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奇譚小函―きたんこばこ―

R-18 二次創作テキストサイト

俺の屍を越えてゆけ

風の歌いまだ絶えず


神域に一歩足を踏み入れると、若葉の香りを含んだ爽やかな風が感じられた。
壊し屋・お乱とその双子の姉が生まれた月、皐月の薫風は木々の緑をさやさやと鳴らし、来訪者を歓迎するように心地良く頬を撫でる。
自らの手で解放した二柱の神の住処を交神のために訪れたお乱は、初めての景色に胸を躍らせながら歩を進める。
広大な庭園の中を歩き回り、屋敷が見えてきた時、どこからか吹いてきた一陣の突風が、お乱の蝶結びのたすきを揺らした。
淡緑色の風は一塊になって人の形を作り、それは見る間に額に角を生やし大きな風袋を抱えた壮漢の姿に変わった。

「待ちくたびれたぞ、お乱!」
「太刀風様っ」
「ほれ、わしに掴まれ! 屋敷までひとっ飛びだ」

空中に浮かぶ太刀風五郎は笑って手を差し伸べる。
お乱は顔を輝かせ、躊躇いもせずその大きな手を取った。


「あぁ、楽しかった~!」

再びお乱の足が地に着いた時は、既に夕刻近かった。
空を飛ぶなどもちろん生まれて初めてで、すぐ地上に降りてしまうのが勿体無く、太刀風五郎にねだって何周も大空を飛び回ってもらったのだった。
風となって飛ぶのはたいそう気持ちよく、心行くまで空の散歩を堪能したお乱はご機嫌だった。
普通に歩いて行った方が早く屋敷に着いただろうが、そんな些細な事は考えつきもしなかった。

「全く、お前ここに何しに来たか分かってんのか? これでも期待してんだゼ」

苦笑する太刀風だったが、お乱の喜ぶ顔見たさに年甲斐もなくはしゃいで急上昇や錐揉み飛行を披露したのは人の事を言えなかった。
自分の腕から身を乗り出し、横を飛ぶ小鳥に手を振るお乱の無邪気な様を思い出すと、こんな娘が自分達を負かして解放したとは今でも信じられない。

「もちろん、これからいっぱいイイ事するんでしょ? あたしの交神の番になるのがずっと待ち遠しかったんだから!」
「ほォ、それじゃ確かめてみるか」
「きゃあ!」

小生意気な口を利くお乱をひょいと肩の上に担ぎ、豊満な尻をぱしんと叩いてやる。
露出の多い舞装束姿の姉と比べても負けたものではない、着物越しにも分かるはちきれそうな量感が掌に感じられた。

「はははは、言うだけあってこりゃまた立派なケツしてやがるぜ」
「も、もう~! いきなり何するのよ」
「これだけいい尻なら子作りも十分務まるな」
「太刀風様の助平っ! すかんタコ!」

肩の上でじたばたするお乱だったが、笑い混じりの罵声のせいで心底嫌がっていないのが知れる。
屋敷に向かう二人を橙色に染めながら、ゆっくりと日が傾いていった。


夜が更け、胸を高鳴らせながら太刀風五郎を待つお乱は、頬の火照りを冷まそうと閨の障子を開けて夜風に当たっていた。
一族の皆と離れ、こうして何をするでもなく一人でいると、今までの色々な出来事を思い出してしまう。
姉と一緒にイツ花に連れられて家に来た日の事、初陣の時の事、手強い髪を倒した事……
とめどない回想の最中、太刀風が閨に入ってきた足音に気付いて我に返り、お乱は少し照れくさそうな顔をした。

「何考え込んでたんだ? やっぱり交神やめとくってのは今更ナシだぜ」
「違うよ、太刀風様と初めて会った時の事、思い出してたの」

初めて九重楼で五郎達と戦った時、初陣で経験が少なく、まだ打たれ弱かったお絶とお乱は二柱の猛攻にすぐさま瀕死になりやられると覚悟したが、仲間の回復が間に合うまで五郎達が攻撃の手を止めてくれた事をお乱は懐かしそうに話した。

「あの時から五郎様達ってお優しいと思ったのよねー」
「……さァてな、そんな事あったっけ」

覚えていないのか誤魔化しているのか、わざとぶっきら棒に言って太刀風五郎はニコニコしているお乱を夜具の上に座らせた。
これからお乱と男女の契りを結び、明くる朝になれば儀式は成り、一月後には子が生まれるのだと思うと、自分でも不思議な気持ちだった。
お乱を女として見ていないわけではなく、交わる前からあまりに親しい仲になり過ぎたせいで、かえって情を交わす事が今更のように思える。

「太刀風様はどういう仕方がお好きなの? 本手? 茶臼? それともお口でするとか、おっぱいで挟むとか……」
「どれもお好きだけどよ、どっからそんな知識仕入れてきたんだお前ってやつは」
「ふふふ」

先に交神した姉から閨でのあれこれを聞いていたらしく、お乱は耳年増な事を言う。
先月の交神後、満足げな顔をしながらも足腰がフラついていた相棒の姿を思い出し、あっという間に成長する人間を侮らない方がいいと太刀風は改めて実感したばかりである。
なにせ情交自体久しぶりなので、頭の中で手順を確認しようと記憶を手繰っていると、唐突にある女の姿が浮かび上がった。
記憶の中で妖艶に微笑む日輪の女神・太照天夕子は、掟を破った五郎達を九重楼に幽閉した張本人だった。
どんな女神よりも気高く優雅で、それと同じ位厳格な太照天夕子と太刀風五郎がかつて男女の仲にあった事は天界でもごく一部の者しか知らないが、今回、太刀風が交神の儀を引き受けた事は当然夕子の耳に入っているはずだった。

(……すまんな、夕子)

人と交わるのも朱点を討つための計画のうちなら、昔の男にいちいち悋気を起こしてはやっていけないだろうが、女神の女心を察し、太刀風五郎は心の中で夕子に謝った。
未練のせいで中途半端な真似をしたら、それこそ両方に失礼だろうと思い、腹を決めてお乱をまっすぐに見つめる。

「なあお乱、わしは幸せもんだな、天界に戻れた事よりもお前と契る方がずっと嬉しいって思……」

言葉の途中で、春風に舞う花弁よりも柔らかな感触が太刀風の口をふさいだ。

「!!」
「これがあたしの気持ちよ、太刀風様」

風の能力に長けたお乱らしい、相手の虚を突く見事な先制攻撃だったが、初めての接吻に彼女の心臓は破裂しそうだった。

「恥ずかしいけど……全部、見ててね」

呆気に取られる太刀風を前に、思い切って自らの手で帯を解くと、ふわりと夜着が足下に落ちた。
お乱は一糸纏わぬ格好になり、十分に成熟したその肢体を相手の目に晒す。
手を伸ばせば触れられる近さで、桜色の乳暈も初々しい、たわわな美乳が動悸に揺れている。
優美な腰の曲線につながる見事に張り出した尻は太刀風のお墨付きの通りの肉感で、まだ男を知らないとは思えないほどだった。
肉付き良く柔らかそうな太腿は、掌を押し返してきそうな弾力に満ちていた。
大槌を振り回すお乱の捲れた裾から覗く内腿は、露出の多い姉とは違う意味で目のやり場に困るのだった。
初めて触れてみると思った以上に肌理が細かく、しっとりと掌に吸い付いてくるような感触に、太刀風は思わずほう、と溜息を付いた。

「全く、いい女になりやがって」

太刀風は高価な陶器でも扱うような手つきで、お乱の優美な肢体をゆっくりと布団に横たえる。
男の手で素肌に触れられ、反射的に身を固くするお乱だったが、吹き荒れる春の嵐のような愛撫に翻弄され、生娘の身体が蕩け出すのに時間はかからなかった。
貝殻のように形の良い耳朶に優しく息が吹き込まれ、くすぐったさにびくりと震える。
初陣の時よりも緊張して強張っていた全身から力が抜け、次第に柔らかく、軽くなっていく。
今日はじめて知った、身体がふわりと風に包まれ浮き上がるあの感覚と良く似ていたが、それよりもずっと気持ち良い。
もっともっと高い所まで導いて欲しいと、お乱は太刀風の大きな手を握って指を絡めた。

姉から聞いた『乳房で挟んで悦ばせるやり方』を実践してみたいと思っていたが、その意気込みも空しくお乱はされるがままになっていた。
太刀風の手管は決して強引ではないが、好い所を全て知っているように触れてくる指が、唇が、お乱の中の情欲の炎を絶えず煽ってくる。
ごつい指からは想像もつかない繊細な力加減で先端をきゅ、と捻り上げられ、鮮烈な刺激に強張るお乱の爪先が布団にまた新しい皺を作った。

「いつまでもこうしてても、飽きねえな」

そう言って、太刀風はお乱が呼吸するたびにぷるぷると揺れる二つの乳房を面白そうに見下ろしている。
夕子は閨の中でも乱れる姿を晒すのを厭い、堅牢なほどに重ねた衣のまま事に及ぶのが常だったが、自分の手で感じるままに反応を示す女体を目にして、はしたないと無粋な事を考える男などいるものか、と太刀風は思った。
たおやかな腰の稜線を撫で下ろす掌に、甘い色を帯びた吐息が漏れる。
腰が砕けて脱力したお乱が、太刀風の胸にもたれかかってきた。
その眼は早くも物欲しげに潤んでおり、太腿をもどかしそうに擦り合わせている。
ずっと羽の先で触れるような愛撫に煽られるばかりで、もっと強い刺激が欲しくて仕方ないのだろう。
すぐにでも欲しいように濡れた眼で見上げてくるお乱だったが、まだ余裕の体の太刀風は少し焦らしてやりたくなり、笑いながら「もうちょっとお預けだ」と押しとどめた。

「やぁんっ……」

我慢できなくて、はしたないと知りながらお乱は割れ目に指を伸ばしていた。
少しだけで収めるつもりが、さんざん焦らされて熟れた粘膜に触れたが最後、理性は脆くも崩れてどうしようもなくなり、ひたすら指で蕾を擦り立てる事以外何も考えられなくなる。
いつしか太刀風五郎は手を休め、夢中で自慰に耽る生娘の恥態を面白そうに見下ろしていた。

「初夜の床で一人遊びされちゃ、亭主の立つ瀬がねぇなぁ」
「あ……やあぁっ! み、見ないでっ……」
「いやぁイイ眺めだ、眼福、眼福」

さすがに剛胆なお乱も、こんな恥ずかしい所を見られては真っ赤になって取り乱す他にないが、それでも手淫を止められないほどの情欲が肌の内で燃え上がっている。
太刀風の視線に晒されながら、もう自分のものでないように快楽を追う指は止まらず、むしろ相手に奥まで見せつけるように無垢な割れ目を広げながら、お乱自身に辱めの限りを尽くした。

「あぁ、あたし、太刀風様に見られてるのに……だめぇ! もう、だめになっちゃうぅ……っ!」

むっちりした腿を擦り合わせ、溢れた蜜で後ろの門までしとどに濡らしながら、やがてお乱は自分の二本の指で気をやった。
何とも悩ましい一人遊びの一部始終を見届けた太刀風は、あまりの事に朦朧としているお乱の手を持ち上げ、生温い蜜にまみれた指を舐った。

「あぁ……」
「自分だけ気をやっちまういけない嫁には仕置きをしないとな」
「な、何するの!? んあぁっ」

人の悪い台詞とは裏腹に優しい手つきで、太刀風五郎はお乱の瑞々しい太腿を開かせ、その奥に顔を近づけた。
先程の指遊びで咲きほころびた花園は、生娘ながら一丁前に発情した女の匂いを立ち上らせている。
源泉に熱い息がかかり、お乱はくすぐったさと恥ずかしさに腰をよじった。
太刀風は躊躇いもなく、ぬるぬるに蕩けた秘処に口付けた。

「だ、駄目ぇ、そんな所に……っふぅぅ!」

折り重なった花びらを舌でなぞり、合わせ目からちょこんと頭を出した蕾を唇で捕まえる。
花びらを舐め上げられ蜜を啜られるたびに、お乱は布団の上で腰を悶えさせ、すすり泣くような高い声を上げた。
仕置きどころか女を泣いて悦ばせるような奉仕であったが、自身の指で限界まで弄られて敏感になった蕾には、唇で吸われる優しい刺激も辛いぐらいで、お乱は総身を桜色に染め、身悶えながらもう一度気をやった。

「はぁっ……はぁっ」

荒い息をつき、眼を潤ませるお乱はもうすっかり女の表情をしていた。
二度も昇り詰めて腰に全く力が入らないというのに、お腹の奥が疼いて仕方なく、自分の女の部分がこの方を欲しがっているのだとお乱は痛いほど感じていた。
太刀風もいい頃合だと判断し、腰巻の下で窮屈そうにしているものに本懐を遂げさせようと前を捲る。

「わ……何、これ……大っきい……!」

途端、お乱のまん丸に見開いた眼は今まで見た事もないそれに釘付けになった。
それこそ太刀のように反り返っており、威容に怯みそうになったお乱だったが、この方のものだと思うと未知のものに対する怖さは薄らいだ。

「ちょっとばかり痛い思いさせるけど、堪えてくれよ」
「うん……」

素直に頷いたお乱だったが、太刀風に腰を抱えられ、その巨体に見合った太さの男根が未通の秘処にめり込んできた時は、屋敷中に響き渡るほどの悲鳴を上げた。
お乱の身体はどこも柔らかくしなやかだが、そこだけは本人の意志に反して拒むように狭く、力ずくで押し通るしかなかった。
戦いで負う傷とは違う、胸が詰まるような痛みと圧迫感に、自ら望んだ事ではあったがお乱は悲痛な声を上げて太刀風の背中にしがみついた。

「うっ……く……」
「もう大丈夫だ、楽にしてろ」

身体が裂けんばかりの破瓜の苦痛を堪えながら、決して「痛い」とは訴えない健気さに、太刀風は一層愛しくなる。
逞しい肩にすがって荒い呼吸を繰り返しているお乱の身体を、貫いたままそっと抱き起こす。
胡座をかいた太刀風の膝の上に跨って抱き合う格好になり、お乱は胎内を穿つ肉柱がより奥に填まり込むのを感じてぞくぞくと身震いした。

「んんッ……!」
「わしのに慣れるまで、こうしてずっと抱いておいてやるからな」

お乱はその言葉に甘え、男を受け入れたままなるべく身体の力を抜いて息を整えようとする。
慣れていない生娘には持て余す程の代物だったが、しばらくするうちに太刀風の胸に身体を預けるお乱の吐息が、苦しげなものから徐々に切ない響きに変化していくのを感じ取った。
さっきまで辛くて仕方なかった胎内を一杯にするものの存在感をもっと感じたいように、お乱が無意識に腰を揺すって豊満な尻をぷりぷりと揺らしているのは、大層淫靡な眺めだった。

「ほォ、さっきまでヒイヒイ泣いてたのにもう尻を振って楽しんでやがるな」
「こ……これは、違うのぉっ、お腹の奥が、変な感じでっ……」
「はは、どんな感じだお乱? わしのがあんまり悦すぎて、疼いてどうしようもねェのか?」

図星だったらしく、卑猥な言葉に耳まで赤くなったお乱は、堪らず濡れた粘膜で肉太刀をきゅうっと根本から締め付けた。
早くも男の悦ばせ方を会得し出しているお乱に、太刀風はお返しするように軽く腰を突き上げてやった。

「はぁあんっ!」

姉と同様に感度の良いお乱は、しなやかな背を反らして初めての肉交に全身を震わせる。
その好ましい反応に、さすがにいい尻をしているだけの事はあるな、と太刀風は言葉に出さずいささか好色な感心の仕方をした。

「太刀風様、ぎゅって抱き締めてて……身体ごと、どこかに行っちゃいそうで、怖いの……」

一人遊びとも、唇での愛撫とも違う、蕩けた肉体の奥をじかに突き上げられる刺激。
戦場では「怖い」など口にした事もないお乱が、初めて味わう強すぎる快楽に翻弄され、怯える幼子のように夢中で縋り付いてくる。
官能に上気して玉の汗を浮かべた美乳が太刀風の胸板に押し付けられ、形良い二つの膨らみが柔らかく潰れた。

「よしよしお安い御用だ、ずっと離さないでおいてやるから、痛い思いをした分悦くなれよ」

掌に余るほど豊満な桃尻を掴むと、むっちり張った肉の手応えと汗ばんだ肌の感触が伝わってくる。
立派な尻を両手でしっかり支え、何度も小刻みに奥を突き上げてやると、そのたびに柔らかな尻にきゅっと力が入るのが分かった。

「あ、あっ……あっ……!」

いつも豪気で快活なお乱だけに、眉を寄せて瞳を潤ませ切ない息をついている姿は落差も加わってなおさら艶かしく、お乱が初めて晒す媚態に太刀風も否応なく奮い立たされる。

「んぁっ! す、すごいのぉっ…… ……え?」

天にも昇るような心地でいたお乱だが、違和感にふと我に返り周囲を見回してみて初めて、太刀風に抱かれたまま実際に宙に浮いている事に気付いた。
繋がったままの二人を風が包み込み、天井近くまで浮き上がらせている。

「お、落ちちゃう! 太刀風様、下ろしてっ」
「お……? おおっ、悪りぃ! つい興奮し過ぎてな、スマンスマン」

無意識に風を放出してしまった太刀風だったが、驚いてしがみつくお乱に少し悪戯心を刺激され、このまま続けるのも一興だとなおも空中浮遊をやめない。
お乱の身体は柔らかく抱き心地が良く、ずっとこうしていたい程だったが、不安定な空中で緊張しているせいか、一層きつく締め付けてくる感触が太刀風を急き立てる。
ふっくらと色づいた花襞の間からは天然の蜜が惜しげもなく分泌され、勢い良く出入りする太い肉柱を根元まで濡らし、抽送の潤滑さを増していた。
太刀風が力強く腰を突き上げ、お乱の桃尻が跳ね上がるたびに二人の肉がぶつかる音が響き、一瞬送れてぬめった蜜の音がそれを追う。

「あっ、いやぁ、奥……奥に当たってるぅ……!」
「ん? 痛てぇか? 抜いちまうか?」
「だめぇ……! もっと、もっと奥まで……太刀風様のがほしいの」

男の先端で子壷の口を小突かれ、捏ね回されるむず痒いような性感が、先程まで生娘だったお乱をいよいよ乱れさせる。

「何これ、何かくるぅっ……い、イっちゃうの、私……っ? んぁ、あぁぁっ!!」

暴走しつつある女体に発破をかけるように、柔肉を抉り襞々を嬲る男根の摩擦に追い上げられ、自分が何を口走っているかも分からないほどの快楽に呑まれていく。
お乱は太刀風の胸にしがみ付きながら、空中にいながらどこまでも堕ちていくような感覚に全身を震わせて果てた。
咥え込まれていた肉太刀も、苦痛と紙一重の強い締め付けにびくんびくんと震え、限界を訴えていた。

「わしももう辛抱堪らん……! お乱、おめェの中に出すぞっ!」

太刀風はお乱の尻をぐっと掴み寄せ、下腹に力を込めて溜まりに溜まった情欲を思い切り放った。
爆発するような勢いで迸る精を胎内でじかに感じ、お乱は最奥に子種を浴びせられながらひぅっ、と息を漏らした。
最後の一滴まで放ち終えたと同時に、太刀風の頭を大槌で思い切り殴られたような衝撃が襲い、目から火花が飛んだ。

「!! ……ぐ、ぅあ」

思いのほか昂ぶってしまったようで、文字通り舞い上がり過ぎて真上の天井に頭をまともにぶつけたのだった。
激しい情交に朦朧として胸に顔をうずめているお乱は、そんな苦悶など知る由も無い。
それでも太刀風は歯を食いしばって堪え、気をやった直後の心身に鞭打って風を制御し、お乱を抱えたまま下の布団に軟着陸した。
二人一緒に墜落してせっかくの余韻をぶち壊しにせず済んだのは、太刀風の男の意地の為せる業だった。
やっとの事で息を整え、頭に出来たこぶをさすりながら、太刀風はそっと身体を離す。
もっと頂戴と子壷がねだっているように、奥がひくひくと蠢いているのを亀頭の先に感じながら、いささか未練げにゆっくりと抜き出した。

「太刀風様……」
「おお痛てぇ……おいお乱、すぐに起きて大丈夫かよ」
「うん、……すっごく、よかったよ」
「そりゃどうも、お前を乱れさせた甲斐があるってもんだ」

あまりに率直な感想に、さっきまでお乱を散々よがらせていた太刀風の方がかえって照れ臭くなってしまう。

「今からどんな子が生まれるか楽しみだぞ」
「私は、太刀風様みたいな強くて優しい子だったら嬉しいな」

お乱と寄り添って布団に横たわりながら、しばし他愛の無い話をする。
情事の後の睦言というのも久し振りで、ささやかではあるがこの上なく幸せなひと時に浸る太刀風は、しみじみと口にした。

「現金な話だけどよ、お前とこうしていると昔わしらがした事は、やっぱり間違っていなかったと思えるぜ」

ずっと昔、彼らが授けた知恵で人間同士が殺し合いを始めたのを見て絶望した時の話をお乱は知っていた。
何代も前の先祖が黄川人から聞いた伝承はその後一族に代々伝えられ、その話を父から聞かされた幼いお乱とお絶は、きっと自分達で優しい神様達を救おうと思ったのだった。

「あん時はそりゃもうマジで落ち込んで、いっそ塔のてっぺんから身投げでもしようかと思ったさ」

そう笑って冗談にできるまで、五郎達にどれほどの後悔と苦悩があったかを思い、お乱は表情を陰らせた。

「おいおい、そんな顔すんなよ、もう済んだ事だ、お前らが終わらせてくれたんだ」
「……それじゃあ太刀風様、今までの辛さも寂しさも全部チャラになるぐらい、今夜はいい事しよう?」

そう言うお乱は太刀風が今まで見た中で一番の笑顔と共に、またもや不意打ちの口付けを見舞ってきた。
大槌の打撃よりもはるかに効く、あまりにも優しい一撃に辛さも寂しさも打ち砕かれ、かなわねェな、と太刀風は悪戯なお乱を抱き締めた。


太い腕枕で熟睡しているお乱の健やかな寝顔を横で見ながら、太刀風は大昔の事を思い出していた。
それはある雪の日の事だった。
板切れを寄せ集めただけの粗末なあばら屋に、二人の幼い姉妹が身を寄せ合っていた。
親に死なれたのか、小屋の中には幼子二人だけで食べ物も火の気も何も無い中、二人の姉妹は飢えと寒さに死にそうになりながらも、破れた壁から容赦なく吹き付ける吹雪から必死にお互いを守ろうとしていた。
流行り病や飢饉で死ぬのが日常茶飯事の中、たかが幼子の命など塵芥に等しいちっぽけなものだったが、これに気付いた者がいた。
雲の上から真っ白な地上を見下ろしていて、凍える姉妹の姿に目を留めた太刀風は、思わず雲から身を乗り出した。
地上に飛び降りようとする太刀風を、背後から雷電が引き止めた。
人間と関わり合いになるばかりでなく、風や火を御する知恵を勝手に人間に与えるような真似が他の神に知れればどうなるか知れたものではない。
馬鹿な真似はよせと止められるかと思ったが、雷電はこう言った。

「何抜け駆けしてんだコラ、お前ばっかりにいい格好させるかよ」
「……がっはは! んじゃ、後で夕子に言い訳する大役はお前に任せたぜ!」
「馬っ鹿野郎! はははは!!」

こうして、『放っておけなかった』という至極単純な理由から禁忌を犯した二柱は九重楼に幽閉され、それから間もなく、飢えと寒さで死ぬよりもたくさんの人間が二柱の授けた知恵のせいで死に、長い長い時が過ぎた。
あんまり昔の事で助けた姉妹の顔ももう思い出せないが、お乱とお絶に初めて会った時、太刀風はなぜかその時の出来事を思い出したのだった。

「……間違っていねえよな、お前らがやってる事もよ」

一人ごちながら、太刀風はお乱の前では決して見せなかった顔になる。
天界に復帰してから、太刀風と雷電はある一つの不安を抱えていた。

――朱点を倒した後、一族の者はどうなる?
――神の血を引き今や凄まじい力を持つ一族は昼子様にとって無視できないはず、そのまま野放しにするのはありえない。

五郎達の耳に入ってくる他の神々の噂からも、一族を利用する最高神の思惑は誰しも気がかりなようだった。
呪いが解けた一族は、神にとって代わろうなどとは考えず、ただの人間として生きる事を望むだろうが、良かれと思ってした事が必ずしも良い結果を招くとは限らないと太刀風はよく知っていた。
最悪の場合、用済みになったこいつらやその子孫を天界が消そうとしたなら、もう一度幽閉されるか粛清を受ける事になろうとも、自分も雷電も懲りずに人間の味方をするだろうと太刀風は思った。

「どうせならもっと強くなっちまえ、理不尽な運命を叩き潰せるぐらいに」

太刀風がそっと囁いた言葉に、お乱は夢の中から微笑みを返した。




二柱の旧き神が天界より地上を、否、そのさらに下の地獄を見下ろしていた。
薄紅色の雲の隙間から、地獄の最下層にそびえ立つ修羅の塔を上る人間たちの姿が、手を伸ばせば触れられそうなほどはっきりと見える。

「見てるか、雷電」
「おう」
「あいつら、ついに殴り込む気だな」
「ようやくだな、太刀風」
「……九重楼にいた時よりも、長い年月に思えるぜ」
「は~、俺の方が緊張してくらァ」

二柱の横から身を乗り出しているのは、死後に氏神となり昇天したお乱とお絶の姉妹だった。
透けるような羽衣を纏い、手にはそれぞれ大槌と扇を携えている。

「大丈夫です、私達と五郎様達の子孫ですよ?」
「何があったって、乗り越えられないはずがないんだから!」

愛しい伴侶たちの言葉に、二柱は「そうだな」と優しく返す。
いくつもの高い障壁を乗り越えて、いくつもの同族と鬼どもの屍を越えてきた彼女ら一族が、何度挫けても何度でも立ち上がってきたのは、五郎達もよく知っている。

「『七光の御玉』使わねぇかな、こんな時ぐらい親を頼っても罰は当たらんだろ」
「だめよ! 神頼みじゃなくて自分の力で勝つのに意味があるって教えてくれたのは五郎様達よ」
「……そうだよな」
「『終わった』ら、もう俺らは本当にお役御免だもんな」
「あいつらはこれから、自分の力だけでやってかなきゃいけねぇもんな」

彼らの血を引く末裔の姿を、二組の氏神と男神は感慨深く見つめていた。
戦いの果てにどんな結末が待ち受けていようとも、彼らを最後まで見守ると決めたのだ。
一族が打ち勝つべき相手――それは鬼でも神でもなく、もっと巨大な『運命』そのものなのだから。

「いつか、きっと」

忌まわしい因縁から解き放たれ、皆が本当に笑える日が来ればいい。
血よりも呪いよりも強く強く受け継がれてきたその願いは、もうじき叶うだろう。

(完)

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