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奇譚小函―きたんこばこ―

R-18 二次創作テキストサイト

俺屍サマナー

DECEMBER EVENTS WITH LOTS OF LOVE


紅葉が散り始めた頃、庭の枯葉を掃き集める灯代の短い髪の上、よく似た色の楓がひとひら落ちたのを摘んで取ってやる。
塵取りに捨ててしまうのが忍びなくてそっと懐に仕舞った陣内をよそに「焼けたら陣内様にも差し上げますね」と灯代は集めた枯葉の山を芋に被せていた。

・・・「焚き火」


職人の朝は早い、が、季節も師走となれば布団から出るのは誰しも辛い。寒さで力が弱まる火の神ならなおさらだ。昨夜同衾していた灯代はとっくに目覚め、布団でぐずる陣内を朝稽古に付き合えと急かす。口付けで起こしてくれ、との寝言ともつかぬ戯れに灯代は苦笑して唇を近づけた。

・・・「冬の朝」


友達と一緒に買い物に行ってきた灯代が見せてきたのは、雪兎のように真っ白い暖かそうなコートで、羽織った姿は赤い髪によく映えていた。今度これを着てお出掛けしましょうと嬉しそうな灯代に、それよりもむき出しの脚に股引でも履いた方がいいんじゃねえのかと気になる陣内だった。

・・・「コート」


こたつで寝ちゃだめですよ、と寒がりの陣内や不精な当主に言っていた灯代だったが、今は珍しく疲れが出たのか、息子と一緒に暖かいこたつでうたた寝している。陣内は毛布をかけてやる前に、同じ寝顔、同じ寝相の母子の姿を抜け目なく撮影した。(鬼首家の遺伝子ってのは凄えな…)

・・・「こたつ」


不安と緊張にピリピリしている召喚主の表情に、苦楽を共にしてきた仲魔といえど手助けできない事を歯がゆく思いつつ、陣内は徹夜明けの灯代を送り出した。「話しかけないで下さい…覚えた単語忘れちゃう…」女子高生サマナーは今日、期末試験という強敵に立ち向かわねばならない。

・・・「期末試験」


吹き付ける木枯らしに頬を林檎のように染め、赤毛の娘は元気のいい掛け声と共に木刀を振る。去年の今頃、病床で死に瀕していた姿とは見違えた娘の小さな手には幾つもまめが出来ていた。その手がもう少し成長し、彼女の命を救った継承刀を受け継ぐのはまだ先の話である。

・・・「寒稽古」


灯代の唇のように熱くとろける餅巾着、灯代の耳朶を思わせる柔らかいはんぺん…自分の牛すじ串を横からかすめ取られたのに気付かず、灯代の力作おでんを賞味する陣内の至福の表情に、暁丸はやれやれと串を横咥えしたまま手酌で杯を重ねる。「陣内様、あーん」「お、おう…熱つッ!」

・・・「おでん」


鉛色の冬空の下、ジャージ姿の軽装でも10kmも走れば汗だくになる。灯代は早くも息を整えていたが、若さの差かついていくのが精一杯だった陣内はへたり込んでいる。こりゃ明日は筋肉痛だな、と荒い息で呟く陣内に、マッサージしてあげますよと灯代は笑ってポカリを手渡した。

・・・「マラソン」


冷え切った武骨な手を小さな両手で挟んで包む。暖めるにはそれだけでは足りなくてはぁっと吐息をかける。太い指先に唇を寄せて少しでも熱を移そうとする。一生懸命な灯代は気付いていないが、その色めいた仕草に妙な気持ちを掻き立てられ、陣内は手よりも先に顔が火照ってしまった。

・・・「かじかむ手」


琥珀色の液体に好奇心から口を近づけると強いアルコールが鼻をついた。やっぱり無理と杯を卓上に戻した灯代は代わりにチョコボンボンをつまむ。酔いのせいにして粘膜が灼けるような酒を口移しに味あわせたいと思う陣内だが、むしろ彼女が含んだ菓子の甘さの方に酔ってしまうだろう。

・・・「火酒」


チェックのひざ掛け毛布、もこもこのスリッパ、ぬいぐるみで包む湯たんぽ…色々と買い物をして小遣いはなくなってしまったが構わない、全部寒がりのあの方に使ってもらうのだ。…本当はマフラーを内緒で編んでいたけれど、冬に間に合わなかったなんて言えなかった。

・・・「防寒具」


白梟から聞いた話では、かの神の故郷の北の果てでは全てが白く凍てつき、樹氷、流氷、空気までも凍って光り輝くのだとか。灯代は目を輝かせていたが、好き好んで寒い所に行くなんて冗談じゃねえ。そう思っていたのに、今は二人でオーロラを見上げているのだから分からんものだ。

・・・「北国旅行」


流星群を見ようと夜中に起き出し、着膨れした格好で魔法瓶にコーヒー持参で外に出た。白い息を吐きながら待っていると、星座の中を横切る一筋の光に灯代が歓声を上げた。一体何を願ったのだろうか。もしかすると、今夜流れる星すべてでも足りない程たくさんの願い事かもしれない。

・・・「冬の夜空」


「冷凍庫から出してすぐ食べるよりも、室温に少しおいて溶ける寸前が美味しいんですよ」灯代は真冬でも構わず好物のアイスを食べており、お気に入りの雪見大福を陣内にも勧める。かき氷じゃ駄目なのかという無粋な疑問に、口の中でとろけるのがいいんですと甘い含みの言葉を返した。

・・・「部屋でアイス」


無数の灯が浮かぶ美しい夜景を並んで眺めていた時、陣内がしみじみと呟いた。「ずっと昔ここが戦で焼け野原だったなんて信じられんな…人間の底力ってのは本当に凄えもんだ」灯代は気の利いた返答が思い浮かばず代わりに陣内の手を強く握りしめた。この街の灯をきっと守ってみせる。

・・・「街の灯」


ごうごうと唸る吹雪に白く閉ざされる中、赤い光の筋が二つの軌跡を描く。一つは赤毛の狩人の右目、もう一つは隻眼の男の左目。二人は手負いの魔獣が残した痕跡を見逃さず膝まで埋まる雪の中を駆ける。気付くと周囲に群れの気配。獣に囲まれた狩人達は不敵に笑って得物に手をかけた。

・・・「雪中猟」


ココアもお汁粉も甘酒も、外が寒いほど美味しいものだ。器を両手で持ってふうふう冷まし、待ちきれず少しだけ啜っては舌を焼いて顔をしかめる灯代を陣内は微笑ましく見つめる。今度は俺が作ってやろうかという提案は却下された。鍛冶の火加減で温めてボヤなど出されては堪らない。

・・・「温かい飲み物」


リンクに立った途端まともに転び、周りに笑われた陣内を助け起こそうとして灯代も尻餅をついてしまった。氷の上に半日いても滑るより転ぶ方が多く、華麗に回ったり跳んだりする技は夢のまた夢だ。着膨れした姿でペンギンのように覚束なくよちよち滑る二人は「また来よう」と笑った。

・・・「スケート」


今冬初めての雪にはしゃぐ灯代は、マフラーに手袋の完全防備で一番に足跡をつけに表に出て行った。寒くてかなわんとこたつに篭城を決め込む俺はノリが悪い男だろうか。しばらくして戻って来た灯代がお裾分けです、と手に載せて差し出した小さな雪兎は、溶けないよう冷凍庫に匿った。

・・・「初雪」


ひなびた宿だが秘湯と言うだけあり、岩場の中の露天風呂は天にも昇る心地だった。熱すぎる位の湯も小雪がちらつく夜には丁度いい。仕切りの板塀越しに声を張り上げて女湯の灯代と他愛ない話をする。…もし同じ湯に浸かって背中を流して貰っていたら今頃のぼせてしまっただろう。

・・・「温泉」


「進捗はどうですか」「もう5頁も書けたぞ」夜なべして原稿に取り掛かる陣内の側に夜食のうどんを置く。あと何頁で完成か訊ねる代わりに、何か手伝える事はないかと灯代は聞いた。「ヒロインの服はもっと後で脱がした方がいいんじゃないですか?」「…横から画面を覗くな」

・・・「冬コミ」


何故この日に入るか由来は忘れたが、良い香りのうえ温まる柚子湯というのはなかなか良いものだ。陣内の腕の中から手を伸ばし、湯船にいくつも浮いている黄色い果実を捕まえては沈めている灯代のうなじに唇を寄せる。夜が最も長い日なのだから、その分夜を長く楽しみたかった。

・・・「柚子湯」


明日のためプレゼントを買い求める大勢の客を一日中さばいていた灯代は、ようやく一息ついてサンタ帽を脱いだ。世間の不景気さが信じられないほど子供も大人もうきうきと目を輝かせている。きっと私も同じなんだろうと、灯代は今日のバイト代を懐にまだ開いている店へ向かった。

・・・「年末商戦」


(ぬかった、まさかこんな時間に用足しに目を覚ますとは)気配を消して天井に張り付いていた両親は、再び息子達が寝入ったのを確認して溜息をつく。それぞれの枕元にプレゼントを置き、物音一つ立てず寝室を出て行った。もう日付が変わる頃だが、夫婦水入らずで祝杯を上げるのだ。

・・・「クリスマス」


いつ頃からか、聖なる日には町外れの礼拝堂に行き、失った人達と同じ数だけキャンドルを供えていくのが毎年の儀式になった。増える事はあっても減る事はない鎮魂の灯り、祈りの言葉と共に最後の一つを祭壇に捧げ(私は元気でやってます、心配しないで下さい)と心の中で呟いた。

・・・「クリスマス(if)」


目の前の花が山茶花か椿か訊かれ、咄嗟に判別がつかない灯代に「いい香りがする方が山茶花なんだぞ」と陣内は得意気に言う。試しに鼻を近づけると仄かに清々しい香りが漂う。「冬の匂いですね」「そうだろう?」本当は、ひたむきに咲く赤い山茶花はお前に似ている、と言いたかった。

・・・「山茶花」


鬼の霍乱というのか、風邪を貰って来た灯代に「大した事ないですから」と言われながらも陣内は昨夜から付きっ切りだった。差し出される匙から一口ずつ粥を食べた後、心細いのか布団の中から手を伸ばす。握った灯代の手はほんのりと熱く、俺に移して治るなら移して欲しいと思った。

・・・「風邪」


「ふふふ」「何笑ってるんだ?」「宝くじ買ってきたんですよ、5枚」「そうか、1桁でも当たるといいな」「絶対1等当たってますよ!そのお金で皆で南の島に旅行に行くんです!陣内様は何が欲しいですか?」「はは、そんじゃたこ焼きでも食いたいな」「…今買ってあげますよ」

・・・「宝くじ」


「乾杯ー!」賑やかな掛け声と共に、グラスがぶつかる軽やかな音が響く。大人のサマナー同士の付き合いでの忘年会とは別に、こちらは女子高生(とその仲魔)だけで料理や飲み物を持ち寄ってささやかな忘年会が催されていた。「一杯どうぞ」「お酒持ち込んじゃ駄目だからね」「うっ」

・・・「忘年会」


雑誌を紐で束ねながら、押入れの奥から発掘した文集に見入っている灯代に「掃いた所に埃を落とすなよ」と注意する。中身を肩越しに覗こうとすると、駄目ですと慌てて冊子を閉じられた。「しょうらいのゆめ:りっぱなサマナー」という作文の題が見えた気がしたが、陣内は黙っていた。

・・・「大掃除」


「今年も色々あったよな」「来年もよろしくお願いします」少し気の早い改まった挨拶が可笑しい。慌しい暮れが過ぎゆく中、年越しそばを啜りながら残り一時間の今年を味わう。日付が変わったら初詣に行きましょうとねだっていた灯代だが、早くも睡魔に重くなり始めた瞼を擦っていた。

・・・「大晦日」


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