため、体力以外にも失った生気を補充する目的もあるが、それよりも切迫した問題のためだった。
「う、うるさい……んぅっ!」
「黙ってろ、さんざん女同士で愉しんだ挙句仲魔に後始末させるなんざ、知らぬ間にてめェにも淫乱の気が移ったんじゃねェのかァ?」
気丈に言い返そうとする日生の唇に、骨の指が強引に捻じ込まれる。
主人を蔑むような不遜な台詞とは裏腹に、日生の乱れる姿を見下ろす捨丸はどこか楽しそうだった。
灯代に蕩かされ延々と責められながら、捨丸だけに蹂躙を許した日生の奥底は、狂おしい熱を孕んだまま疼き続けていた。
それでも自分から鎮めて欲しいと言い出せるはずもない性格を、初めて身体を重ねた時から捨丸は熟知していた。
「あそこまでやっといて、今更死人に操立てして何になるよ」
女を抱いても血肉の温もりさえ感じられない骨の身体とはいえ、その声色は満更でもないような響きを帯びていたが、容赦なく突き上げられている最中の日生は気付く余裕などなく、捨丸本人にもちろん自覚はない。
日生が一生懸命に求めてくるその様が、眼窩の中の濁った金の双眸に浅ましいと映るか、いじらしいと映るかはさておき、近栄家を千年も支えた氏神は主人の望みによく応えた。
崩れ捩れた男根と同じ形に満たされた日生の内側、そのさらに奥へと瘴気を固めた不可視の手が伸びて、子宮までも押し拡げようとする。
一番深い所で捨丸を受け入れる日生の呻きも叫びも、うわ言のような掠れた囁きも、呪符で目張りされた襖の外に漏れる事はなかった。
シャワーと着替えを借りて全身さっぱりした灯代が台所に入ると、カレーの美味しそうな匂いがした。
Tシャツにジャージという、今の灯代と同じようなラフな格好で日生は棚から皿を取り出している。
「着替え、大きくないか?」
「大丈夫です、本当に何から何までありがとうございます、夕ご飯までご馳走になっちゃって」
「凄く消耗したからな、帰り道で倒れてしまったら困るだろう」
あの後、灯代が目を覚ますと外は日が暮れかけており、気力体力を消耗し尽して昏倒し、数時間眠っていたと日生に聞かされて驚いたものだった。
何とか解呪は成功し、『異物』が跡形もなくなっているのを確認して心からほっとしたが、汗やらなにやらでべとつく身体のまま帰すわけにもいかないと日生に湯を使う事を勧められた。
「作りおきだし、味は保障できないが……」と夕食にまで誘われ、灯代は半日前までの浮かない顔はどこへやら、日生の手作りカレーが楽しみでならなかった。
「何かお手伝いしましょうか?」
「じゃあ、冷蔵庫から麦茶出してくれ」
台所の椅子には人間に擬態した捨丸が座り、コップ酒を口に運んでいた。
腰よりも長い黒髪の間から人形めいて整った、しかし人を馬鹿にしたような皮肉な笑みを浮かべた顔が見える。
「遠慮する事ねェぞ、カレールウ一箱もブチ込んで鍋一杯こさえちまったんだから処理に付き合うようなもんよ」
「……昨日から朝昼晩と食べて、もう半分まで減らした」
「ケケッ、物は言い様よなァ」
捨丸と日生の会話に、厚かましいかも知れないけどおかわりしよう、と灯代は内心で決意した。
「そういえば、食べて帰ると家に連絡はしたのか?」
「あっはい、さっき陣内様から携帯に着信があったので、その時に」
陣内の名を聞いて、日生と捨丸の表情が二人して微妙なものになる。
灯代の師代わりであり、無二の相棒として新米サマナーを支えるあの仲魔が、一見初心な彼女に床で何を教えているか片鱗を知ってしまったからには、当然の反応だろう。
今度タタラ陣内と顔を会わせた時、気まずくて目を合わせられないかも知れない、と日生は多少気が重かった。
一方捨丸は、(まァ全身くまなく筆でなぞって魔除けを描くような野郎だからなァ)と納得し、今度会ったら仄めかして狼狽えさせてやろうと、あまり褒められたものではない事を考えていた。
「ん~、美味しい! じゃがいもは大きい方が食べ応えありますよね!」
そんな二人の内心も知らず、元凶であるお騒がせな灯代は一人上機嫌で大盛りカレーを平らげにかかっていた。
災い転じて福となるというものの、さらに厄介な災いの火種が生まれたかもしれない……が、とりあえず近栄家の一日は表向き平和に暮れていくのだった。