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奇譚小函―きたんこばこ―

R-18 二次創作テキストサイト

俺の屍を越えてゆけ

踊ろう、感電するほどの喜びを!

雲を突く高さの九重楼、その最上階の風雷の間で、塔を揺るがすほどの激闘が繰り広げられていた。
はるか昔この塔に幽閉された二柱の神・太刀風五郎と雷電五郎と、四人の人間。
いずれも傷を負っていない者はおらず、剣戟は雷鳴の如く閃き、怒号は嵐と化して九重楼に響いた。

戦いを始めてもう何手目か、太刀風五郎が繰り出した鎌鼬が大槌を構える壊し屋の娘を襲った。
真空の刃で全身をなます切りにされ、血に染まって倒れるかと思ったが、壊し屋は逆に前へ駆け出すような体勢をとった。
後列に控えていた踊り屋の娘が一歩前に踏み出し、舞うような動作で扇を一振りする。
軽くあおいだだけに見えたが、扇が起こした風が気流の壁と化して鎌鼬を相殺するや否や、太刀風五郎に生じた隙を見逃さず壊し屋の娘が飛び出す。
速鳥の術のせいもあるが、重装のわりには恐ろしく素早い身のこなしで娘は大槌を振りかぶる。
振り上げる時は羽根よりも軽くなり、振り下ろす時は鋼鉄の重さと化す天ノ羽槌がうなりを上げて風神を襲った。
風よりも速い連打をまともに横面に喰らった太刀風五郎は、常人なら頭が砕けているはずの打撃にも「やるじゃねえか」と笑った。

「次はこっちの番だ!」

太刀風五郎が肩の風袋を開くと、九重楼ごと吹き飛ばされそうな竜巻が四人を襲う。
容赦ない風圧に全身を打たれながらも、踊り屋の娘は指で印を組み雷の術の詠唱を始めた。
残る三人がそれに続く。
術の併せが狙いと気付いた雷電五郎の落雷が踊り屋を撃つ寸前、四人は同時に詠唱を終え、雷術の併せが発動した。
かの神の名を取った術『雷電』の四人併せで威力を最大に増した雷光が迸り、二柱の神は攻撃の手を止めた。

「こりゃ参った、降参、降参!」

さっきまで死闘を繰り広げていたとは思えないさっぱりした口調で、風神と雷神はなおも得物を構える二人の娘を制止した。

「もうお稽古は終わり? せっかく面白くなってきたのにー」
「今日こそ八手で詰みにする、と言ったのは乱でしょう、槌を振るい出すと我を忘れるんだから」

白綱のたすき掛けも凛々しい妹を、肌もあらわな舞装束の姉がたしなめる。
踊り屋のお絶(たえ)と、壊し屋のお乱(らん)。
響きとは裏腹に物々しい字の名前を持つ彼女らは、顔立ちも気質もまるで違っていたが、同じ日に生まれた双子の姉妹だった。

「強くなってくお前等を見るのは結構楽しかったぜ!」
「あたしも五郎様たちと戦うの、結構楽しかったよ」

一族にとって、五郎達は倒すべき敵と言うよりは、ある意味で自分を鍛える師のような存在だった。
生まれながらの壊し屋と言ってもいい素質を持ち、その通り初陣から前線で槌を振るい続けてきたお乱には、この二柱に認められたい思いこそが強くなる原動力であった。
五郎達を九重楼に縛り付ける『朱の首輪』の呪いは一族と二柱が戦いを重ねるたびに薄れてゆき、そして今、『一族の力が彼らを超える』条件が満たされ、五郎達は朱の首輪からついに解放された。

「これでようやく、お二人とも天界にお帰りになれるんだな」
「うん」
「良かったね、太刀風様、雷電様……」

世代を越えて戦い続けていた相手だけに感慨深く、やりとげたという思いが四人の胸を満たした。
激しい戦いで華麗な衣装は破れ、肌は傷だらけにもかかわらず、大輪の牡丹が花開くような満面の笑顔でお絶が声をかけた。

「それでは、雷電五郎様、私達との約束覚えていらっしゃいますよね?」
「……約束?」
「私と乱が初陣の時に『わしの名と同じ術で勝ったらお前を嫁さんにしてやる』って仰ったじゃありませんか」

今まで手に入れた術の巻物の中で、あらゆる敵を葬る『七天爆』や、同じ雷の術でもより強力な『印虎姫』といった術を使えるにも関わらず、あえて『雷電』にこだわった理由だった。

「あ、あれはだなぁ、物のはずみで……」
「ひどいっ」

口ごもる雷電五郎に、お絶が悲痛な声を上げた。
さっきまでの鬼を欺く武者ぶりが嘘のようなしおらしい仕草で、顔を手で覆ってよよよと泣き崩れる。

「ええ、確かに私達は取るに足らないちっぽけな人間の娘です……でも、五郎様たちがそんないい加減な気持ちで女心を弄ぶ方だなんて思いたくなかった……ううっ」
「五郎様、そーいうわけなので天界に戻られたら、『あなたの娘達は不実な男神とは生涯交神しません』と母上の印虎ひかる様に伝えて下さいね」
「か、勝手に話を飛躍させんな!何なんだバカヤロウ!」

『風』の能力に長けた双子姉妹の母神・印虎ひかるは物静かながら苛烈な性格で知られており、敵に回すもの全てを滅ぼしかねない破壊の女神だ。
さしもの風神雷神といえど、天界に復帰して早々彼女に睨まれるのはぞっとしない。

「まあまあ、交神の話は来月でもできるだろ」
「それに神様の方に拒否権はないしな」

一連のやりとりをニヤニヤしながら見ていた剣士と槍使いがようやく仲裁に入った。
お絶は泣き真似をやめてけろりとした笑顔に戻る。

「では、私と乱の事、よろしくお願いしますね」
「よろしくねっ!」
「……女って怖えぇなぁ」

顔を見合わせてウフフと笑う姉妹に、五郎達も顔を見合わせてため息をついが、別に彼女らが嫌なわけではない。
初陣の頃から知っているだけにまだほんの子供という印象が強く、姿は一人前でも交わって子を成すという事に今一つ実感がわかないのだ。

「……それにしても、こんな短い間にむやみに強くなりやがんなあ」

太刀風五郎は剣士が手にした火の力を纏う継承刀に目をやり「まっ、あいつの手助けもあったみたいだが……」と一人ごちた。

「わしらはここでお役御免だな、あとはてめェで何とかしな。じゃあな、人間!」
「あばよ、人間! あまり仲間うちでケンカすると上からカミナリ落とすゼ!
 それと……寝る前には 歯ァみがけ! ほンじゃ、達者でな!」
「雷電様、太刀風様、お元気で!」

どこまでも人のいい台詞を残し、二柱の神は天に帰って行った。
いつの間にか雷雨は止み、風が雨雲を払った後には輝くばかりの見事な虹が青空に架かっていた。

神々は天界においてそれぞれ神域と呼ばれる住処を持ち、その神域の様子は支配する神の性格ごとに違う。
春の女神の神域は常春で一面に花が咲き乱れ、また、高位の神にもかかわらず質素な茅葺きの家に住んでいる者もいる。
太刀風五郎と雷電五郎が数千年ぶりに自らの神域に戻った時、二柱は愕然とした。
天界において全てのものは永久不変のはずであるが、この神域では数千年にわたり主が不在だったせいで神の力が弱まっていたのか、かつて荘厳な屋敷だったはずの建物は目も当てられぬほどに朽ち果て、くしゃみをすればその衝撃で倒壊してしまいそうな有様だった。

「ダメだこりゃ」
「すぐにでもあいつら交神に来るのに、こんなんじゃ通せねえな……」

朽ちた屋敷の前で二柱が話し合っているところに、隻眼の男神が訪れた。

「お久しゅうございます、お二方」

深々と頭を下げたのは、製鉄と鍛冶の神・タタラ陣内だった。
天界に復帰した五郎達に挨拶に来たのだという。
普段はくだけた物言いの彼が改まった言葉遣いになっているのは、火と風が欠かせない自分の生業のもとになった五郎達への敬意のためだろう。

「おお、陣内、お前もあいつらに解放されたんだったよな」
「はい、こうして天界でお会いできて何よりです」
「そういや、わしらを解放した剣士が持ってたあの刀、あれお前が造ったやつだろ」
「思い切った事しやがったな、バレたらわしらと同じようになってたぞ」

刀匠・剣福の渾身の特注刀にさらなる力を与えたのがこの鍛冶神であると、五郎達は見抜いていた。
神々の技術を下界に伝える事は、かつて五郎達がしたように人間への過度な干渉と見なされ、場合によっては天界を追放されかねない危険な行為だったが、タタラ陣内はあえてその禁忌を侵した理由については語らなかった。

(……俺とあいつの子孫は『約束』を果たしたんだな)

わずかな感傷が陣内の左目に滲んだが、すぐにそれを抑え、気概ある職人の顔に戻る。

「大照天様よりお知らせを頂いてこちらに参りました。 このタタラ陣内にお任せ下さい、一夜でお住居を建て直させて頂きます」
「ほぉ、そりゃ有り難い! よろしくな」
「後輩のお手並み拝見といくか!」

陣内の言葉に喜色を浮かべた太刀風五郎は、突風を起こして屋敷の残骸を跡形もなく吹き飛ばした。
天界でも一二を争う匠の手によって、どんな屋敷が建つか今から楽しみだ。

「あっ、そういえば六ツ花御前がお前の事探してたけど、何かあったのか? 隅に置けねぇなオイ」
「……その事はどうか蒸し返さないで頂きたい」

六ツ花御前の美童趣味をひょんな事から知ってしまい血も凍るような思いを味わって以来、その名を耳にしただけで寒気が走る陣内は、屋敷を完成させたら即座に自分の神域に戻ろうと思った。

双子とはいえ同時に交神する事はできないので、姉であるお絶が先に雷電五郎との交神に臨むことになった。
タタラ陣内が腕を振るって建てた新築の屋敷は、まさに天人が住むに相応しい立派な出来栄えで、来訪したお絶は眼を見張った。
派手ではないが全てが洗練された作りで、広い庭園も手入れが行き届いており枯れ葉一つ落ちていない。
その屋敷の中にある檜の香りが漂う湯殿で、雷電五郎は交神のため身を清めていた。

「極楽極楽、い~い湯っだっな~♪」

数千年ぶりかの風呂は歌でもひとつ歌いたくなるほど気持ち良い。
温かい湯に浸かって心身共に癒される心地よさは神も人も同じで、すっかりくつろいでいる雷電五郎の不意を突くように脱衣所から声がかけられた。

「雷電様、ご一緒してもよろしいですか?」

新婚の若妻のように羞じらった表情で、お絶が湯殿に入ってきた。
露出の多い踊り屋の衣装でも目のやり場に困るほどだが、乳も尻も人並み以上によく育った肢体は手拭い一枚だけで隠しきれるものではなかった。

「おいおい……何と言うか、積極的だな、お前」

あっけにとられる雷電五郎に、ふふ、と悪戯っぽく笑ったお絶はふざけて手拭いの端を捲る。

「ちょっとだけよ~♪ ……なんて」
「い、今から見せなくていいっ! そういうのは閨での楽しみに取っとくもんだろうが!」

一度に十人は入れそうな広い浴槽の中で、お絶はわざわざそばに寄って柔らかい身体を密着させてくる。
いっそここでおっ始めてしまっても……という思いつきを雷電五郎は何とか押し殺した。

「あぁ、いい湯加減……」

飽きるほど長い天界での暮らしに加え、数千年も幽閉されていたのだから、色欲などとっくに枯れていると自分自身では思っていたが、お絶の上気した頬の艶めかしさにどうしても目を奪われてしまう。
こんなに色っぽいくせにまだ生娘で、しかもそれが自分に捧げられる事を改めて思い、久しく感じたことのない昴りが雷電五郎の内に甦りつつあった。

「せっかくだからお背中流して差し上げましょうか、あなた♪」
「あ、あなたって……まいったな、おい」
「お嫁に貰って下さるんでしょう? 雷電様をこうお呼びしてはいけませんか?」

さらに大胆な事を言い出すお絶に、雷電五郎は内心たじたじであった。
まだほんの少女だった初陣の時から知っているだけに、こんなに情熱的に迫られるとなると何とも面映ゆい。

「あら、お風呂に入る時まで太鼓の撥(ばち)を持って来られて……やっぱり大事な物だから肌身離さないんですね」

腰に巻いた手拭いを押し上げている硬直したものに、お絶の繊細な指が伸びる。

「うおぉい! それは違うッ! 嫁入り前の娘が触るもんじゃねえっ!」
「雷電様? お顔の色が優れませんけど湯あたりされたんですか?」
「もともとこういう顔色だーっ!」

傍目から見れば微笑ましいじゃれ合いだったが、お絶の猛攻に雷電五郎は肝心の交神前からかなり精神力を消耗したという。

湯浴みの後、身繕いを済ませたお絶は閨で契りの相手を待っていた。
そわそわと落ち着かない気持ちでいたが、それは雷電五郎の方も同じで、いかに自然な挙動で閨に入ろうかと襖一枚隔てた廊下で試行錯誤していた。
やがて決心し、おもむろに襖を開けた雷電五郎は、そこに待ち受けているお絶の姿を見て、脳天に金タライが落ちてきたような衝撃に絶句した。

「雷電様、お待ちしておりました」
「お前、何て格好してんだ……」

お絶が身に着けているのは、透けるほど薄い絹織りの夜着一枚きりだった。
張り出した胸もくびれた腰の稜線も、閉じ合わされた腿の間の翳りも仄かな灯りに照らされて浮かび上がっている。
湯殿で見た手拭い一枚の姿よりもはるかに淫靡で、雷電五郎は思わず生唾を飲んだ。

「いつもこれを着て寝ているんですの」
(いつも……だと……!?)

お絶にとっては何気ない一言だったが、聞かされた雷電五郎の方はいやおうなしにお絶の寝乱れた姿を想像してしまう。
神聖な交神の儀で鼻血を出すという、高位の神にあるまじき醜態を晒しかねなかったが、気を取り直して夜具の上に腰を下ろし、お絶に向き直る。

「お絶」
「はい、あなた」
「……その『あなた』ってのはどうも尻の辺りが痒くなってかなわねぇな」

照れ隠しに頭を掻く雷電五郎を見て、お絶はくすりと笑う。
薄く紅を引いた口元から白い歯がこぼれる様は明眸皓歯という美人の形容の通りで、歯磨きを欠かさないお絶の真珠のようなまばゆい歯並びは、初陣の折りの雷電五郎の指導の賜物だった。

「だって嬉しいんですもの、ようやく五郎様達が許されて天に帰られて、私が生きているうちにこうやって子まで授かる事ができて……」

幽閉された五郎達の解放は、何代も前の当主とある男神とが契りの際に交わした約束だったという。
十数年後の今、約束が果たされ二柱が帰天したのは天界と一族にとってたいへんな慶事であったが、初陣の頃から五郎達を慕っていたお絶とお乱の姉妹にはそれにも増して喜ばしい事だった。
大照天昼子から一族を鍛える事を条件に恩赦を出された五郎達だったが、彼らが二柱を超えるほど強くなれなければ今でも九重楼の中だったろう。
顔を合わせる度に強く、美しく成長する姉妹の挑戦がいつしか五郎達も楽しみになっていた。

「お前みたいな別嬪と床入りなんて物凄く久しぶりだけどよ、ダメだこりゃ……とは言わせねぇさ」

お絶は長い睫毛を伏せ、ただ小さく頷いた。
大胆に色香を振りまく反面で、こんなふうに恥じらう仕草は生娘らしく、雷電五郎は早くも逸物に血が集まり出すのを感じた。
まずは接吻から始めたくて顔を近づけた時、それを察したお絶は思わせぶりに唇に指を当ててみせた。

「ちゃんと歯磨きしてるか、確かめてご覧になります?」
「言いやがったな、こいつめ」

雷電五郎は笑いながら、可愛らしく挑発するお絶の小憎い唇を奪った。

「本当に、脱がすのが勿体ねえような格好だぜこりゃ」

いつまでも見ていたいような艶めかしい夜着姿だが、この餅肌にじかに手で触れたいと思い、雷電五郎は薄絹の夜着をはだけさせて華奢な肩から豊かな胸にかけて露出させた。
背中も太腿もあらわにしながら、両腕だけは袖に通したままの淫靡な格好で、お絶は褥に横たえられる。

「腕前だけでなくて、こっちの方もよく育ったもんだ」
「あっ……!」

雷電五郎は純粋に感心している顔で、掌に余るほど育った乳房を掬い上げる。
つきたての餅のように温かく弾み、触れた指の跡が残りそうなほど柔らかい手触りだった。
淡紅色のその先端はもう熟れてふくらみ、弄られるのを待っている。
一族きっての美人姉妹は京の都では多くの男に懸想されており、付け文を送られたり男が夜這いに来る事も珍しくなかったが、五郎達に操立てする姉妹が男に肌を許した事は一度もなかった。
初めて受ける愛撫に、お絶は頬を染めて形ばかりいやいやをする。

「はぁん……」

好いた男の手で触れられるのはこんなに心地良いと知り、お絶はとろけそうな吐息を漏らした。
高まる官能に、柔肌ばかりでなく吐息までもが色づいたようだった。
お絶が気分を出してきたと察した雷電五郎は、いい匂いのする首すじに口付けた。

「ん……ふぅっ、変な声、出そう……」
「今はおまえと二人きりだ、どんな声出しても笑わねぇよ」

笑うどころか、お絶の声の甘さときたらどんな男神でも虜になりそうな響きだった。
花の上に優しく降り注ぐ雨のような愛撫に、絹の肌が汗ばみ、熱を帯びていく。
こう見えて九重楼に幽閉される数千年前までは、女神を相手にぶいぶい言わせていた……というのは本人の弁で事実かは分からないが、今、雷電五郎がお絶をあしらう手並みからすると満更嘘でもなさそうだった。

「あ、ん……あふぅっ……」

温かい掌で優しくこね回され、熱が移って桜餅のような色に染まったふたつの美乳が熱い息をつくたびに揺れる。
つんと勃ったままの乳首は初めての愛撫にどれほど感じたかを示しており、お絶は濡れた眼で虚空を見上げていた。
首すじや鎖骨には、肌を吸われ甘咬みされた痕がいくつも散らばって、これでは胸元が開いた舞装束はとても着られないだろう。

「わしの前で可愛いヘソ丸出しにしやがって、取って食っちまうぞ」
「ひっ……あぁん! だめっ」

くびれた腰や小さな臍もあらわな踊り屋の格好は、舞う身体の動きをよく見せるためで別に露出癖はないお絶だが、そう言う雷電五郎の舌が 臍に伸びると小さく息を呑んだ。
もちろん食うなどせず、形のいい臍までも愛しくてならないように舐め、浅い窪みを舌先で責める。
何にも例えられない初めての感覚に、夜具の上で艶めかしく腰をうねらせ、お絶は声を詰まらせて喘いだ。

「もう、そんな所悪戯されたら、変になっちゃうっ……」

涙混じりの訴えが含むのは、嫌悪でも苦痛でもなく、堪らないもどかしさだった。
もっと焦らしてお絶自身の口から求めさせたいが、雷電五郎の方もそこまで辛抱できそうになかった。
しっとり汗をかいた内腿を開かせると、されるがままだったお絶はいきなり身を強張らせ、見ないでと消え入りそうな声で訴えてきた。

「大丈夫だ、いきなり痛い思いはさせねぇよ」

身体は成熟していてもやはり生娘ゆえの怯えがあるのだろうと雷電五郎は思い、安心させるように恥丘を覆う柔らかな茂みを指先で撫でてやる。
戦闘時には相手を斬り裂く武器となる鋭い爪も、今は丁寧にヤスリをかけられ、いざ事に及ぶ時のために短く整えられていた。
外見こそ鬼と見分けがつかない位に厳ついが、思いやりを司る『心の水』が強く、こんな所にまで気を配る雷電五郎は、さすがに水の属性を持つ数少ない男神だった。
その指が無垢な割れ目をゆっくりと上下になぞり、徐々にお絶の緊張がほぐれてきた頃合いを見計らって、ちゅぷっと濡れた音を立てて内側へと潜り込んだ。

「あぁんっ!」
「おおっ、よく濡れてんな、嬉しいぜ」

お絶の花園は滴りそうなほどの蜜を湛え、雷電五郎の努力の成果を示していた。
首尾は上々、と笑みを浮かべて狭い粘膜の間で指を蠢かせる。
ふっくらした肉厚の花びらに埋もれた蕾を雷電五郎の指先がかすめると、お絶の肢体が感電したように震えた。

「んんっ……!」

そこから全身が蕩けてしまいそうな感覚に思わず腰をよじる。
お絶のいい所を一つでも多く見つけたい一心で、雷電五郎は指にねっとりと絡み付く襞の間を探った。
慈しむような指使いに、お絶は堪らず夜具に髪を乱し、腰を踊らせた。

「あぁ、あ……!」

蜜にまみれた蕾を可愛がられながら、はだけた胸につんと勃ったままの乳首を口に含まれて吸い上げられる二カ所責めに、お絶はついに官能の極みを迎えた。
きゅっと瞑った瞼の内側に火花が飛び、頭の中が白熱する。
生娘のお絶には他人の指で昇り詰める初めての体験はあまりに鮮烈で、布団を掴む指先まで痺れるようだった。
弾む息を何とか抑え、とろりと潤む眼で満足げな雷電五郎を見上げる。

「私……雷電様の指で、気を……」

そこまで口に出して、お絶は紅潮した美貌を手で覆った。
ずっとこうされたいと思っていたのを知られていたように思えて、もう相手の顔をまともに見られなかった。

「何言ってんだ、一回気をやったぐらいでそんなに恥ずかしがってどうする」

一回や二回では済まないという意味を暗に含ませ、雷電五郎はくしゃくしゃとお絶の頭を撫でて笑った。
互いに交神の準備が全て整った事が言わずとも感じられ、今度はお絶も抵抗せず、抱き寄せる優しい手に全てを委ねる。

「雷電様、絶を……女にして下さいませ」

身震いするほど悩ましい囁きに、覚悟を決めてそう言った当人のお絶よりも雷電五郎の方が顔から火が出るようだった。
お絶の媚態のせいで痛いほどに勃ち上がった肉根を割れ目にあてがい、少しでも楽に進めるよう溢れ出る蜜を馴染ませる。
割れ目を男の先端でぬるぬると擦られる、もどかしい刺激にお絶は思わず腰を浮かせてしまった。
張りのある白い太腿を抱え上げいよいよ腰を進めると、お絶の指が回らないほどの太さを誇る自前の撥(ばち)が、滑らかではあるがとても窮屈な秘め処に潜り込んでいった。
ゆっくりと肉体を押し拡げられるお絶の喉から、切なくも苦しげな声が漏れた。

「そぉら、もう入ったぞ」
「はぁ……あ……ぁっ……」

脈打つ昂りが、温かな襞々の中に根本まで填まり込んだのをはっきり感じ、破瓜の痛み以上に結ばれた事が嬉しいのか、お絶は目尻に涙を光らせながらも満たされた表情をしていた。
彼女の操の全てを手に入れたというのに、雷電五郎はなおもお絶の身体を労り、すぐに腰を使う真似はせずに初心な花芯が自分の太さに慣れるのをしばらく待っていた。
傷口が開かないか確かめるように、お絶の方が恐る恐る身動きすると、剛直を包み込む濡れ襞がぬちゅ、といやらしい音を立てた。
ぴりっと走る微かな痛み以上に生々しい、粘膜の摩擦がもたらすぞくぞくする感覚にお絶は吐息を漏らし、相手の肩にしがみついた。

「さ、こっからはもう気持ち良くなるだけだ」

裸体に薄絹を羽織っただけのお絶を両腕で包むようにして、雷電五郎は優しく言葉をかける。
無防備そのものの姿で、奥の襞までいっぱいに開かれた割れ目に逸物を根本まで受け入れている様は大層淫猥な眺めだった。
それをゆっくりと引き出せば白い喉を反らし、深く腰を入れると息を詰めて入り口を締め付けてくる。
抽挿されるたびにお絶の唇から漏れるかすかな声に苦痛はなく、早くも艶を帯びていた。
見事な腰つきで舞う優れた踊り手だけに、お絶の秘め処はとても居心地が良く、ずっとこうして繋がっていたいと思うほどだった。

「あ、あぅ……うぅん……」

男を悦ばせるための襞々を男根でくまなく摩擦され、元々感度の良いお絶はどんどん身体の芯が熱くなっていく。
仰向けになった身体の上で、突かれるのに合わせて美乳がぷるぷると揺れ雷電五郎の目を愉しませた。
お絶はよがりながらも、相手の優しさに応えたくて自分からも柔らかな身体を擦り付けてくる。

「ごめんなさいっ……私ばっかり、き、気持ちよくなって……ひあぁ!」
「こんな具合のいいモン持ってるくせに、そんな事言う悪い口はこれかぁ?」

しおらしい事を口にするお絶に、彼女自身の蜜で濡れ光る指を戯れに咥えさせる。
艶を増した唇は拒まず指を受け入れ、命じられてもいないのに自分を弄んでいたその指をしゃぶり出した。
何やら口淫の真似事をさせているようで、お絶の舌が生温かくまとわりつく感触に一層情欲を燃え立たせた雷電五郎は、我を忘れて激しく突き込んでしまう。
暴れる雄根に最奥を突き抉られ、お絶は悶えながらも唇と舌の奉仕を止めなかった。

いつしか、屋敷の外では小雨がぱらぱらと雨音を立てて降り始め、やがてそれは閨で二人が睦み合う秘めやかな音をかき消すような土砂降りとなった。
情交はますます激しさを増し、閨の空気は二人の体温でむせ返りそうに熱くなる。
お絶の火照る肌から立ち上る甘い匂いに酔った雷電五郎は、白桃のように豊満な尻を掴んで腰を上向かせ、より深くへと突き入れていた。

「お絶……!」
「いいっ、雷電様、いいのっ」

口付けと指舐めに紅が落ちてもなお肉感的なお絶の唇は、喘ぎと共に何度も雷電五郎の名を呼び続けていた。
霧雨を浴びたように柔肌を濡らす汗が玉になって滑り落ちる。
粘ついた蜜の音に絶えず耳を犯されても、こんなに濡らして恥ずかしいと思う余裕ももうなく、女の部分をくまなく暴かれてお絶は追い上げられていった。

「んはあぁぁっ!」

この上なく力強い最後の一突きにしなやかな腰が跳ね、内部の器も一際きつく締まった。
嬌声を張り上げ、極楽往生を遂げたお絶の胎内へ鉄砲水のように勢い良く精が放たれる。
あまりに多量で結合部から溢れてしまい、互いの体液にまみれた会陰をつたい流れるものの熱を感じてお絶は切なげな溜息をついた。

(今ので赤ちゃんができたのかしら……)

自分の腹を痛めて産む事はないと知りながら、お絶はそっと下腹部に手をやっていた。
苦悶と紙一重の悦楽の極みを過ぎ、穏やかな表情で情交の余韻にたゆたうお絶は天女にも劣らない麗しさで、精を吐き出したばかりだというのに雷電五郎の下腹はまた熱を持ち始めた。

それから何刻経ったのか、外ではまだ雨音が止まず、閨の中でも雲雨の交わりは続いていた。
雷電五郎は満開に咲き誇る華のようなお絶を離し難く、久々の交合に色情を掻き立てられたせいもあり、どれほど交合っても足りないほどだった。

「あ、ああっ、またいっちゃう、もうだめっ……!」

駄目と言いながら、お絶の細腕は雷電五郎の背に回って離そうとせず、それどころか自分から腰を使って相手を求めていた。

「へへ、お絶は好きもんだなァ、わしと似た者同士だ」
「やぁん……だって、気持ち良すぎるのっ……」

お絶の淫蕩さを口ではからかっても、こんなに夢中で求められて嬉しくないはずがない。
雷電五郎は柔らかな女体を抱きすくめ、なおも子種を仕込もうと、ひくひくと疼く子壷をめがけて突き上げる。
一突きごとに腕の中でお絶が仰け反り、官能に濡れた声を上げた。

「はぁあ……もう、堪忍してぇっ……」

可愛い新妻の嬌態に目尻を下げる雷電五郎は、この後お絶に精根尽きるまで搾り取られ、仕舞いには同じ台詞を吐く羽目になるとは夢にも思っていなかった。

明け方に雷雨は上がり、洗われたようなまっさらな青空が広がっていた。
雷電五郎が大きく伸びをしながら布団から身体を起こすと、寄り添って眠っていたお絶がその動きで眼を覚ました。

「すまん、起こしちまったか」
「ん……、おはようございます、あなた」

昨夜の連戦で頑張り過ぎたせいで腰が痛いが、寝起きのお絶の甘くかすれた声に現金にもまた欲情しそうになる。
生娘だったお絶は自分よりも疲れ果ててぐったりしているかと思ったが、それどころか一段と肌艶が良くなり生気に満ちた様子だった。
布団から出ようとしたお絶がまだ一糸纏わぬ裸身でいるのに気付き、誰に見られるわけでもないが雷電五郎は慌てた。

「おい、ヘソ隠せ! 風邪引くぞ」

自分もいつも虎皮の腰巻ぐらいしか身に着けていないのに、とお絶は可笑しくなってそれこそ腹が痛くなるほど笑ってしまった。
お絶につられて雷電五郎も笑い出し、二人の幸せな笑い声が神域の青空に響いた。

死後、お乱と共に姉妹で氏神となり天に上ったお絶は、雷電五郎と仲睦まじく暮らした。
雷神が雨を降らせた後には彼女の扇が雲を払い、天女となったお絶が青空を渡る時には虹の橋が架かるのだと、京の都ではまことしやかに語られたという。

(終)

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